2012年6月16日土曜日

○ヘッジファンドの中年以降のキャリアステップ その3:ヘッジファンド業界の一般市民がシニアになってから(あくまで現在の所は)選びうる"あの人は今?"色々。


さて、今までで、1.一般のかたが夢描く「成功者としてのゴール」。2.多くの方が夢描く「独立・一国一城の主」の実際。…と言った点について紹介を試みてみた。

今回は、更に一般的とでも言おうか、特段ドラマチックに大成功する訳でもなく、ドラマチックに起業して悪戦苦闘する訳でもなく、無名の一般市民が特段大成功する訳でもなく大失敗する訳でもなく中年を迎えた場合にどうなるのかと言う所について考えてみたいと思う(大多数のかたにとってはこの辺の所が一番身近な所でもあり、知りたい所であろうかとも思う)。つまり、ヘッジファンド勤務者特に運用やリサーチ等のフロント業務の人間の「流動的で不安定とは言え現時点で考えられる中年以後のあくまで会社員としての落ち着き先」について、現状周囲を見ていてあり得る所をやや五月雨式になるものの紹介してみたいと思う。

ただし、これらはあくまで「2012年の今の時点でシニアな人が、現状の所考えられる落ち着き先」である。今はヤングな皆様やヤングではないがシニアと言うにはまだ早い筆者のような人間が、10年20年後にどう言った先が考えられるのかと言う事についてははっきり言ってよく分からないし明確な事は言えないと言う点についてはご理解頂ければと思う。


○今のところあり得る無名の一般市民向けの「あの人は今?」について、思いつく範囲での一覧。

-シニアになってもヘッジファンドの運用者・アナリスト等の仕事を続ける。

...比較的長期に渡って自身のエッジを確保出来て、独立出来るとか大成功すると言った程には劇的に派手なものではないにせよ「それなり」のトラックレコードを積み上げる事が出来た場合、一定の知名度を確立出来た場合等はこの選択肢はあるように思う。

実際、昨今のヘッジファンド運用者で「第二世代」以前の層は既に40代~50歳内外のはずである(因みに筆者のような、30代で不況しか知らず、アニメやテレビゲームで育った辺りのヘッジファンド業界従事者は「第三世代」等と呼称される)。勿論簡単な事ではないが、こう言った選択肢もあると言う事は言えるように思う。

反射神経が必要な超短期のトレードの場合は年齢と共にしんどくなって来る面はある。しかし、タイムホライゾンを秒・分単位から、数日〜数ヶ月等のポジショントレーダー的な形に移し、リサーチなり過去の様々な相場等を良く知っている事等の年輪の蓄積が効き得る形でエッジが出るように工夫し、ストレスがかかり過ぎないようにして家族や子供との生活と両立出来るようなスタイルを確立する、と言った形に上手くシフトして行ければ、比較的シニアになっても運用の仕事をやれない事はないように思う(まあ、これが結構難しい面はあるのだが)。スポーツ選手で言えば、若い時のように反射神経や豪速球や腕力では勝負しづらくなるが、変化に富んだ配球技術や経験で補いストレッチや食生活等を気配りしてコンディションを整える事で活躍すると言った所だろう。実際に、40代以降もファンドマネジャーやアナリストとしてヘッジファンド業界で活躍されている諸先輩は既にあられる。


-ファンドオブファンズ等のアナリスト・運用者になる。

...ヘッジファンドからファンドオブファンズに移ると言うのは、現在の所比較的多いキャリアステップである。ヘッジファンドを内側から見て実際に運用・調査をして来た経験、同業者の知人や人脈等もあると言った点を活用して、「どのヘッジファンドに投資したら良いか」について調査・投資を行う側に回ると言う事である。日々相場で直接に切った張ったやる訳ではないし、過去の経験蓄積をエッジにし得る分野である事もあり、シニアになっても比較的可能な職種であると言えるかも知れない。

とは言え、ヘッジファンド業界も歴史の浅い商売であると同時に、ヘッジファンドに投資を行うファンドオブファンズ業界も特に日本においてはそう歴史の長い業界ではないし、その立ち位置も完全に定まっている訳ではない。ある程度流動的な面があると言う事は付記しておく必要があろうかと思う。


-年金セールス、ファンドマネジャーと営業のリエゾン、商品企画・マーケティング等、シニアとしての年輪と運用経験が活きる他職種に回る。
-コンプライアンス等の裏方の仕事に回る。
-元々セルサイドで知名度があってヘッジファンドにチャレンジした場合、バイサイドにいて古巣からお呼びがかかった場合等、大手セルサイド/バイサイドに戻るといった選択肢。

…上記のような既存の金融関連職種は、現在の所は「シニアの年輪が生きる、一定のニーズがある職種」と言えるかも知れないし、一定の人材の受け皿になっている。年金基金の理事や事業会社の経営者等と話をすると言った局面においては、ある程度以上シニアの方が風格と言おうか説得力も出易いしやり易いと言った面はある。今後もある程度の受け皿になり続ける事は予想出来る。

しかし証券・運用業界自体が尻すぼみになっている事、年金基金については高齢化社会の進展により払い出し超過で将来的に規模が縮小して行く事を考えると、将来的に(有り体に言えば筆者や読者がシニアになった10年後20年後に)この種の受け皿が存続しているのかと言うのは、良く分からないというのが正直な所である。


-ファンドのコンサルタントになる。
-年金基金等の担当者になる。

…この辺りの運用業界の職種は、AIJ問題等で年金基金におけるプロフェッショナルの重要性、あるいは第三者からのデューデリジェンスや評価の必要性が認識されたようにも思うので、今後人材の受け皿になる可能性はあるように思う。

現状の所、ファンドのコンサルタントや年金基金担当者で、実際にヘッジファンドの運用に従事した事のある人材は現状極めて乏しい。

一方で、世界的に成長率の鈍化に国債金利の低下、有り体に言えば「日本化現象」が進展中であり、国債を買ったりロングオンリーで株を買っておけば(いわゆるβを取る運用をしていれば)年金が増えて行くと言う時代は終焉を告げつつある。短期的にはAIJ問題等により年金基金のヘッジファンド投資の流れは中断されてしまった感は否めないが、中長期的に考えれば、国債金利も低いしロングオンリーでも厳しいと言える訳で、代替投資としてのヘッジファンド、αを取ることで年金に必要な絶対リターンを確保する必要性は高まって行くものと思われる(微妙にヘッジファンド業界からのポジショントーク、セールストークなのはご容赦頂きたい 爆)。

上記の状況を考えると、今後ヘッジファンドでの経験のあるシニアが上記のような職種に必要とされる可能性は比較的あるのではないかと思われる。

一方で、高齢化社会の進展により年金は支払い超過で徐々に年金基金のサイズ自体が小さくなっていく所も多いだろうから、仕事の数としてそんなに増えるのだろうかと言う面もある。中々判断は難しい所である。


-大学で、ファイナンス・経済学科等の講師・教授等になる。

...教職と言うのは金融シニアの落ち着き先として比較的人気がある。しかし少子化で大学の教職の席数にも限りがある。著書や論文執筆等の実績も必要と思う。今後は中々大変かも知れない。

それでも日本ではまだ実務界と教育界の交流が不足しているようにも思われるし、日本において金融を実業として発展させるには大学でこの手の交流がなされて若手が育つ環境を作る事は重要であるとも思われる。この事を考えれば、今後も一定のニーズはあるだろう。


-金融業のヘッドハンターになる。

...同業者内に人脈の多い場合等、こういった選択肢もある。しかし昔はヘッドハンターも儲かったそうだが、昨今金融業界の年俸水準自体が低下している事、採用も減っている事、ヘッドハンター間の競争激化等で、中々簡単には行かないビジネスのようである。


-事業会社の財務・IR等の仕事(元々株のアナリストだった場合等)。
-IRコンサル等、関連分野のコンサルタントになる。
-証券取引所等での仕事。

...昨今、比較的この手の転職は増えているように思う。金融業界自体、あるいはアナリスト、トレーダー、ファンドマネジャーと言った職種自体が一つのバブルで今が崩壊過程にあると考えると、バブルで大量供給された人材・スキルが、事業会社や資本市場を支える産業にて活用されるようになる事で、日本企業・日本経済の次の成長がどこかの段階で促され始めるのかも知れない。不動産バブルの発生により不動産への過剰資金流入、投資、過剰供給が為されてバブルの崩壊により起業家にもリーズナブルな賃料でオフィス供給が為されて起業が促されるとか、ITバブルの発生によりブロードバンド網への過剰な資金流入、投資、過剰供給が起きてバブル崩壊により安価なブロードバンドインターネット環境が整ってグーグル、楽天、フェイスブック等が出て来ると言った理屈と同様である。

そう考えると金融業界で働き人余り状態著しい我々も、もしかしたら次のイノベーションの礎として貢献出来るかも知れない訳である。「安価に」と言うのはアレなので脇に置いておくとして、こう考えれば悲観的にばかりなる必要もなかろうとも思うし、中年/壮年になっても中々面白い機会に巡り会う可能性もあるのではなかろうかとも思う。ケンタッキーフライドチキンのおじさんは60代で成功した訳で、まあ人生どうなるかと言うのは最後まで分からないものであるし、そこが人生の面白い所だろう。


-大学・大学院等に戻ってJob Changeする(金融業界担当の弁護士等の仕事、あるいは全く別の職種等色々)。
-違う世界で起業する。
-その他、何がしかの形でご飯を食べる(塾講師、タクシー運転手、ヨガの先生、農業、その他?)

...この辺になると、完全にいわゆるJob Changeなので、特段記載する事はない。人生を再スタートすると言う事である。それもまた人生だろう。


○結論:ヘッジファンド屋さん(あるいは時代の変化の速い中に生きる現代人一般にも?)に重要なのは、今この瞬間に集中する事。

…こんな訳で、色々と「より一般市民向けの、ヘッジファンドの民のキャリア後半戦」について考えられる所を列挙してみた。他にも考えれば色々あるかも知れないが、筆者がぱっと思い浮かぶ範疇と言う事で、この辺にしておきたいと思う。

なんにせよ、日本においてヘッジファンドと言う業界・職種は歴史の浅い分野であり、職種として確立してからまだ期間が経って居ない。日本でのヘッジファンド黎明期は90年代、職種として定着し始めたのは中小型株ブームで中小型株中心に手掛けるヘッジファンドが多数登場した2000年代中頃以降である。また、金融業界自体が今後どうなるのか不透明な面もある。

そんな訳で、結論としては最初に書いた通りで、「ヘッジファンドにキャリアステップ?そんなものないし、戦略的キャリア構築だの定年退職に確実な老後だの安定した生活だのが好きな人がやるような仕事ではない」と言う所に立ち返る事になるように思う。つまり今まで幾らか挙げたのは、あくまで現時点で想定されうる幾つかのあり得る選択肢に過ぎない。数十年先がどうなっているかなど、実際の所は分かりはしない。

時代の変化は昨今益々速くなっており、長期の見通しがつきづらい社会になっている。未来の事など分からないし、元来生きるとはそう言うものである。定年退職までの生涯収入と老後の生活まで計算出来るような気分になっていた一昔前の方が、生き物としての自然なありようから離れていたと言うか、特殊だったようにも筆者個人的には感じる。世界とは元来変化と不確実性に満ちているものなのだと思う。

そう言った中において、大切な事は、将来をやたらと憂いたり不安がったりして元来存在しない「老後までの安定」と言った実際にはありもしない偶像を求める事ではなかろう(無い物はどうやっても手に入らないであろうからエネルギーの無駄であるし、辛いだけだろう)。また、本屋に並んでいるような中身の薄い「経済的自由が云々系の本、成功哲学が云々系の本」に次々かじり付いては3日坊主で終わるような事でもないようにも思う。

大切な事は、ある程度きちんと「現実としてあり得る"あの人は今"」「こうありたいと思うような"あの人は今"的中年像」と言うのを感じたり頭の片隅程度にはおきつつも、「今この瞬間」を有意義に過ごして人生を「生き切る事」であるように思う。

筆者自身も、今まで3回に渡り色々列挙した中のどれに今後なるのか・なりたいのか等について、特段の考えを持っては居ない。ただ今出来る事・やりたい事を続ける事、今日を楽しみつつも将来にも有意義と思われる学びなり向上なりを続けていき、ご縁や自然な流れに運ばれながら自然にどこかに辿りつくだけである。辿りつく場所がどう言った場所であれ、日々悔いなく適度に楽しく前向きに過ごしていれば、その場所が「住めば都」になるだろうと考えている。

昨今、日本企業でも平気でリストラや退職勧奨等がなされ、一昔前は安泰一流と言われていた企業でも今は見る影もないと言った事が比較的簡単に起きる時代である。そう考えると、上記のような発想は、何もヘッジファンド業界従事者だけに言える事ではなく、比較的一般的に必要とされる発想なのではないかとも個人的には感じている。

そんな訳で、3回に渡ってもそもそと書いて来たような内容が、金融業界の皆様、ヘッジファンド業界に興味があるかた、既にヘッジファンド業界にあられる若手等に加えて、他業種のかた等も含めて何かしらの示唆があると感じてくださるかたが一人でも居るのであれば、「未来の不確実性とリスクを取り扱う事を生業とする実務家」の多くの中の一人として片隅で仕事をしている筆者としては嬉しく思う。

4 件のコメント:

  1. 匿名6/16/2012

    いつも楽しく読ませていただいている、セルサイドです。何かと暗い昨今の業界ですが、ついったーと合わせて元気を頂いております。今後の更新も楽しみにしておりますです、はい。

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  2. ありがとうございます!

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  3. 匿名6/18/2012

    いつも楽しく読ませていただいています。齢30を前にして、この度米系大手ヘッジファンドのアナリストに転じることになりました。これまでの経験は米系投資銀行と米系PEだったため自分の今後のキャリアが見えていなかったので、今回のシリーズは今後の自分のキャリアを考えるにあたりとても参考になりました。

    今後のエントリーも楽しみにしています。

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  4. コメントありがとうございます。ご活躍を祈念します。

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