なぜ企業は、「売上高-利益=費用」という考え方をしなければならないほど、利益にこだわらなければならないのでしょうか。それは、ひとつには、株主の発言力が強くなっているということがありますが、他にも「経営的に出さなければならない利益」というものがあるからです。
■利益にこだわらなくてはいけない理由
まず、貸借対照表からの視点です。貸借対照表は、右側の「負債」と「純資産」というかたちで資金を調達しています。その調達した資金で、貸借対照表の左側の「資産」をまかない、その資産を使って利益を出していることを表しています。
そして、そのコストがかかっている負債と純資産でまかなっている資産を使って利益を出しているのですから、「ROA」がその資金の調達コストを超える必要があります。一般的には、営業利益ベースのROAで5%は必要だと考えています。このように、使っている資産から見て稼がなければならない利益があります。
また、同様に、使用している株主資本から見て稼がなければならない利益もあります。ROE(株主資本利益率)の視点です。こちらは純利益のベースで10%は欲しいところです。
さらに、働く人の福利を向上させるために必要な利益があります。人件費はコストですが、人は機械とは違います。給与が下がってうれしい人などいないはずです。働くことにより経済的な対価を受け取り、それによって幸せを感じることも少なくありません。働くことにより経済的豊かさを実現するためにも、給与をはじめとする待遇の向上が必要です。
そのためには、ひとりひとりの待遇が良くなるような利益計画が必要です。少し細かい説明をしますが、働く人「ひとりあたりの付加価値額を高める」ことが大切なのです。
「付加価値」は、企業のレベルでは「売上高-仕入れ」です。つまり、その会社で新たに作り出された価値が付加価値です。そしてそのひとりあたりの付加価値が上がって、かつ、その配分比率(「労働分配率」)が変わらなければ、待遇は改善します。そのひとりひとりの待遇を改善することを前提とするためにも利益は必要です。
また、借入金の多い企業は、資金計画上からも必要利益額があります。利益を出さなければ、借入金の返済計画に支障をきたす恐れがあるからです。
さらに、株主も適正な利益を要求します。ROEや十分な配当や株価が得られる利益が必要となります。この点では、上場企業の場合には同業他社や他の上場企業との比較において必要利益額というものがあります。そのためにも、経営計画はまず利益から立てるのが正解です。必要な利益額が会社ごとに決まっており、その利益額を達成するために、必要な売上高、経費を逆算していくという順序です。
■利益についての考え方
売上高や利益を執念で出させる経営者も少なくありませんが、それらは執念でなく信念で出すものです。どこの会社でも「売上げや利益を上げろ」ということを言いますが、そもそも、売上高や利益とは何かを十分に考えたことがあるでしょうか。
売上高は、企業と社会との接点です。企業が商品やサービスを提供した「対価」なのです。社会での存在そのものだといってもよいでしょう。シェアは売上げの大きさでしか見ません。商品やサービスを提供してそれをお客さまが買ってくれている結果が売上高ですから、売上高をこれまで以上に上げること、つまり、より良い商品やサービスをこれまで以上に提供して、お客さまや社会に貢献することに信念を持たなければなりません。
利益は、
企業の延命
未来投資
従業員の福利向上
株主還元
社会還元(税)
の手段です。利益なしにこれらをまかなうことはできません。そう考えると、ある意味、利益は自社や社会を良くするためのコストなのです。利益なしに、会社や社会が発展することはありません。だから、適正な利益を出すことにも信念を持たなければならないのです。
売上高が顧客の満足から生まれるものなら、利益は工夫から生まれます。そして、売上高、利益は、良い商品やサービスを社会に提供し、さらに工夫を加えたところから生まれるもので、執念でなく、社会に貢献しているという信念から生まれるものなのです。
企業はなぜ利益にこだわらなくてはいけないのか、今一度考えてみてはいかがでしょうか?