2099年12月30日水曜日

とあるヘッジファンド運用者/アナリストのつぶやき

ヘッジファンド業界の動向、金融/ファイナンスのトリビア、ただの雑談等について、つれづれに書いて行こうと思います。

(2010/9/16、2010/10/17、2012/4/17加筆)
気まぐれ、つれづれで書き始めた積もりが、案外長期間連載する事になりました。以下に、当ブログの主な項目ラベルのガイドを簡単に書いておきます。

「就職/転職」:金融業界、資産運用業界についての就職/転職に興味のあるかたは、このラベルを参照頂くと、該当項目について色々書いてあります。当初は、こう言った点について特に新卒の学生さん等に何かしらアドバイスを残せれば、と言う気分でブログを始めた面もあります。

「資本主義Matrix」とは?:就職転職に並んで、元々この項目を書いてみたくてブログを始めた面があります。結構大上段に、「資本主義と関わるとは、こういう事なんですよ」と言う真実に近づく事を試みた内容です。フィクションですが、アナリスト/運用者として見聞きしたり経験した事実をベースにはしています。

マネーは概念であり、概念に過ぎません。マネー自体から幸せや不幸、恐怖や恍惚感の成分のようなものが生産/放射されている訳でもありません。全て人間の脳内で処理されている、概念に対する解釈に過ぎません。マネー自体に何か価値があるのではないかであるとか、それに伴って種々の感情や執着あるいは嫌悪等が実体として存在しているような気がしているのも、単に人々の頭の中で「そう言う気がしている」に過ぎません。マネーが交換手段として流通しているのも、単に皆が「マネーは交換手段である」と認知しているからに過ぎません。こう言った意味において、マネーと言う概念、あるいはマネーと言う概念が人に及ぼす作用と言うのは極めて心理的なものです。そして、ある人はマネーを気違いのように愛したりその奴隷になり人生の全てを捧げたり場合によっては命まで落としたりしますし、ある人はマネーと聞くだけで嫌悪します。また、マネーとは一方からある方向へ流れるものであり、目に見えないけれども人間に影響を与えていると言う意味においては、気功師等の言う「氣」とも通じる面もあるように思います。

これらの事柄について、マネーに関わる人々の悲喜こもごもを題材にしながら書いています。マネーに対する適切な理解、適度な距離感、そして適切な活用と運用をほんの少しでも促す事が出来れば、マネーと言う「幻獣」の使い手の末席に居る/居た者として、幸いであります。

「市場・経済・金融関連メモ」:金融関連ニュースや相場動向についての備忘メモです。投資は自己責任で。この項目については仕事再開後は原則として更新を停止します。ご理解賜ると幸いです。

「投資/金融トリビア」:投資や金融の分野での、ちょっとした「へー」を提供する事を一応目指しています。仕事再開後は「投資教育一般」の範疇の内容に留める予定です。特に個別銘柄、相場の方向性、個別具体的な投資戦略等に関する議論は、仕事再開後は更新を停止致します。ご理解賜ると幸いです。

「本日の名言」:元々のアイデアはBloomberg起動時に出て来る格言の真似ですが、筆者が心に残った格言を、投資関連に限らず紹介します。

これ以外については、個人的な趣味、雑談、内輪トーク等が中心で、読み手に対する情報価値と言った面は余り考えずに何となく書いている面が強いです。適度に流して頂けると幸いです。

右側にある「関連書籍一覧」は、ブログ内で紹介された参考書籍、映画等です。大まかに、上の方に紹介されている書籍程「読む価値のある書籍」です。多少なりとも参考になれば幸いです。

当該ブログは何らの投資判断、金融商品等の推奨、勧誘等を提供するものではありません。また、当該ブログを読んだ事により読者に発生したいかなる損失も、筆者は一切の責任を取りません。投資は自己責任にてお願いします。

読者からの投稿内容については、書き手、読み手双方が楽しめるブログ運営と言う観点から、公開する事が相応しくないと判断した場合、管理者の判断にて削除させて頂きます。何卒ご理解の上、公序良俗とマナーを弁えた、良識あるコメント投稿を頂けますと幸いです。

メール等で頂く質問等については可能な範囲で目を通した上で可能な範囲で回答致しますが、回答の保証は出来かねます。ブログで金融関連、就職・転職や英語等のスキル習得法等について書いているのは(仕事等ではなく)筆者のちょっとした余暇の活動である事をご理解頂き、質問内容等についても公序良俗・マナーを弁えた上で、整理された適切なものであるよう配慮頂けますと幸いです。また、Twitterについては完全に趣味・娯楽としての位置づけであるため、Twitterでの(特に社会人としての良識・マナー・配慮等に欠けた)質問等への回答については保証出来かねます。
ブログの分量、更新頻度、内容については、筆者都合等により大幅に変化します。この点もご理解賜ると幸いです。

2099年12月29日火曜日

筆者のクレド

トレーディングとは、ヨーガと同様のプロセスである。執着を捨て、人生の自然な流れに沿い、自らが宇宙と調和し一体である事を知るプロセスである。筆者のミッションは、マネーと言うエネルギーを分析し活用出来る自身の能力を感覚と知識を統合する事で常に磨きながら、社会に貢献する事である。

Anonymous Investor Tokyo-Singapore

2099年12月28日月曜日

○筆者の当面の目標


○筆者の当面の目標

真面目なる運用者の技能を最高度に発揮せしむべき自由闊達にして愉快なるアルファファクトリーの建設に貢献する短期・中期・長期全てのタイムホライゾンにおける投資・トレードにて好況・不況に関係なく安定した絶対収益を上げる事が出来るようになる事で、以下3点に貢献したい。

1.個人・年金・大学基金・チャリティ基金等の顧客に、老後の暮らし・大学運営費用・慈善事業運営費用等に煩わされる事なく、安心して各自の人生の謳歌、教育の向上、慈善事業等に集中できる環境を作る事に貢献する。

2.株式・債券等を発行する事業会社には目先業績等を心配せずに中長期的な事業経営に集中出来る環境を作る事に貢献する。

3.これら活動を通じて、金融・運用業界の健全な発展と自身を含めた金融・運用業界従事者の自己実現に資する。』


...以下、幾らか補足したい。

運用者は「真面目」である:資産運用も製造業や他の事業と同じ、真面目な実業である。運用者は真面目でないといけない。また、コンプライアンス・法令等を遵守し、フェアに清清しく収益を上げなくてはいけない。

運用者は「技能を最高度に発揮」せしむものである:鮨職人等がそうであるように、運用者も常に技能向上に努め、これを発揮せしむべきである。

運用者は「自由闊達にして愉快」である:創造的な投資・トレードアイデアは自由闊達で愉快な環境から生まれる。バリュー投資の父、ベンジャミン・グレアムは「バカげた事や創造的な事、寛大な事」をしていたいのだと言う名言を残している。ウォーレン・バフェットも時折投資を下世話な下ネタや冗談で喩えるなど、独特の遊び心がある。運用業界の末席にて仕事をする小生も、先人のこう言った特性に習いたい。

運用者は「アルファファクトリー」である:業界内外から異論はあろうものと思われるが、短期・中期・長期のタイムホライゾンに対応出来て好況・不況に関わらず安定した絶対収益を上げられる事で、顧客・投資先に貢献出来ると小生は信じている。幾ら長期投資を標榜しても、月次・四半期・年次のパフォーマンスが不安定では顧客が不安になる。飛行機・船・タクシー等が出来れば揺れたりせず危なげなく運行されて欲しいと思うように、資金運用も同様であって欲しいと顧客が願うのは自然な事であろう。年金受給者・大学基金・慈善基金等の資金の出し手が不安を抱く事なく、各自の人生の謳歌・教育改善・慈善活動等に打ち込める環境を作る事に貢献するのが運用者のミッションであると考えれば、短期のトレードで市場に流動性を提供しながら安定的な収益を上げられる事も疎かにするものではないし、短期収益の積み上げによる余裕が得られて長期のリスクテイクも不安なく出来るものと考える。また、事業会社の経営者には「短期の株価の対応は、資金の出し手が不安にならないように運用者側で上手くやりくりしておくのが運用者の仕事だから心配する事はない。事業経営者は目先の四半期業績を作る事等に惑わされずに、中長期で社業が良くなる事、ひいては社会に貢献する事に集中すれば良い」と声をかける事が出来るものと小生としては考える。

また、目標が東京通信工業(現ソニー)の設立趣意書の引用である点については、世界情勢が不透明であり日本においては悲観的なムードも少なからず見られる現代だからこそ、戦後の焼け野原の時点で上記のような設立趣意書を書いて立ち上がった先人の勇気と知恵を拝借したいとの思いからである。

2013年8月16日金曜日

○若手社員が「資本主義ワールド」の最下層から脱出するための幾つかのヒントなど。

久しぶりにブログを更新する事にした。

最近、運用だけでなく採用等の活動も行うようになり、若手人材については考える所があったので、以下に幾つか「若手社員として優秀と評価される人材のポイント」を挙げておきたいと思う。

一定の成功を勝ち得たい若手からしたら、上司・会社からの評価を勝ち得る事で、先ずは「若手・餓鬼の使い」と言う資本主義の最下層奴隷の状態から脱出し、今まで述べてきた話で言う所の『棚からぼた餅を享受し得る場所』に立つ必要があると感じている事だろう。その際の参考にして頂けると幸いである。言ってみれば、今回の話は『棚からぼた餅理論の実践編・詳細編』とでも言った所である。

但し、筆者の勤務先はヘッジファンドであり、一般の事業会社等とは大きく異なる。年代的にも30代(それでも弊業界では応分に年寄りな訳だが)であり、40-50代以上のシニアとは考え方が恐らく異なる。そう言った点を考えると、「かなり偏った人間の1意見」なのかも知れない。この点を踏まえて読んで頂けると幸いである。


・地道な努力をきちんとして、成長を内外に示す。

当たり前の事かも知れないが、地道な努力をきちんとして、成長を内外に示す事が特にキャリアの序盤戦では非常に重要である。

履歴書を幾らか見ていると、大学時代当時では恐らく筆者よりもずっとハイスペックだったと思われるような人も30歳の時点では申し訳ないけれども採用する気にはならない、と言う状態になってしまっている例は少なくない。逆に、大学時代の学歴や活動内容は目立たなくても30歳時点では「うわあ優秀だなあ」「稼いでいるなあ」と言った人も居る。

大学時代の学歴や活動内容は年齢と共に重要性が年々落ちてゆき、年齢と共に職業人人生の中でどう言ったスキルを身に付け、どういった成果を出して来たかの比重が大きくなる。若手の皆さんが思っている以上に、20代の生活ぶりや仕事ぶりによって30歳位の頃には愕然とするほど能力に差が付いてしまう。

また、成長モメンタムのある若者と接しているとシニアも励まされるし気持ちが良いもので、やはりサポートしたくなるものである。そんな訳で周囲のサポートも得られ易くなるだろう。多少のミスは大目に見てもらえたりもするだろうし、良質の仕事が回って来やすくなるだろう。それが更に能力を引き上げる要因となる。そんな訳で、色々得する事が多いと思う。

そんな訳で、王道だけれども、職務に必要な語学・資格・知識等の積み上げを20代で行っておく事をお勧めする。転職の際の選択等も、20代のうちは給料の少々の多少よりも、良質の経験が積めるかどうか、成長できる環境があるか、30代以降の飛躍に繋がるかと言った面の方が重要だろうと思う。若い頃は少なくとも年に1度、出来れば四半期に一度位、自身のレジュメを更新する癖を付けておくと良いだろう。その間なにもレジュメに書けるような成長が無かった場合は何かした方が良いと言う事である。


・「ゴール・問題解決・次の行動ステップ」を考えて仕事をする。

仕事とは、言ってみれば問題解決である。
顧客の問題(ニーズ・ウォンツ等)を解決する事で対価としてお金を貰っている。
例えば資産運用業であれば、「老後資金の確保/大学運営やチャリティ財団の運営資金の確保/その他余剰資金の活用をしたいが、それをするノウハウ・時間がない、これに伴うストレスを負担したくない」と言う顧客の問題を解決する事でフィーを頂いている。

これは社内の仕事でも一緒で、問題解決に貢献した対価として給与を貰っているのである。(ないしはインセンティブ等なしで時給・月給労働の場合もあるかも知れないが、人生の貴重な時間を安価な時給で切り売りする立場から脱出したいのであれば、このように考えて仕事する必要がある)。それはたとえコピー取りであっても、「顧客へのプレゼンなり社内会議なり何らかの理由で文書が多数必要だが上司自身でそれをやる時間がない・他にもっと付加価値の高いToDoが上司は他にある」と言った問題解決のためにアサインしているのである。

で、何か作業をアサインした場合、「この作業は、何の問題解決・ゴールのためにやっているのか」と言うのを考えて仕事をしているか否かと言うのは上司から見ると非常によく見える。

例えばコピー取りでも、出来る人は「社内会議が直ぐに迫っていて見栄えはソコソコでもとにかく早く欲しいと言うのがゴールなのか、顧客に見せる資料でこれで顧客が取れるか否かの分かれ目だから、自信を持って外部に提供出来る見栄えの美しさやプロフェッショナルな雰囲気が出ているか等が重要なゴールなのか」と言った点を判断してそれに応じた対処・工夫をするだろう。そう言う事を考えて仕事しているか否か、ゴール・ニーズ・受け手の事情等を考えて仕事をしているのか、ただコピー取りをやれと言われたから嫌々やっているのかと言うのは上司から見ていると非常によく分かる。(コピー取りのほか、Word、Excel、パワーポイント等による文書作成やスプレッドシート・グラフ作成等、昨今のオフィスワークにおいて必須の業務でもこの辺の事を考えて仕事しているか否かは顕著に出るように思う)。勿論、「問題解決・ゴール」を意識・理解して作業をやっている人との方が仕事がし易いし評価が高くなる。

若手社員でよくありがちなのは、与えられた・言われた作業をただやって、何の結論・要約もなしにその旨伝えるだけ、と言うケースである。つまり、言われた通りにどこそこに連絡を取りました、この調べものをしろと言うので調べたらこう言う事が書いてありました、Excelに数字を入れました、と何の結論もなしに五月雨的に報告するだけと言うパターンである。これは言ってみれば餓鬼の使いである。意思決定・判断の部分を完全に上司に丸投げしてしまっており、高い付加価値を出す事を放棄している事に等しい。

こう言う人ほど「給料安い」「もっと金持ちになりたい」とか述べている傾向が得てしてあるが、自ら高い付加価値を出す事を放棄している以上、こう言った人が高給取りになる可能性は何の分野でどんな仕事をしていても先ずもって殆どない。資本主義において「良い場所」に立ち、「棚からぼた餅を享受し得る立場」になるためには、「ゴール・問題解決」を意識して、「結論・問題解決のための次のアクション」まで提案する、と言うのは重要な点である。

最初のうちはゴール設定がずれていたり、次のアクションがやや不適切だったりして注意・修正される事もあるかも知れない。しかしそう言った努力をしている事は(ブラック企業・ブラック上司ではなく見る目のあるある程度まともな上司なら)少なくとも評価はしているし、それを繰り返しているうちに的を得た提案への精度も上がって来るだろう。そうしているうちに、「この人には雑用だけでなく、もう少し責任を与えて踏み込んだ所まで・直接顧客の問題解決に関わる所までやって貰おう」と言う運びになるだろう。勿論、そうなれば顧客の問題解決への貢献度は上がる訳で、ペイの配分も良くなるだろう。


・結論・回答を一言で返す。

質問に対して回答をずばっと返す人、報告の際に結論を先に返す人は一緒に仕事をしやすい。
株の銘柄推奨なら、先ず買いなのか売りなのか。一般事務等の仕事でも先ず回答・結論をずばっと回答。こう言う人と仕事をしているとやはり歯切れがよくて心地よいし、安心感があるのである。

質問のポイントからずれて居る事を長々述べられては時間のロスだし、残念感が募ってしまう。面接の際の志望動機だとか、入社後なら現場で作業をしている過程で色々なドラマや脳裏をよぎった事柄が沢山あるのは分かるが、それを整理して、結論・回答を一言でアウトプットする訓練を常日頃していると良いだろう。

ごちゃごちゃした過程を結論に整理するには頭を使う必要がある。ごちゃごちゃした過程をすっきりと分かり易い一言の結論に集約するには上述の通り「ゴール・問題解決」を考えて仕事をする必要がある。こう言った所に付加価値があるのである。上司はこう言った小さな所から、「この人は採用する価値があるだろうか、一緒に働き易いだろうか」「この人はゴール・目的を考えながら頭を使って仕事をしているかどうか」「雑用以上の事を任せても自身で考えて適切に仕事をしてくれそうか」と言った点を判断しているのである。


・結論の後に理由・背景を、重要性の高い順に3点までで説明する。

また、結論の後に解説する理由や背景詳細のポイントは3点までに収める癖を付けると良い。株の推奨なら、こんな感じだ。

結論:これこれの銘柄は買い。

背景・詳細解説:
1.概要説明。これこれの銘柄はxxの分野で国内シェアx割、○○に強みを持つ会社だ。
2.現在割安である事の説明。xxの理由(業績下方修正、悪材料等)で株価が下落し、Valuation(PER、PBR、DCF等)で割安だ。
3.割安感を訂正する将来のキャタリストの説明。xxのキャタリストがあり、xヶ月位のタイムホライゾンで○割程度のアップサイドが期待出来る。

結論の確認:以上、結論の通り買い。

…と言った具合である。また、述べる順序は重要度の高い順である。

上記の例で言えば、まずは買いか売りかだ。株を買ったり売ったりしてリターンを稼ぐのがゴールであり、余計な御託は聞く暇がないのであるから、最初にこれを結論として明示するのは極めて重要である。

次に買い/売りのその銘柄がどういう企業なのかは誰でも最初に知りたいだろう。事業内容の概略を知らずにValuationが安いだのキャタリストはこれだの述べられても訳が分からない。なので事業概要の説明が解説の最初に来る。

次に、買いだと言うからには株価が安い方が魅力的でパンチがあるだろう。勿論株価やValuationが既に高いけどもっと買いだと言う場合もあるけれども、基本的には安いから買いで高いから売りで検討するのが株だ。だから次に割安感の説明。

3点目として、株価が安くても安いままの会社、株価が高くてももっと高くなる会社もあり、安ければ必ずしも買い、高ければ必ずしもショートではない。安い会社の株価が上がる契機・キャタリストが必要だ。だから3点目にキャタリスト。

まあ上記の例ならValuationとキャタリストは説明順序が逆でもいいかなとも思うし、もっと細かい事を言えば、コンサルのMECEだのクリティカルシンキングだの色々あるのだろうが、そもそもそれ以前のレベル感である人も少なくないように見受けられる。また、多くの業種では厳密に物凄くロジカルである必要まではなく、結論+説明を重要度の高い順に3点まで、と言った習慣がある程度でも(たとえ説明が厳密にはMECEやらロジカルシンキングやらに適ってはいなかったりしても)十分に「ロジカルだ」と言う評価を貰えるだろうとも思う。これは受け手の事情を考えて仕事をしているか、受け手の問題解決(=ここでは何の株を買えば/売ればいいのか)を考えた仕事をしているか、と言う事でもあろうかと思う。

なので先ずは「結論+説明を重要度の高い順に3点まで」と言ったテンプレートで報告する癖を付けると良いだろう。また、そうする事でゴールを意識して、頭を使いながら作業も出来るようになるだろう。

(*因みに株のレポートについては、1分で口頭で述べる際も上記テンプレートだし、何十ページもあるフルレポートを書く際も基本線上記テンプレートは使える。詳細のレポートを書く際は上記の各項目をより詳細に調べる・書くと言う事であり、どこまで掘り下げるかはその時の調査に使える時間、取れるポジションサイズとタイムホライゾン(小さいポジションで短いタイムホライゾンでダメなら直ぐ損切りするつもりなら詳細に調べても投入する時間・手間に対して余り得るものがないが、大きなポジションを長期でがっつり取るなら詳細に調べる価値がある)、等で加減する事になる。こう言った基本的なテンプレートを持っておくと、長いレポートを書く際もスッキリした構成のものが書ける。)


・言い訳を長々述べない。出来ない理由をぐだぐだ述べていないでどうやったら出来るか考える。本当に出来ない場合は謝罪+出来ない旨を端的に述べた上で埋め合わせ案を提示して相手に配慮する。

男女のデート等で遅刻した際に言い訳から長々述べられると気分が悪いだろう。
言い訳と自己弁護から入る人間と接していると良い気分がしないものである。
仕事でも一緒である。言い訳を述べる癖がある人は注意して言い訳を減らす・無くすようにすると良いだろう。
これも、「結論から端的に述べる」の変形であるが、重要な点だろうと思う。

遅刻した場合は先ずは「すいません、遅刻しました」と謝罪から述べて、必要があれば理由なり今後の改善策なりを述べる。

何か仕事をアサインされた場合に出来ない理由を長々考えて延々述べるのはよして、先ずやってみる、引き受けてみるのが大事だろう。顧客に貢献して対価を頂く、結果を出す事がゴールなのであり、上司は出来ない理由など長々聞きたくはない。特に若手だとこう言った態度で先ず周囲に好感を持って貰う事は重要である。

残業等を依頼されて既に用事が入っている場合はもじもじしていないで「申し訳ないですが先約があります」とずばっと述べる。知識・技術面・時間の制約上本当に出来ないなら「申し訳ないですが出来ません」と、謝罪+出来ない事の表明、をずばっと述べると良いだろう。

その上で、「明日なら出来ます」「この人に聞けば分かると思います」「この位調べる時間があれば出来ます」「この位の負荷・完成度で妥協すれば時間内に出来ます」と言った「埋め合わせ」を示す事で相手に配慮を示す。こうすれば、トゲトゲしくならずに円滑に職場も回るだろう。

ここで若手が良くあるのが、以下である。

1.無茶な事も「出来ない」と言えずに断りきれずに安請け合いして結局延々時間をかけた挙句にやっぱり出来なくて皆に迷惑がかかったり、あるいは面倒な仕事のゴミ箱化していじめ等に遭ってしまうケース。

2.やれば出来そうな事なのに「出来ません」と拒否だけしておしまいで、「謝罪」「埋め合わせ」を提示しないケース。

上記はどちらでも良くない。

1だと信用を失う。本人は良い人だから断れないんであって自分は悪くない等と思っていたりするが、周囲からすると迷惑である。自身の能力を冷静に把握出来ていないと言う事でもある。また、無茶な依頼を断れない人・こう言う所で意思が弱い人は、得てしていじめ等のターゲットにもなってしまい易く不幸でもある。こう言う人は、上手い断り方を学ぶと良いだろう。ブラック企業・ブラック上司でなければと言う注釈はつけないといけないが、「”出来ない”の判断に妥当感があり」「埋め合わせを提示するなど配慮が感じられる」のであれば大概の場合は問題にならない場合が多いだろうと思う。

2だと仕事を貰えなくなる。あるいは本当にただの雑用しかアサインされなくなる。それと同時に社内の人間関係が上手く行かなくなる可能性がある。若手が仕事を貰えない、成長に繋がるような仕事を貰えなくなると言うのは生命線を断たれるも同然である。ブラック企業・ブラック上司でない限りにおいてではあるが、通常の場合は「上司の視点からするとこの位の仕事はこの人に出来そうだ」と思って仕事を振っているものである。こう言った類いの人は、短絡的に断らないで「まずはやってみる」、「本当に出来そうにない場合も簡単な謝罪の言葉を述べた上で、埋め合わせを提示して配慮を示す」と言う事を意識してみると良いだろう。

こう言う事をやれる人とは仕事がやりやすい。上司からの評価も高くなるだろう。また、本人も円滑な人間関係の中で適切な難易度の仕事を貰い易くなり、成長し易いだろう。

…他にも勿論、優秀な若手の要素と言うのは沢山あると思うが、今回はこんな感じで。上記はいずれも、「手持ちに何のスキル・資格・知識・英語等の語学力等もなくても、Day 1から今すぐ意識さえすればやれる事柄」である。そう言った意味で新卒や第二新卒位の若手のかた等が、円滑なキャリア序盤戦を過ごす基盤を確立しようとする際に意識すると良い点だと思われる。多少なりとも参考になれば幸いである。

因みに、所々に「ブラック企業・ブラック上司でなければ」と言う注釈が付いているが、これはこう言う所に当たってしまうと幾ら若手が適切に行動しても無駄なのでそのように注釈している。この点については、上記はあくまで「一定レベルを満たしたまともな職場・上司」における若手の心得であり、ブラック企業・上司に当たらないように頑張ってください、当たってしまった場合は幾ら頑張っても多分報われないと思うので頑張って良い場所を先ずは見つけてください、と言う事になる。

2012年11月29日木曜日

○「良い時期に良い場所に居る」とはどういう事なのか? その3:「棚からぼた餅」を人生にもたらすための準備。


さて、「良い時期・良い場所」の話の続きである。前回で、「内部環境における良い時期・良い場所」について、具体的には「自分自身を先ず理解出来た時期に、好きな分野・得意な分野・場所で勝負する事」の重要性について書いた。


今回は、以前のエントリを踏まえた上で、良い時期・良い場所に上手く出くわして幸運を掴むために必要と思われる「準備」について書いてみようと思う。


○「棚からぼた餅」を享受するにも、準備が必要。

今回のエントリで強調しておきたいのは、「棚からぼた餅を享受するにも、準備が必要だ」と言う点である。

良い時期・良い場所に居合わせると言うのは、純粋なラッキーによって為される場合も勿論ある。シンガポール人がただシンガポール人で建国直後にたまたまローンを組んで家を買ったら、みるみる先進国になってゆき不動産価格も高騰して億万長者になってしまったと言う状況がそれに当たる。日本の団塊世代が、日本の右肩上がり時代の経済を享受し、国家財政も微妙であるにも関わらず老後はオイシイ年金を貰って良い暮らしをしているのも概ね同様と考えて良かろう。不況世代からすると内心複雑な思いはあるものの、ただ生まれた時期と場所が良かっただけで人生上手く行く事も実際多々ある。残酷かも知れないがそれが現実であり、人生そう言うものである。

しかし、必ずしも順風満帆ではない時代に生きる我々が「良い時期・良い場所」の僥倖を得ようとなると相応の準備が必要であろうかと思われる。つまり、「棚からぼた餅」を享受するにも、以下のような準備が必要なのである。

・先ず、ぼた餅が落ちて来そうな場所を早期に発見する必要がある(=その1のエントリで記載した「外部環境」の良い場所の発見)。

・かつ、それが自身の能力・適性に合った場所である必要がある(=その2のエントリで記載した「内部環境・個別要因」の良い場所の発見)。

・更に、そこに身を置いた後も、ぼた餅がいつ落ちてきても良いように、皿や箸を準備しておかないといけない。ぼた餅が落ちて来ても地面に落ちてしまったら食べられない。ぼた餅だけでは喉が渇くのでお茶も淹れておく必要がある(=今回のエントリで以下に記載の「準備」に相当)。

こう言った訳で、ぼた餅が落ちてくると言う幸運に、努力・準備が重なって、初めて現代における「棚からぼた餅」は完成するのである(本当の所どうか分からないが、取りあえず勢いでそう言い切っておこう)。

そんな訳で今回は、上記の「棚からぼた餅理論」における三番目、「準備」の部分にフォーカスを当てて、幾らか書いておこうと思う。


○一定の準備段階・下積み時代をきちんとこなす。

先ず重要なのはこの点である。
例えば、自身の身を置く分野で必要な一定の学歴、資格、職務経歴等の確保である。

こう言った要素を馬鹿にする向きもあるし、「実力主義において学歴・資格は関係ない」と言う向きもある。勿論根本的にはトータルに実力が一番重要である。しかし、筆者の経験からすると、そうは言っても現実的な所で言って、ドアオープナーとして・スタート地点に立つために必要な学歴、経歴、資格等は実際あった。こう言う下積み段階・時期を軽く見てはいけないと、筆者自身の経験上は感じている。

例えば、筆者の属する運用業界で、日本においてアナリストなり運用者なりになろうと思えば、大体の場合は早慶程度以上の学歴、証券アナリスト資格位は最低限必要である。一定の学歴が無いと内定も貰えないし、入社後は証券アナリスト資格の取得が運用・調査等の職種への配属条件となっているような場合も多い(証券アナリスト資格やその内容の是非はここでは議論のスコープから外すが、現実としてそうなっている場合が多いと言う事である)。更には外資系大手ヘッジファンドの米国オフィス等では必要条件が一段とインフレートしていて、一流校のMBA(ないしは経済学・理系等でマスターやドクター取得者等)以上の学歴、CFA資格保有、又はこれら複数の経歴保有と言うのが入口として当たり前になっている。米国のグローバルマクロのヘッジファンド等で勤務したい場合、相当ハードルが高い事になる。

勿論、早慶程度以上の学歴があり証券アナリスト資格がありMBAやマスター・ドクターがあればリターンが取れる訳では無いし実力がある訳ではないし優秀な訳でも何でもない。稼げる人も居ればだめな人も多数居る。この点を間違えてはいけない。

また、学歴や資格に関係なく、例えば学生時代からトレードをしていて安定したリターンを出せる手法を確立してそれを投資銀行やヘッジファンドに売り込む事で成功機会を獲得して実際成功した、と言った事例も勿論ある。しかしこのような事例は確率的に言えばかなりレアな部類に属するものであるし、こう言った方法で上手く行く事が出来る人となると、かなり才能・適性等で絞られる面がある。

そんな訳で、運用業界での話で言えば、一般論で言えば、「ドアオープナーとして」「スタートラインに立つために」、最低限これらの経歴・資格はあった方が「良い時期・良い場所」に立てる確率は上がる訳である。

以上では筆者の属する運用業界を喩えにして説明したが、他の分野にせよ、こう言う「スタートラインに立つための準備」と言うのは大概あるものだろうと思う。

法律の仕事がしたいなら弁護士資格を取らないといけない。監査法人で働きたいなら会計士資格が必要だ。料理・食の世界で一流になりたいなら料理学校に行ったり名の通った一流の店で皿洗い・下作業から始めないといけない。ベンチャー企業を立ち上げるにも先ずは大手企業で仕事してスキル・人脈をつけたり大手企業の組織力学、会社員の悲哀の何たるかを学んだりした方が後々良い場合が多いだろう。海外で仕事しようにも、例えば筆者の勤務するシンガポールでは昨今ビザ関連が厳しくなっており、高卒では就労ビザが降りない、ワーキングホリデーの類もいわゆる一流大学出身でなくては活用出来ないものに変更されると言った事態が発生している。商社等で海外事業に配属されるにも、馬鹿馬鹿しい試験だとは思ってもTOEICで高得点を上げないといけない。

学歴コレクター・資格コレクターの類(=学歴・資格自体が目的化している)も馬鹿馬鹿しい話とは思うが、一方で「スタートラインに立つための」「身分証明書としての」学歴・経歴・資格、またこれら獲得のための下積み経験は甘く見ない方が良いと筆者的には思う。こう言うのはまあ、面倒臭いが必要なものなのだと。

こう言う時期を経ないで、例えば大学を卒業して、会社員にはなったが地味な日常が耐えられないからと言った安易な理由で直ぐ退職して、起業ブームやらFXブームやらに煽られて、世間知らずで名刺交換の仕方も怪しいような状態で、言わば半ば躁鬱の躁状態で起業したり専業トレーダーになってしまったような層の「その後」は、惨憺たる鬱々としたものになる事が多いように見受けられる。

勿論これで成功する人と言うのも皆無ではない。しかし、1000社以上上場企業を調べて、中小型株を調べていた頃には未公開企業や新興企業の面々の集まり等にも時折ご縁があった時期も経ている筆者の経験・感覚として、確率的にみてこう言った層がSustainableに成功するのは相当に難しい(下手をすると人並みの生活を維持する事すら難しくなる)ように見受けられる。先ず殆どが失敗してしまうし、一時的に我世の春を享受したものもその後を見ると無残な結果になっている事も少なくない。

一部にはこう言った人でも「起業とその失敗」を売り物にして欧米のMBA等に行き、日本帰国後は先ずは名の知れた投資銀行・コンサル等に戻る事で経済面・社会面ともリカバリーを果たし、次のチャレンジを狙う者も居る(因みに、起業したが失敗した、ちゃんとビジネスのイロハを学んで再チャレンジしたい、と言うのはMBAの志望動機・活用法としては非常に良いと思うし、大学側も評価する傾向が強いように思う)。こう言った人は「起業~失敗、MBA、社会復帰」自体を上手く「下積み経験」として昇華した例だと言えるだろう。次は前回よりは上手くやれるだろう。これは失敗ではなく、有意義な経験と言える。

しかしこれが出来るのは大学学卒時点での学歴が一定以上あり、TOEFLやGMAT等の英語の試験に耐えられ、大学時代に厳しいゼミ等にも参加して起業後も取引先等と真摯にビジネスをやった結果ゼミ教官や取引先等から推薦レターを書いて貰えるような、言ってみれば「意識高く下積み経験を若い頃きちんとやっていた」一部に過ぎない。しかも年齢的に比較的若くないといけない。全体として見れば日本の社会では敗者復活戦は難しい。きちんとした下積みもなく軽はずみにバンジージャンプをした結果、一度人間界から「ナニワ金融道的ワールド」「ニート・職なしワールド」に落ちてしまうと、人間界に戻って来るのも中々難しい、と言うのが全体として見た場合の現実のようにも思う。

きちんとした下積み時代のない人間は周囲からも信用されないし、困った際に助け舟も中々出てこないので、結果として「胡散臭い有象無象」に堕してしまいがちでもある(逆に言えば、地道な下積み時代を経ていて人間的にきちんとしている場合、案外何とかなるケースも少なくない)。

繰り返すが、一定の「下積み時代」と言うのは、大概の分野で、「良い時期・良い場所」の恩恵を(ただの偶然ではなく、低成長経済下で意識して)受けるためには「必要なもの」なのである。

何だよ全然イージーではないじゃないか、何か楽に成功できるような方法論を示してくれないのか、と思われたかたも居るかもしれない。しかし筆者は、その手の「情弱な人々を煽る類の役割」を担う気はない。そう言ったものを求められる方は他を当たって頂ければ幸いである。


○「模索段階・準備段階・下積み段階」を一通り経た位の時期に、「勝負できて成果をきちんと享受できる場所・環境」に居る事。

さて、下積み時代をきちんと積んだら、次はこの、「勝負できて成果をきちんと享受できる場所・環境を獲得する事」が重要である。

これは上記の「地道な下積み」と比べると日本人的美点に訴えづらいと言うか美談になりづらいとでも言おうか、多少あざとい面もあるにはある。

しかしそうは言ってもいつまでも下積みのままでは「良い時期・良い場所」を享受する事は難しい。下積みを開花させるために、Effective、Strategicな形で「次の一歩」を踏み出す必要がある。具体的な手段としては、以下のようなものがあるだろう。

・下積み時代を活かして、良好なビジネスモデルで起業・独立する。金銭面以外でも、一緒に働いていて快いと思えるメンバーで、やりたい仕事が出来ると言った要素を重視する。

・下積み時代を活かして、大手企業からベンチャー企業等に移籍して、ストックオプションや株式等のアップサイドを貰える職務に転職・移籍する。金銭面以外でも、一緒に働いていて快いと思えるメンバーで、やりたい仕事が出来ると言った要素を重視する。

・下積み時代を活かして、固定給過半の職務から、固定給+高比率・好条件の成功報酬・出来高給の職務に転職・移籍・出世なり社内異動なりする。金銭面以外でも、一緒に働いていて快いと思えるメンバーで、やりたい仕事が出来ると言った要素を重視する。

上記は金融業、会社員に留まらずどんな分野でも言えることである。医者も、勤務医、開業医、研究者・教育者、大病院経営、病院コンサル、バイオベンチャー起業等色々な立ち位置を取りうる。料理人も、大手居酒屋の調理から、ホテル料理人、料理屋を作り独立、料理書籍の執筆やセミナー等の色々なアウトプットの仕方と言うか、ビジネスモデルと言うか、立ち位置がある。技術者・研究者等、音楽家や芸術家等も同様である。どう言った立ち位置を取るのか、どういった「マネーフローにおける概念的な場所」に立つかによって、収益の出方等も全く変わって来る。

詰まる所、「良い時期・良い場所」を捉えようとするのであれば、安価な給与で自身の時間を切り売りする立場から、成果・付加価値にが正当に経済的にも報われ、質的にも人生の充実感をきちんと享受出来る立場に移行する必要があり、それはどんな業界や職種でも工夫可能なので柔軟に考える必要があるという事である。以下に、金銭面、質的な面の二つに分けて、この点についてもう少し掘り下げてみたいと思う。


○金銭面で重要な事。

ここで金銭的な面において重要なのは、下請け仕事、時間切り売り仕事から脱出するという事である。

会社員の場合は、上司の下請け仕事・会社に固定給でコキ使われるだけの状態から脱出して、自身の仕事、自身の付加価値に応じた経済的アップサイドのある仕事が出来るようになる必要がある。起業する場合も、規模は小さくとも自身できちんと営業をして受注を取り、付加価値の取れる「元請け」になる必要がある。

つまり個人にせよ企業にせよ、下請け・時給での時間切り売り商売から、月額/年額固定の基本フィー+レベニューシェア・成功報酬、と言ったアップサイドのある「良好なビジネスモデル」「沢山のお金が流れており、個人の付加価値が多く取れる良好な場所」に移動する必要があるのである。

(注:「どんなビジネスモデルが良好なビジネスモデルなのか」と言った点についてピンと来ない方は、普通にキャッシュフロー経営だの競争戦略だのバフェット投資だのの分野を各自勉強して欲しい)。

一般には、企業ブランド・組織・インフラでビジネスが回っており個人の付加価値部分が小さい大手よりも、個人の成果が問われリスクも高い小規模組織の方がこう言った条件は得易い。日系か外資かなら外資の方が解雇リスクもある分こう言った条件は得易い(尤も、昨今は日本企業でも大規模リストラは多発しており、日系なら安泰なのかと言う所は昨今微妙になっており、アップサイドは無くてダウンサイドリスクだらけと言った状況になってしまっている日系企業も見られるようにも感じるが)。

このアップサイドなしに、ただただ我慢と苦労だけを重ねていても、報われるものは少ない。たとえ景気が良く右肩上がりの業界・企業・場所に属していても、言わばマネーフローの観点から見た「自分自身の概念的な居場所・立ち位置」が良好なものでないと、その恩恵をきちんと受けて報われる事が出来ないのである。

これは筆者にも苦い経験があるので、筆者の例で説明しよう。

筆者は2003-2005年ごろの日本株の回復、ライブドアや村上ファンド等に代表されるような中小型株バブルの時に、既に日本株でアナリストをしていたし、正に中小型株の調査を行っていた。中小型株の調査は楽しかったし有意義であった。「100億円部長」と呼ばれ一世を風靡したファンドマネジャーが在籍していた投資顧問会社の他、大量保有報告で賑わしていた中小型株中心のヘッジファンドが投資していた分野と似たような銘柄を筆者も調査してもいた。つまり、「外部環境」「内部環境」とも、この時筆者は「良い時期・良い場所」に居た。棚からぼた餅が降っていたのである。

しかし、筆者はこの時点ではまだ、「準備・下積み」の段階で、「勝負できて成果をきちんと享受できる場所・環境を獲得する事」が出来て居なかった。年齢的にまだジュニアとしての位置づけだった上、比較的大手の運用会社に居たため、筆者個人の立ち位置としては固定給が過半で、出来高給部分が小さかったのである。

筆者の所属していた運用会社も、そのファンド群も大変に儲かった。筆者よりも一回り位年上で、90年代の中小型株投資の黎明期からこの仕事をしていた同業者の先輩の中には、もう働く必要が無いくらい・引退できる位のひと財産を築いた者も少なからずいた。彼ら・彼女らにとっては、90年代の中小型株黎明期の頃から下積み準備をしたものが数年~10年内外の年月を経て遂に花開いた訳であるから、正当な報酬であるし尊敬すべきものだ。

しかし筆者の実入りは引退等とは程遠い、言ってみればジュニアの小遣い程度のものであった。筆者は棚からぼた餅が降っている所に居ながら、皿や箸の準備が出来ていなかった、「勝負できて成果をきちんと享受できる場所・環境を獲得する事」が出来ていなかったのである。このため降って来たぼた餅はむなしくも、はかなくも、悔しくも、情けなくも地面に落下して土と埃にまみれて終わったのであり、これを享受する事が出来なかったのである。今となっては「日本株の、中小型株の調査が専門なんです」等と言っても得られる仕事もない。旬を過ぎれば・祭りが終わればそんなものである(勿論、筆者に関しては今のキャリアに至ったのもこのブログのエントリを書けるに至ったのもこう言った時期・経験があってこそなので、全く無駄だったとは思わないものの、客観的に見れば・言えばそう言う事である)。

得てして「努力はとにかく美徳だ」と言った雰囲気になりがちかも知れないが、実際には「Effectiveに、報われる形で努力する」必要がある。

棚からぼた餅が降っているその時・その場所に、きちんと下積み時代も終えて皿と箸を持ちお茶も淹れておいて、「勝負できて成果をきちんと享受できる場所・環境を整えた状態で」その場に居合わせる必要がある。

そのためには独立したり、大手から名前も聞いた事もないようなベンチャー企業に転職したりする必要がある事も多く、決断とリスクも伴う。これは単に時代や経済の流れを予測出来る知識能力云々とか偏差値・IQが高いの低いの言う話ではなく、人間としての胆力や決断力に関わる話であり、これが結構大変なのだ。勿論、経済・時代の流れや良好なビジネスモデルがどう言ったものか等をある程度読める位の一定の知識・能力は必要な面もあるにはあるが、実際に最後に問われるのは胆力・決断力である。この点に十分な留意が必要である。


○質的な面で重要な事。

また、金銭面以外の面においても、キャリア上のどこかの段階で、一緒に働いていて快いと思えるメンバーで、やりたい仕事が出来ると言った要素を重視する必要があると筆者的には思う。

まず根本的な意味合いにおいて、嫌々仕事をしていては、「良い時期・良い場所」とは言い難いだろう。やっていて楽しいと思えない仕事、人間関係等がギスギスしていても稼げる仕事はあり、金銭的に稼げさえすればそれは「良い時期・場所」と定義出来ると言った反論もあるかもしれない。しかし筆者個人の考えとしては、質的な面も伴ってこその「良い時期・良い場所」であると考える。

また、会社が悪い、上司が悪いと組織や上司、他人のせいにしてしまっているうちは、「自身の仕事」は出来るようにならないようにも思う。仕事の完成度・出来不出来にも影響してくる。踏み込みが甘いと言うか、腰の引けた仕事にどうしてもなってしまう。「会社さえまともなら・上司や同僚がもうちょっとまともなら、俺は/私は本気を出せて、もっと面白い仕事が出来て、成功するはずなのに」等等と自身ではリスクを取らずに評論家風にぼやいて居るうちは、下請け時給労働からは中々脱出は出来ない。ひいては金銭的にも報われる結果にもならない。

本当の勝負は、人間関係も良好で、やりたい仕事もやれる環境が出来て、それに全力投球をする所から始まる。それでも沢山の困難にぶつかるし、ビジネス的に上手く行くか行かないかは分からない、位のものである(筆者も現在、自らの経験としてそれを実感している)。

人間関係等でエネルギーを使っていては建設的な仕事は中々出来るようにならないし、自身はリスクを取らずに評論家風に物事を会社や上司(あるいは日本政府やだめな政治家や日本経済等の外部要因)のせいにしているうちは「良い時期・良い場所」のスタート地点にも立って居ないとも言えるように、筆者個人としては思う。

先ず一歩踏み出して、評論家から当事者になる、必要な所では各自可能な範囲でリスクも取って自分自身がきちんと自分の人生の主人公になる所から、「良い時期・良い場所」への旅路は始まるように思う。


○おわりに

下請け仕事・時間切り売り仕事から脱出する際には、軋轢や周囲の反対もあるかも知れない(特に上司・雇用先企業・今まで自身を下請けとして人月幾らとかコスト+大変薄い利幅等で使っていた元請等からは嫌がられる可能性はある)。

また、大概の場合は大手の安定した企業から外資やベンチャー企業に移籍したり、場合によっては独立したりと言ったキャリア的にもリスクを取った決断を伴う必要があるし、社内で出世等する事により上記を達成する場合も周囲に波風を立てる事を覚悟で何らかのリスクを取る必要があるだろう。自身も迷うかもしれない。また、思いやりのある同僚や友人等は心配するかもしれない。

しかし、「良好な時期・場所」に行こうとなると、恐らく自然と、何らかの一歩を踏み出す必要が出てくるだろう。

一方で、無理して「良好な時期・場所」の幸運を狙いに行かないというのも決して臆病とか軟弱と言う訳ではない。賢明な判断の事も多々あるし、幸せな判断の事も多々ある。実際、リスクテイクして心身・社会的立場等色々壊れてしまった挙句に『異界』行きになってしまうような事例も見られるので、筆者的にはリスクテイク万歳等とは無責任には言えない。そこは各自の価値観に基づく判断による、と言う事になるだろう。


○まとめ

長くなったが、こんな所だろうか。最後にまとめると、「良好な時期・場所」の僥倖を得たいと言うかたは、以下のような準備を重ねる、と言う事になる。

・各自の内部環境・個別要因的に「好きで得意」な有利な分野を、出来るだけ若いうちに試行錯誤して定めておく。

・下積み時代を一定量経る。

・「内部環境・個別要因的に好きで得意」な分野と、「外部環境的に有利な分野」が交差する領域を探す。これは以前のエントリでも書いた通り、単純に成長業界だとか、一般的に人気業界だとかではない。自身が熱意を持って取り組み続けられて、かつ変化率の大きさが狙えそうな場所である。一般には衰退産業と言われていても、意外な所にチャンスがある場合もある。理詰めで探すよりも、「好きで得意」を探求していく中で、直感・感覚に任せた方が見つかる場合も多いように思われる。

・上記交差領域において、取る事の出来るリスクを考える。起業・独立するのが一番ハイリターンだし勇ましいがハイリスクでもある。独立向きでない人、参謀や専門職向きの人、大企業の社内出世や社内起業制度によるスピンオフ等による自己実現の方が合っている人等も居るだろう。「内部環境・個別要因の良い時期・良い場所」に通じる話であるが、自分はどの程度のリスク位までなら取れるのか、と言った要素はきちんと考慮すべきである。

・そして人生の段階において早すぎない段階で決断する(下積みは経た方がいい)。さりとて人生の段階において遅すぎない段階で決断する(住宅ローンで家を買い子供など出来、年齢的にも転職等が難しい年齢になると、勝負に出づらくなる面は確実にある)。

・以上を踏まえて、各自の責任とリスクテイクのもと、「金銭的・質的な面の双方で良い時期・良い場所」の幸運が得られる方向に、慎重に、かつ必要に応じて思い切って、一歩前に踏み出す。

・一歩踏み出した先で根気強く努力と改善を重ねながら、ぼた餅の機会を伺う。

・リスクを取ったものの上手く行かなかったりチャンスを見逃した場合は、人生一休みする、MBA留学等して社会復帰を図る、繋ぎの仕事で何とか食いつなぐ、等等しながら何らかの形でリカバリーを計り、これも学びだと理解して、次のチャンスを伺う。以下繰り返し。

…まあ、何か楽して成功できるような裏技でも何でもないし、こんなの当たり前じゃないか、これを実際やるのが大変なんだよと思われるかも知れないが、全く以って仰る通りである。そこは無料で趣味でやっているに過ぎないブログである。何卒ご理解・ご容赦頂ければ幸いである。

(参考図書)


今回書いたような文章で何か感じるものがあるかた、転職すべきかしないべきか、独立すべきかしないべきか、進路選択をどうしようか、などと考える岐路にあられるかたには、上記書籍を読む事を強く勧める。浅薄に無責任にリスクテイクを勧める訳でもなく、盲目的に安定を重視する訳でもなく、人間ドラマとしての「人生の選択」が生々しく心に響く形で書いてある。何か得る所があるはずである。

2012年10月21日日曜日

○「良い時期に良い場所に居る」とはどういう事なのか? その2:内部環境・個別要因としての「良い時期・良い場所」について


さて、次は「個々人の人生のタイミング、置かれた境遇等の良い時期・良い場所、つまり内部環境における”良い時期・良い場所”」について解説したい。


○内部環境・個別要因の”良い時期・良い場所”

先に述べた「外部環境における”良い時期・良い場所”」については、そこに属していれば確かに追い風で上手く行くだろうなあ、そう言った業界なり仕事なりを予測して先回りして発見したいなあと言った発想は比較的少なからずの人が考えるようにも見える。インダストリーライフサイクルやポーターの5 Forces等、良い時期・良い場所を理詰めで調査・分析する手法もある程度確立している。(実際、”良い時期に良い場所に立つ”と言う事を実行に移すとなると中々胆力が要るものの)「外部環境」で良好な位置を探すだけなら、乱暴な言い方をすればある程度は「技術・知識」でどうにでもなる面はある。

一方で、「内部環境・個別要因における”良い時期・良い場所”」については比較的見落とされがちのように思う。感覚的には、外部環境を予測して先回りする事ばかりを表面的に追いかけてしまう人が少なくないとでも言おうか。

しかし、外部環境と同等かそれ以上に重要なのは、「個々人の人生のタイミング、置かれた境遇等の良い時期・良い場所、つまり内部環境における”良い時期・良い場所”」であると筆者は考える。そこで、この点については比較的字幅を割いて説明したい。

内部環境における”良い時期・良い場所”についても、幾つかあると考える。今回は先ずはその一つを例示したい。


○「何が好きで何が得意なのか・何をやりたいのか」が明確になった時期に、その分野・その場所に居る事。

最初に述べておきたいのは、最初に何にも増して重要なのは、「外部環境の前に先ず自分自身、己をきちんと理解する事」「何が好きで何が得意なのか・何をやりたいのかが明確になった”時期”に、その分野・その”場所”に居る事」だと言う事である。今回は、この点について幾らか長々と書いてみたい。興味がある方はおつきあい頂けると幸いである。

経済的成功と言ったそっち系の話題の話をすると、成長する国・地域はどこか?税金も安いし何か繁栄してそうなシンガポールか?シリコンバレーか?他の新興国か?成長業界はどこか?投資銀行?ネット関連?職種は何が流行るのか、アナリスト、デリバティブ、証券化、M&A、ヘッジファンド?等と、外部環境的に「追い風っぽい場所」を探す事ばかりに腐心していて、儲かる場所を探して頻繁にジョブホッピングをし、何がしたいのか傍から見ても本人自身もよく理解していないような人がどうしても散見されるように思われる。ビジネス・企業でも同様で、売れそうな商材・分野に飛びついては結局強みを出せずに失敗、を繰り返すような所は少なくない。

こう言う人・企業は、「次にどこが来るのか、ブレイクするのか予測して、先回り出来れば儲かる、それが重要だ」と考えているように見える。確かにまあ、株のトレード等の「お金をあちらからこちらに移せば良い事、ダメなら損切りして次に行けば良い類のゲーム」ではこれはある程度は言える。

しかし、仕事・キャリア等でこれを単純に適用するのは筆者は賛成しない。理由は幾つかある。今回はこの理由を述べる中で、「内部環境・個別要因における”良い時期・良い場所”」について考えるきっかけを提供出来ればと思う。


-「仕事・キャリアは株のように流動性が高くない」かつ「過去の経歴が将来の経歴に影響を与える経路依存型のゲームであり株のようにトヨタを損切りして次はネット関連、と言う訳には行かない」と言う面。

株の場合は、好きなだけびゅんびゅん売買すれば良い。しかし、キャリアの場合は、転職するにも金融のような流動性の高い世界でも2-3年に1社位が限界である。

また、同じ分野であれば金融等の場合であれば比較的価値も維持向上が図りやすいが、全く違う分野を短期間でジョブホッピングばかりしていると価値が看過できない程に下がる。履歴書がどんどん長くなる一方でそこにある程度の一貫性がないと、「何がやりたいんだこの人は」「このひとの専門はなんなんだ」と言う雰囲気が否応無くにじみ出てしまい、次第に誰からも相手にされなくなり易いという事である。

更には、いったんある職種・分野を手掛けたらそれを変える事が出来る・色々試行錯誤出来るのはせいぜい30歳位までであり、30代以降で未経験の仕事をするのは相応に厳しくなる。40歳になったらキャリアアップ云々は概ね終了と考えて良いだろう。転職自体も容易ではなくなる。

もっと言えば、大手企業から小規模のベンチャーに移ったり独立したりする事は移った先・独立した先で成功するか否かを別にすれば比較的簡単に可能だが、基本動作から学び直したい・失敗したから働く口を確保してやり直したいからベンチャーや個人商店から大手企業に入社したい等と言う事は特に日本の場合は非常に難しい(殆ど無理だろう)。だから一般的には「最初は大手企業に入って履歴書・信用・ベーススキル等を磨いてから小規模ベンチャーに行ったり独立する方が良い」と言うアドバイスを年配者はするのである。筆者の考えでも「今時終身雇用で一生安泰等と考えて大手企業に入るのは危険だが、特段物凄くやりたい事がある訳でなければ、キャリアステップの最初の一歩、学習・キャリア模索の場として大手企業を選ぶのは妥当」だと思う。

こう言った「流動性の低さ、タイムホライゾンの長さ」「物事の順序」と言うものがキャリア構築にはあるのであり、比較的低コストで損切り・利食いしては短期に頻繁にポジションを変えられる株のトレードとは全く異なる点である。こう言ったゲーム特性の違いを理解した上で、詰まる所「何度か弾は撃てるが、幾らでも弾が撃てる訳ではない」と言う事を理解して、きちんと腰を据えてキャリア構築・職業選択については考える必要がある。

そして、腰を据えてキャリア構築・職業選択について考えるとなると、外部環境の分析もいいが、それ以前に「本人自身が何が得意なのか、何をしたいのか、何なら楽しくやれるか」と言った点について考える事は不可欠である。第一には上記のような理由から、「外部環境の前に先ず自分自身、己をきちんと理解する事」が重要であると筆者は考える。


-「視点が表面的になり、どうしても参入タイミングが遅れがちになる」と言う面。

また、表面的な理由で儲かりそうな分野を探しては移ると言うやり方では、どうしてもブームの後半からゲームに参加する事になりがちで、ゲーム的に有利な展開で進められないという面もある。業界内部者・職種内部者よりも、視点や知識が表面的になるしブームが分かるのが遅くなりがちのように思う。

儲かる話と言うのは、大概の場合はそれが一般に明らかになるだいぶ前から「兆し・黎明期・助走期間」と言った形で底練りを続ける時期がある。元来その時期(の出来れば後半、成長期入りする直前位)から参入するのが一番良い訳だが、表面的に儲かる事ばかり求めて右往左往する外部の人間にはこう言った段階の「きざし」と言うのは中々目に入らない。その時点では儲からないし、地味だからである。

一般の目にも分かりやすい形で情報が入ってくるタイミング、例えばマスコミで成功者が話題になったり、学生の就職ランキングで上位に入ったりするようになるのは、得てして成長もピークアウトに達しつつある時が多い。また、既に競合もひしめいており、企業であれば多数の参入者も出てきているだろうし、仕事であれば高学歴・ハイスペックの志望者が大挙しているだろう。競合が多くなると自身が提供出来る付加価値はどうしても減りがち・有り体に言えば価格競争等にもさらされがちであるし、ライバルとの競争もしんどいものになる。そう言った時期になって飛びつくのでは既に遅いのである。しかし、表面的な儲け話の事ばかり考えていると、どうしても手遅れになってから飛びついてしまう傾向にあるように思われる。

株でもブーム・話題になってから飛び乗るのでは、飛び乗ってはピークアウトして飛び乗っては…の繰り返しになってしまいがちであるが、正にその状態である。筆者の場合、全くノーマークの銘柄がブーム・話題になった場合、相当長期で見込める投資テーマなら別だが、見つけた者勝ち的な話の場合は特に、見送って次に行くようにしている。テンポを「後から飛び乗ってはピークアウト」ではなく、「事前に仕込んでプロフィットテイク」のサイクルにしないといけない。実業の仕事についてもこれは同様だと思う。

同業者を見ていても、投資銀行等でその時のブームに相乗りするような形でデリバティブが儲かっているからそっちへ、証券化が良いからそっちへ、プロップトレーダーも分が良いみたいだ、バイサイドも温くて楽そうだしちょっと一休み代わりにバイサイド行くか、履歴書作り・所得回復のためにセルサイドに戻るか…等と哲学なしにポジション変更が激しすぎると、一時的には高いボーナスが貰える時もあるものの、リーマンショックの後に長らく仕事が得られなかったり、年齢と共に履歴書的にコーナーに追い詰められてしまい「次が無くなる」事が少なくないようにも見受けられる。ブームの後半から相乗りすると、その後にショック・リストラ局面が訪れる確率が高くなるし、そうなった場合には後発参入者で社内政治の基盤も弱い場合も多い事から解雇対象にもなり易いように思う。

小生の従事しているヘッジファンド業界についても然りである。隣接業界の投資銀行等に勤めている者ですら、少なからずが米国の成功事例等を見ては弊業界に過大な夢を抱いてしまって、立派な投資銀行のキャリアを捨てて参入しては散っており、散った後の職探しには難航しているケースが少なくない。注意が必要である。

昨今、産業・企業・職種等のライフサイクルも短期化しており、職業選択・キャリアステップ等のタイムホライゾンより、産業・企業・職種等のライフサイクルの方が短期間で栄枯盛衰するようになってしまっているようにも思う。この点を考えても、外部環境で既に素人目にも儲かっていそうだと分かるようになってから次々波乗りをしようと思っても、上手く行かないようにも思われる。

では「兆し・黎明期・助走期間」のうちに参入するにはどうすれば良いかと言うと、「外部環境の前に先ず自分自身、己をきちんと見つめて、理解する事」であると筆者は考える。ベクトルを外へ外へと向けるのではなく、先ず内側へ向けて自己の内部を旅してから、外部に帰還するのである。

つまり、別に全ての外部環境のブームに乗れる必要はない、と言う事である。人生とは、バフェットで言う所の、「見逃し三振のない野球」である。ボールは次から次へとどんどん投げられて来る。昨今時代の変化も速くなっているので、どんどん球が来る。これを全部振りに行く必要はないのである。3ストライクで三振と言ったルールもない。先ずは自身の得意な球をじっくりと見定めて、それが来た時だけ渾身の力で振り抜けば良いのである。

上記の野球の例えを実際の話にすると、自身が好きだ、パッションを持ってやれると言う分野を探求していく中で、幸運も重なって「成長のタネ・兆し」の分野に当たる事が出来たり、既存分野に一工夫を加えてProfitableなビジネスに出来たりするのである。好きな分野であれば自然と必死に考えるし長時間の仕事も余り疲れずにやれる。興味も持続するため他の人では中々気づかないような、自身に合ったニッチを探し出せる可能性も高くなる。

そう言う意味で、好きである・情熱を持てる分野を見つけた”時期”に、情熱のもてる”場所”で戦うというのは、それだけでその人にとって大きなアドバンテッジになるし、外部環境に関わらず(仮に衰退産業であっても)その人にとっての”良い時期・良い場所”になりうる。自身が好きな分野であれば、一見すると衰退産業のように見えても、自分の趣味・特技を生かした意外なニッチ分野等も発見しやすいように思う。例えば、とうふ業界のヒット商品「ザクとうふ」等はその手の例として挙げられるだろう。

一見遠回りのようだが、この方が結果的には近道になることも多いように筆者個人的には思う。

こう言った理由からも、外部環境ばかり追い回す前に、先ず己の理解からするのが重要であり、「何が好きで何が得意なのか・何をやりたいのか」を人生の出来るだけ早い時期に模索・試行錯誤を重ねて発見し、これが明確になった時期に、勝負出来る分野・その場所に居るのが良い、と言う事になる。

高校生・大学生・社会人の最初の数年位の時期等は特に、浅知恵で儲かってそうな業界・安定して有利そうな業界等を探して右往左往すると言った事をするのではなく、「自分は何が好きで何が得意なのか・何をやりたいのか」を色々な人生経験、模索・試行錯誤を重ねて発見する事に意識を向けて欲しいと思う。これが早めに見つかった人ほど、それだけでその人自身にとっての「”良い時期・良い場所”」は近づくように思う。


-そもそも論的な話。

更に筆者個人の考えを述べれば、そもそもの所で、表面的に儲かる分野ばかり探して右往左往するより、ちゃんと本音で楽しいと思えるような事をやった方が人生として清清しいだろうとも思うし、金銭的に成功しようが失敗しようが悔いがないと言う面においても良かろうかとも思う。好きな分野をさがして、そこで勝負に出る、と言うのは、”後悔”と言う人生において最も避けたい損失のリスクをヘッジ出来て良かろうかと思う。

以上より、「外部環境の前に先ず自分自身、己をきちんと理解する事」「自身が何をやりたいのか腑に落ちた”時期”に、やりたい分野・”場所”で勝負する事」を、筆者としてはお勧めしたい。

他にも”内部要因としての良い時期・良い場所”として説明する事柄はあろうかと思うが、だいぶ長くなったので次回に回したい。

○「良い時期に良い場所に居る」とはどういう事なのか? その1:外部環境の”良い時期・良い場所”について。



最近、「良い時期に良い場所にいる事が重要」と言った事をツイッターで何度か呟いた所、比較的反響があった。今回はこの点について書いてみようと思う。


○円滑なキャリア・人生を重ねる上で重要なのは、「良い時期に良い場所にいる事」。

筆者は末席ながら中小型株など含めて延べ1000銘柄以上の企業を過去取材して企業の栄枯盛衰や経営者・起業家等の人生模様を観察する仕事をして来た。また、同業者についても経済的に成功した人、いったん成功したが異界(?)行きとなった人、知識やスキルは高いがボチボチ・いまいちな人、全般にボチボチ・いまいちな人など色々な人々が筆者の前を来ては過ぎするのを気づいたら10年以上眺めていた事になる。そうやってこの株式市場と言う栄枯盛衰・祇園精舎の鐘の声の縮図のような世界と関わる中で実感した事がある。

それは、相場においては「良い時期・タイミングに良い場所にいる・良いポジションを取る」事に尽きるのと同様に、円滑なキャリア・仕事を重ねる上で重要なのは、「良い時期に良い場所にいる事」であるという事である。つまり単に知識が沢山あり資格があるとか、秀才で優秀だとか、偏差値が高い・高かったと言った事柄は、少なくとも経済的・私生活等も含めた人生全般における成功のためのKey Factorではないと言う事である。この点から勘違いしている人でひとかどの人物になっていると言う事例を筆者は余り見ない。

「良い時期・良い場所」。この言葉の出所は筆者ではない。元ゴールドマンサックスのプロップトレーダーで、少し前までヘッジファンドのゼンパーマクロを運営していたクリスチャン・シバ・ジョシーの言葉である(注)。言い得て妙、名言だなあと思う。


○「良い時期」「良い場所」とは?

では、「良い時期」「良い場所」とはどういう事だろうか。

筆者の定義では、「良い時期・良い場所」について二つの定義を持っている。一つは「外部環境の良い時期・良い場所」、もう一つは「個々人の人生のタイミング、置かれた境遇等の良い時期・良い場所、つまり内部環境・個別要因における”良い時期・良い場所”」である。以下に、外部環境、内部環境に分けて「良い時期・良い場所」について記載したい。内容が多くなりそうなので、恐らく数回に分けて書くと思う。


○外部環境の”良い時期・良い場所”の定義。

外部環境の良い時期・良い場所とは、例えば以下のようなものを指す。

-マクロ経済がボトムから回復に向かう正にその時のその国・地域。
-民主化・若い人口動態・外資導入等により新興国が先進国に移行していく正にその時の国・地域。
-黎明期から成長期に移行する辺りの業界。例えば80s~90s前半位の外資系金融東京支店。
-スタートアップから成長期に移行する直前、上場する手前位の企業。
-窓際職種・安月給のオタク職種から花形職種に移行する直前位の職種。

言ってみれば、「マイナーでうだつの上がらない状態から、スポットライトが当たり始めるまさにその過程」「カネが無かったのが、丁度大量のマネーが流入し始める正にその過程」位のタイミングである。

2000年代の前半、日本経済がボトムから回復に向かう正にその時に、ある同業者は低利でフルローン全開で不動産を買い、ひと財産を作った者がいる。シンガポール人はただその国に住んでいただけ、たまたま建国直後に一戸建てを買っていただけで今や5-10億円長者である。業界・企業だとITバブル崩壊直前、上場直前に上手く新興企業に入社出来た者だと一般平社員・秘書などまで応分の株を貰っていて数千万円~億円単位のお金を得た者も居る。80年代には当時冴えない職種だったらしい株式調査部に配属されてもそもそと統計資料に埋もれていて会社もサボりがちだったような当時の若者は、90年代の間接金融から直接金融のシフトや投資家の機関化の進展等に伴い「アナリスト」として花形の高給取りになった。

こう言った人たちは、勿論中には虎視眈々と「まさにその時」を意識的に狙って経済的に成功した者もいるにせよ、少なからずは「たまたまその時期にそこに居たから成功した」と言う事である。しかしその時期にその場所に居れば(それが持続可能か否かと言う問題、私生活での幸せと言ったものと得てして両立出来なかったりしてバランスを崩しがちだと言った問題もはらむものの)実際金銭的な観点に関して言えば、一時的にせよ成功するものなのである。

これを「人生所詮運だ」等と嘆く人もいるが、嘆いた所で何の意味もない。人生そう言うものなのだ。ただその時にその場に居ただけで幸運を享受する事もあればその逆もある。人生そう言う面があるというのは変え難い事であり、これを受け入れる事から全ては始まると思う。

また、上記のような「黎明期から成長期への移行」だけでなく、逆に以下のような「成功・バブルが弾ける瞬間」「成熟・衰退後の残存者メリット享受・需要の復活」と言った局面も、チャンスを上手く捉えられれば”良い時期・場所”となりうる。

-バブル崩壊・経済崩壊の一歩手前。
-衰退・リストラが長期間に渡り続いていて、残存者メリットが出始める辺りの業界。

前者の例では、日本人ではソロモンブラザーズで日本のバブル崩壊にBetして巨大な利益を上げた明神茂氏が居る。氏はソロモンブラザーズにて(東京支社ではなくグローバルの)経営陣にまで上り詰め、現在はヘッジファンドを運営している。また、最近の例ではサブプライム崩壊で利益を上げたポールソン等が有名である。

こう言ったパターンだと、「たまたま」で利益を上げるのは中々難しく、「長い長い無名期間を経て、ついに花開く」と言うパターンが比較的多いだろうか。明神氏は1989-1990のバブル崩壊で利益を上げたが70年代から証券業界で仕事をしていたし、ポールソン氏は80年代よりコンサル・投資銀行・ヘッジファンド等を転々としてサブプライム危機の前はイヴェントドリブン等を手掛けており、比較的目立たないヘッジファンド業界の一人、と言った程度であった。

後者としては2000年代前半~中盤の鉄鋼業界・海運業界・資源会社(日本の場合商社)等が挙げられる。これらの業界は90年代は供給過剰で苦しみ、販売価格はずっと低迷しており、リストラや生産能力の縮小・供給能力の削減・バランスシートの劣化・業界再編等がずっと続いていた業界である。そこに2000年代に入って中国と言う巨大需要が発生した事で一気に需要が増大し、再度時代の寵児へと返り咲き、ボーナスも増えたというパターンである。株価も大きくドライヴした。就職等でも学生に人気の業種に返り咲いた。(まあぼちぼちピークアウトかな等とも思う訳だが、それはここでは置いておこう)

他にも例は色々あるだろうが、「外部環境における良い時期・良い場所」とは、言ってみれば、外部環境の変化率が一番大きい辺りと言う事だ。ボラティリティイズフレンド、ビッグチェンジのタイミングはチャンスなのである。オプションで言えばガンマロングのオプションの価格が一気に数倍に化ける手前のあたりの時期に、オプションのロング的なポジション・立ち位置を確保しておく事が重要だということである。それを具体例で説明すれば、大まかには上記のような状況が「外部環境の”良い時期・良い場所”」と言う理解を筆者はしている。

次に内部環境・個別要因における”良い時期・良い場所”について説明したいと思う。上記のような「外部環境」については実は重要度としては必ずしもそれ程には高くなく、実際の所は「内部環境・個別要因における”良い時期・良い場所”」と言うのが非常に重要だと考えて居る。とは言え、文章もだいぶ長くなったので次回に回すことにしたい。


注:出所はこちら。



成功したヘッジファンドマネジャーのインタビュー集である。Amazonで星1つになっているが、これは最悪の翻訳者による、グーグルの自動翻訳以下と思われる翻訳の酷さのせいである。原著者はファンドオブファンズの運用者できちんとした知識をベースにして取材しているし、原著の内容自体はマーケットの魔術師と並べて良い位大変に良いと思う。興味のあるかたは原書を当たるか、翻訳の酷さを割り引いて何とか日本語で読むかして頂けると幸いである。