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やさしくない公共(中) 良いことを「強制」する それと見えない形の権力

2013年8月14日

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席を譲るのは「良いこと」だが…=横浜市営地下鉄

席を譲るのは「良いこと」だが…=横浜市営地下鉄

 「幸福であることを夢見られるぐらいの生活が保障される。それが幸福追求権ではなかったか」

 横浜市中区の簡易宿泊所街・寿町で、路上生活者の支援を手がける寿支援者交流会の高沢幸男事務局長は、憲法にある生存権、幸福追求権の意味を考える。

 しかし現実は…。「1997~98年ごろ、野宿者が一気に増えた。その層も変わった」。それまでは、日雇い労働者などが次の仕事に就くまでの「つなぎ」として路上で暮らす例が一般的だったが、近年は長期化・固定化するようになったという。その上、路上生活者の分布も、横浜・川崎から県全域へと広がった。

 グローバリゼーションによる国内経済の空洞化、失業者の増加が背景にある、と高沢は考えている。



 経済のグローバル化と規制緩和を推し進め、90年代に「新自由主義の優等生」と称されたのがアルゼンチンだった。だが、必ずしも一人一人に幸福をもたらしたわけではない。失業率は95年、20%にまで上ったといわれている。

 2004年のアルゼンチン映画「今夜、列車は走る」(ニコラス・トゥオッツォ監督)はその「陰」を描いた物語の一つだ。鉄道の民営化や不採算路線の廃止に伴い、自主退職を迫られた5人の鉄道員は、地域からも家庭からも疎外されていく。「失業は経済的な打撃を与えるだけでなく、自信や尊厳まで奪う」と、トゥオッツォ監督は出口の見えない苦悩に寄り添う。

 映画配給会社アクション(東京都渋谷区)を経営する比嘉セツは同年、キューバ・ハバナの映画祭でこの作品に出合い、日本公開を決意したという。脚本や演技、撮影といった作品の持つ力はもちろん、「人ごとではない」という思いにも後押しされた。

 「アルゼンチンを見ていると、日本は次にこうなる、ということが分かった」。中南米社会の実情を知る比嘉は、当時を振り返る。映画が日本で封切られたのは08年5月。その年の秋にリーマン・ショックが起こり、日本では「派遣切り」が社会問題になった。



 その08年、横浜市営地下鉄の車内で、一つの取り組みが始まった。ボランティアが乗客に対し、優先席のマナーなどを呼び掛ける「スマイルマナー向上員」(12年に廃止)だ。教育社会学が専門の渡部真・横浜国大教授は、そこに窮屈な「時代の気分」を見いだした。

 席を譲ること自体は良い。けれども、自発的にすべき行為を誰かから「奨励」されることには、違和感がある。「一見すると強制ではないが、行動を統制しようというムードがあるように思う」

 フランスの哲学者ミシェル・フーコー(1926~84年)は、日常生活の隅々にまで浸透した現代社会の権力を「牧人型権力」と名付けた。牧人とは羊飼いのこと。快適な環境で飼いならされることで、羊たちは従順になる。その中で人々が意識すべきは、権力が「それと見えないような形」で遍在する、という現実(「政治の分析哲学」、78年)だ。「良いことの奨励」の背後に、権力が潜んでいるかもしれない。

 渡部は危惧する。「自由にものを考えて自由にものを言える、そんな雰囲気が失われつつある」

【〈不寛容〉の現場】「段ボールハウスが強制排除された周辺では、その後に必ずと言っていいほど襲撃事件が起こっている」と高沢は指摘する。少年が路上生活者に暴行するケースも。「無自覚ながら、子どもたちは感じ取っているんです。『排除されるような弱い者はいじめていいんだ』と」。少年たち自身もストレスにさいなまれている。弱者が弱者をたたく構造があるという。


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