最近、「良い時期に良い場所にいる事が重要」と言った事をツイッターで何度か呟いた所、比較的反響があった。今回はこの点について書いてみようと思う。
○円滑なキャリア・人生を重ねる上で重要なのは、「良い時期に良い場所にいる事」。
筆者は末席ながら中小型株など含めて延べ1000銘柄以上の企業を過去取材して企業の栄枯盛衰や経営者・起業家等の人生模様を観察する仕事をして来た。また、同業者についても経済的に成功した人、いったん成功したが異界(?)行きとなった人、知識やスキルは高いがボチボチ・いまいちな人、全般にボチボチ・いまいちな人など色々な人々が筆者の前を来ては過ぎするのを気づいたら10年以上眺めていた事になる。そうやってこの株式市場と言う栄枯盛衰・祇園精舎の鐘の声の縮図のような世界と関わる中で実感した事がある。
それは、相場においては「良い時期・タイミングに良い場所にいる・良いポジションを取る」事に尽きるのと同様に、円滑なキャリア・仕事を重ねる上で重要なのは、「良い時期に良い場所にいる事」であるという事である。つまり単に知識が沢山あり資格があるとか、秀才で優秀だとか、偏差値が高い・高かったと言った事柄は、少なくとも経済的・私生活等も含めた人生全般における成功のためのKey Factorではないと言う事である。この点から勘違いしている人でひとかどの人物になっていると言う事例を筆者は余り見ない。
「良い時期・良い場所」。この言葉の出所は筆者ではない。元ゴールドマンサックスのプロップトレーダーで、少し前までヘッジファンドのゼンパーマクロを運営していたクリスチャン・シバ・ジョシーの言葉である(注)。言い得て妙、名言だなあと思う。
○「良い時期」「良い場所」とは?
では、「良い時期」「良い場所」とはどういう事だろうか。
筆者の定義では、「良い時期・良い場所」について二つの定義を持っている。一つは「外部環境の良い時期・良い場所」、もう一つは「個々人の人生のタイミング、置かれた境遇等の良い時期・良い場所、つまり内部環境・個別要因における”良い時期・良い場所”」である。以下に、外部環境、内部環境に分けて「良い時期・良い場所」について記載したい。内容が多くなりそうなので、恐らく数回に分けて書くと思う。
○外部環境の”良い時期・良い場所”の定義。
外部環境の良い時期・良い場所とは、例えば以下のようなものを指す。
-マクロ経済がボトムから回復に向かう正にその時のその国・地域。
-民主化・若い人口動態・外資導入等により新興国が先進国に移行していく正にその時の国・地域。
-黎明期から成長期に移行する辺りの業界。例えば80s~90s前半位の外資系金融東京支店。
-スタートアップから成長期に移行する直前、上場する手前位の企業。
-窓際職種・安月給のオタク職種から花形職種に移行する直前位の職種。
言ってみれば、「マイナーでうだつの上がらない状態から、スポットライトが当たり始めるまさにその過程」「カネが無かったのが、丁度大量のマネーが流入し始める正にその過程」位のタイミングである。
2000年代の前半、日本経済がボトムから回復に向かう正にその時に、ある同業者は低利でフルローン全開で不動産を買い、ひと財産を作った者がいる。シンガポール人はただその国に住んでいただけ、たまたま建国直後に一戸建てを買っていただけで今や5-10億円長者である。業界・企業だとITバブル崩壊直前、上場直前に上手く新興企業に入社出来た者だと一般平社員・秘書などまで応分の株を貰っていて数千万円~億円単位のお金を得た者も居る。80年代には当時冴えない職種だったらしい株式調査部に配属されてもそもそと統計資料に埋もれていて会社もサボりがちだったような当時の若者は、90年代の間接金融から直接金融のシフトや投資家の機関化の進展等に伴い「アナリスト」として花形の高給取りになった。
こう言った人たちは、勿論中には虎視眈々と「まさにその時」を意識的に狙って経済的に成功した者もいるにせよ、少なからずは「たまたまその時期にそこに居たから成功した」と言う事である。しかしその時期にその場所に居れば(それが持続可能か否かと言う問題、私生活での幸せと言ったものと得てして両立出来なかったりしてバランスを崩しがちだと言った問題もはらむものの)実際金銭的な観点に関して言えば、一時的にせよ成功するものなのである。
これを「人生所詮運だ」等と嘆く人もいるが、嘆いた所で何の意味もない。人生そう言うものなのだ。ただその時にその場に居ただけで幸運を享受する事もあればその逆もある。人生そう言う面があるというのは変え難い事であり、これを受け入れる事から全ては始まると思う。
また、上記のような「黎明期から成長期への移行」だけでなく、逆に以下のような「成功・バブルが弾ける瞬間」「成熟・衰退後の残存者メリット享受・需要の復活」と言った局面も、チャンスを上手く捉えられれば”良い時期・場所”となりうる。
-バブル崩壊・経済崩壊の一歩手前。
-衰退・リストラが長期間に渡り続いていて、残存者メリットが出始める辺りの業界。
前者の例では、日本人ではソロモンブラザーズで日本のバブル崩壊にBetして巨大な利益を上げた明神茂氏が居る。氏はソロモンブラザーズにて(東京支社ではなくグローバルの)経営陣にまで上り詰め、現在はヘッジファンドを運営している。また、最近の例ではサブプライム崩壊で利益を上げたポールソン等が有名である。
こう言ったパターンだと、「たまたま」で利益を上げるのは中々難しく、「長い長い無名期間を経て、ついに花開く」と言うパターンが比較的多いだろうか。明神氏は1989-1990のバブル崩壊で利益を上げたが70年代から証券業界で仕事をしていたし、ポールソン氏は80年代よりコンサル・投資銀行・ヘッジファンド等を転々としてサブプライム危機の前はイヴェントドリブン等を手掛けており、比較的目立たないヘッジファンド業界の一人、と言った程度であった。
後者としては2000年代前半~中盤の鉄鋼業界・海運業界・資源会社(日本の場合商社)等が挙げられる。これらの業界は90年代は供給過剰で苦しみ、販売価格はずっと低迷しており、リストラや生産能力の縮小・供給能力の削減・バランスシートの劣化・業界再編等がずっと続いていた業界である。そこに2000年代に入って中国と言う巨大需要が発生した事で一気に需要が増大し、再度時代の寵児へと返り咲き、ボーナスも増えたというパターンである。株価も大きくドライヴした。就職等でも学生に人気の業種に返り咲いた。(まあぼちぼちピークアウトかな等とも思う訳だが、それはここでは置いておこう)
他にも例は色々あるだろうが、「外部環境における良い時期・良い場所」とは、言ってみれば、外部環境の変化率が一番大きい辺りと言う事だ。ボラティリティイズフレンド、ビッグチェンジのタイミングはチャンスなのである。オプションで言えばガンマロングのオプションの価格が一気に数倍に化ける手前のあたりの時期に、オプションのロング的なポジション・立ち位置を確保しておく事が重要だということである。それを具体例で説明すれば、大まかには上記のような状況が「外部環境の”良い時期・良い場所”」と言う理解を筆者はしている。
次に内部環境・個別要因における”良い時期・良い場所”について説明したいと思う。上記のような「外部環境」については実は重要度としては必ずしもそれ程には高くなく、実際の所は「内部環境・個別要因における”良い時期・良い場所”」と言うのが非常に重要だと考えて居る。とは言え、文章もだいぶ長くなったので次回に回すことにしたい。
注:出所はこちら。
成功したヘッジファンドマネジャーのインタビュー集である。Amazonで星1つになっているが、これは最悪の翻訳者による、グーグルの自動翻訳以下と思われる翻訳の酷さのせいである。原著者はファンドオブファンズの運用者できちんとした知識をベースにして取材しているし、原著の内容自体はマーケットの魔術師と並べて良い位大変に良いと思う。興味のあるかたは原書を当たるか、翻訳の酷さを割り引いて何とか日本語で読むかして頂けると幸いである。
中国語では「天時、地利、人和」といいます。良い時が天時、良い場所が地利にあたるんでしょうか。
返信削除コメントありがとうございます。
返信削除小生、中国語・中国の歴史等に詳しい訳ではないですが、仰る通りと思います。まんがで史記・三国志等を楽しんでいますが、含蓄があるなあとしばしば感じます。