それはいつかの時代、どこかの国の物語。
長い長い歴史と輝かしい伝統を持つその国は、一つの転換期を迎えていた。
いつから始まったのか忘れてしまうほどに長く、長く長く続く戦。
それにより疲弊した国土と臣民。
かつては世界で一番幸福な国と呼ばれたその姿は見る影もなく、治安は乱れ、街には貧しき人々が溢れ……。
それでも戦は終わらず、人々は未来に光りを見いだすことが難しくなっていた。
そんな時代。
国の英雄と言われ、彼が征く戦場においては負けが無いとまで言われた男。
その彼に与えられた新たな任地は、血と泥と埃に塗れた戦場ではなく、ほのかな香水の香りと、煌びやかな装飾に囲まれた館。
ワガママと名高い皇女殿下のお守り役だった。