東京電力・福島第一原発の事故は、まだ終わっていない。政府は、東日本大震災の日に出した「原子力緊急事態宣言」を、今も解除できずにいる。放射性物質で汚染された水が流出し、地[記事全文]
人口減少が進む中、自治体による住民への行政サービスをどう維持していくか。この難問について、首相の諮問機関の地方制度調査会が答申をまとめた。自治体合併ばかりに頼るのではな[記事全文]
東京電力・福島第一原発の事故は、まだ終わっていない。政府は、東日本大震災の日に出した「原子力緊急事態宣言」を、今も解除できずにいる。
放射性物質で汚染された水が流出し、地下や海を汚染し続けている。この事実は、原子力災害が今も進行中であることをはっきりと物語っている。
安倍首相は先週、汚染水問題について「対応すべき喫緊の課題」「東電に任せるのではなく、国としてしっかりと対策を講じていく」と述べた。
緊急事態宣言に基づいて設置されている原子力災害対策本部での、本部長としての発言だ。
政府は、現場で事故対応にあたる東電、国の関係機関の責任分担を明確にして、放射能の封じ込めなどに全力をあげる必要がある。
大きな反省点は、東電任せにしていた結果、汚染水対策が後手後手に回り、環境汚染が進んできたことだ。むしろ政府の関与が遅かったくらいである。
首相は、経済産業相に「スピード感を持った東電の指導」を指示した。原子力規制委員長には、「安全確保に向けた原因の究明と有効な対策について、規制当局の立場から全力を挙げて取り組むよう」求めた。
現場での対策は引き続き東電が担うが、原発施設を囲むように土を凍らせ地下水流入を防ぐ工事費の一部を負担する方針を経産省が示すなど、新たな取り組みも動き出した。
ただ、この費用負担は研究費名目である。事態の緊急度を考えると、あまりに腰が引けていないか。規制委も「東電、資源エネルギー庁が中心になってやっている。(規制委は)オブザーバー的に入っていて助言する立場」(田中俊一委員長)と、一歩引いて構えている。
東電と原発推進サイド(経産省)、規制サイド(規制委)が責任を押しつけ合ったり、あいまいにしたりして対策が遅れるような事態は最悪である。
カギを握るのは、やはり規制委である。
規制委は首相指示に先んじて汚染水対策を検討する作業部会を設けた。「地下水くみ上げの効果は」「電源ケーブル管路などでの汚染水の広がりは」などと具体的な検討事項を示して、東電の対策をリードする動きを見せた。積極姿勢をもっと前面に出し、専門的見地から人知を尽くす必要がある。
旧原子力安全委員長は原災本部の構成員でさえなかったが、規制委員長は副本部長だ。事故の教訓から与えられたその権能を最大限いかしてほしい。
人口減少が進む中、自治体による住民への行政サービスをどう維持していくか。
この難問について、首相の諮問機関の地方制度調査会が答申をまとめた。自治体合併ばかりに頼るのではなく、手の回らないところを自治体同士の連携で維持していく新しい仕組みをつくるよう求めている。
財源や人材の不足で、すべての自治体があらゆる行政サービスを自前で提供することが難しくなってきた。そんな現実を踏まえた答申だ。政府には、その狙いが生きるような制度づくりをしてほしい。
答申が示した案はこうだ。
人口20万人以上の市を「地方中枢拠点都市」と位置づけ、近くの市町村と協定を結んで役割分担を進める。都市部から離れた山間部や離島については、町村側の求めに応じて都道府県が行政サービスを代行できるようにする。
自治体間の連携は、すでに人口5万人規模の都市を中心に約80の地域で進み始めた「定住自立圏」が原型になっている。
例えば、ドクターヘリを補う「ドクターカー」を圏内の市町村が共同運用したり、病中・病後の児童の保育を中心都市の施設が引き受けたりといった実績が、各地であがっている。
今後は、東京、大阪、名古屋の3大都市圏でも、高齢化や都市インフラの老朽化が急速に進む。答申は、こうした都市圏でも自治体間の役割分担が必要だと訴えている。
政府が旗を振った「平成の大合併」では、行政が効率化し、広域的な街づくりができるようになったとの評価がある。半面、街づくりのため新たな借金を抱えたり、住民に身近だった役場が遠のいてしまったりという弊害も生じた。
今回の答申は、合併の選択肢を残しつつも、自治体間の横の連携や都道府県の手助けで人口減を乗り切ろうという発想の転換をしたのが特徴だ。
それぞれの市町村がひと通りの行政機能を自前で備えるという本来の自治のあり方からは外れるが、厳しい現状を考えればやむを得まい。
政府は、交付税による支援で連携を後押しする考えだ。
絵に描いた餅にしないためには、自治体に財政的なメリットを感じさせる仕組みにすることが必要だし、住民の意向をどう反映させるかなど、検討すべき課題は多い。
言うまでもなく主役は自治体だ。住民が暮らしやすい地域をどうやってつくっていくか、積極的に知恵を出してほしい。