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【社会】

首相「不戦」なき式辞 改憲憂う戦没者遺族

2013年8月16日 07時10分

千鳥ケ淵戦没者墓苑を訪れ手を合わせる人たち=15日午後、東京都千代田区で(平野皓士朗撮影)

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 十五日に開かれた政府主催の全国戦没者追悼式で、安倍晋三首相の式辞から、近年の歴代首相が繰り返し表明していた「不戦の誓い」が消えた。戦争の多大な犠牲と引き換えに築かれた、平和主義の土台が揺らぐ。政府は、集団的自衛権行使容認に向けた解釈改憲の動きを加速させる。六十八回目の終戦記念日に、戦争体験者や遺族は何を思う−。

 炎暑の中、東京大空襲・戦災資料センター(東京都江東区)では戦争を語り継ぐ集いが開かれていた。二瓶(にへい)治代さん(77)=東京都国立市=は「今、改憲や国防軍とか言っている政治家は、本当の戦争の姿を知らないからこそ、そんなことが軽々に言えるのだと思う」と目を潤ませた。一九四五年三月の東京大空襲の時は八歳。家族五人で逃げた。途中で意識を失い目が覚めたときには折り重なる遺体の下だった。安倍首相が全国戦没者追悼式で、歴代首相が踏襲してきたアジア諸国に対する加害と反省に触れなかったことについて「なぜ、きちんと語れないのか。言葉が出ないほどショックです」と言う。

 終戦から時がたち、社会から戦争の記憶が薄らいでいく。大空襲で父を亡くした村田弥一(やいち)さん(77)=埼玉県狭山市=は「戦争で体験したつらさを、生きているうちに遺(のこ)したい。死んでしまったら語れないから」とこの日、車いすに乗り、初めてセンターを訪れた。「改憲すれば今の安倍さんは何をやりだすか分からない」

 全国戦没者追悼式が開かれた日本武道館。鹿児島県垂水(たるみず)市の弓削光知(ゆげみつのり)さん(70)は、硫黄島で激戦の末に父親が戦死。「父が生きていれば別の人生もあったと思う。私の年代では父を亡くした人がたくさんいる。同じ思いをする人が出るのは悲しい。自国を守る武力は必要だが、憲法は今のままでいい」

 せみ時雨(しぐれ)が響く東京・九段北の靖国神社。江東区の稲垣一雄さん(94)は毎年参拝し、戦友たちの冥福を祈る。尖閣諸島や竹島をめぐる中韓との関係悪化に「日本も外国から文句を言われない程度の備えは必要だ」と語る。一方で「戦後の平和は憲法九条のおかげ」との思いも強い。

 南方で父を亡くし、千代田区の千鳥ケ淵(ちどりがふち)戦没者墓苑を訪れた千葉県柏市の男性(74)は、韓国の議員らが靖国神社付近で安倍首相への抗議を行ったというニュースに胸を痛めた。

 鹿児島県出身。米軍の上陸を恐れた母からは「何を聞かれても『アイドントノウ(私は知らない)』と言え」と教わった。今も米軍機の射撃の音が耳に残る。「戦後、日本が平和にやってきたことを近隣諸国にも評価してもらう必要がある。その原動力となった憲法九条は、戦後百年は保たせてほしい」

(東京新聞)

 

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