花巻東・佐々木監督の信念と後悔　「済美・安楽君は大谷よりも上」　「大事に育てたが勝てる投手にはできなかった」

(夕刊フジ)

　高校最速１６０キロを記録した大谷翔平投手（現日本ハム）や超高校級左腕といわれた菊池雄星投手（現西武）を育てたのが花巻東（岩手）の佐々木洋監督（３８）だ。１０日目第１試合で、最速１５７キロの剛腕・安楽智大投手（２年）の済美（愛媛）と対戦する。

　初戦で彦根東を下して勝ち上がった花巻東。佐々木監督は「昨春のセンバツでも藤浪君（現阪神）の大阪桐蔭と当たるし、いつも大投手と当たっちゃう…」と嘆き節だが、「ただ、いまの３年生は練習で大谷の球も打っている。いくつか崩す策は持っている。真価を問われる相手」と攻略の自信ものぞかせる。

　佐々木監督は選手たちにとって良き兄貴分のような存在だ。練習中にジョークを飛ばし、グラウンドに爆笑が巻き起こることもしばしば。厳しくもアットホームな雰囲気が流れている。済美の上甲正典監督（６６）が、常に怒声を挙げて選手たちに気合を入れるのとは対照的だ。

　岩手県予選で花巻東は、エースを作らず４人の投手でやりくりしてきた。昨年は大谷という絶対エースがいたが、県大会決勝で涙をのんだ。佐々木監督は、入学前から逸材と騒がれ続けた大谷を慎重に育て、決して無理に連投させることはしなかった。

　「大谷が１年時には絶対に登板させませんでした。当時は骨が大きく成長する時期だったので野手として下半身を作ることに専念させました。秋の東北大会でセンバツの出場が懸かった試合で負けたときは『なぜ大谷を投げさせない』と批判も受けましたが、あいつは野球で飯が食えると思っていたので、迷わなかった」と佐々木監督。大谷の将来を考え、目の前の勝利にもこだわらなかった。

　一方、安楽は今春のセンバツで５試合で７７２球を投げたが上甲監督は「体力は精神力で補える」と力説する。「エースは勝つために投げる。そして、勝ってこそ成長できる」という考え方だ。安楽の連投は当然のことと考えている。

　佐々木監督は選手の健康を第一に考えて起用することを心がけているものの、実際には、迷いや後悔の念が生まれることがあるという。大谷を大事に育てたのは良かったが、結局、最後に甲子園に連れて行くことができなかったことは痛恨だったという。

　「安楽君は２年であれだけの速球が投げられて、勝ち方も知っている。正直、当時の大谷よりも上だと思います。私は大谷を勝てる投手にしてやれなかった」

　入り交じる信念と後悔。対照的な両監督の激突も、この試合のみどころといえそうだ。　（片岡将）