SPECIAL INTERVIEW
松本隆/風待レコード
今回は、ご自身で「風待レコード」を立ち上げられた松本隆さんへのスペシャル・インタヴューをお送りいたします。この「風待レコード」では昨年からオーディションを実施し、8月にはキャプテンストライダム、9月にはneuma、そして来年にはノラオンナなど続々リリースが決定しております。個性的なアーティストの発掘と、さらに既存のアーティストやレーベルとのコラボレーションによって音楽シーンに新たな風を吹き込む「風待レコード」について、松本さんご自身と「風待レコード」のA&Rである堀越信哉さんにお話をお伺いしました。では最後までごゆっくりお付き合い下さい。
(初出『Groovin'』2003年8月25日号)
PART 3
−−:それでは年内はリリースも次々あって、またイヴェントもということで忙しくなりますね。さてちょっと話を戻しまして先ほども話題になりましたノラオンナですが、松本さんが最初に惹かれたのは、彼女のどの部分ですか?一番衝撃を受けたのは?
松本:そうだね、あの頑固さかな。一筋縄ではいかない何かがあるよね(笑)。でもそういう人って僕の周りには若い頃から結構いて…吉田美奈子だったり。吉田美奈子は歌い始める前から知ってるからね。あれに似た頑固さがあるんですよね。
−−:でもノラオンナのあのウクレレ弾き語りの独特なスタイルって、どうやったらあの形に辿り着いたですかね?
松本:生まれつきなんじゃないかな(笑)。
堀越:でもあのウクレレ弾き語りのスタイルになったのは、去年(2002年)の10月ぐらいからで、その前は友達とバンド・スタイルでやったりしてたんですよ。たまたま、その初めて本人だけでウクレレ・スタイルでライヴをやるっていう時に、松本さんが吉祥寺まで行って見られたんですよね。その前にデモ・テープは聴かれていたんですけど、やはりライヴを見ようっていうことで、本人に前もって何のコンタクトも取らないで、いきなり当日券を買って見に行ってっていう事だったんですよね。最初は男か女か確かめよう(笑)っていうことから始まって。写真もモノクロで、声も割とアルトな感じだったんで(笑)。
−−:でもウクレレ持って、ああいう歌い方は普通しないですよね?既に枠を超えてるというか。
松本:中川五郎さんとか、気に入ってくれてますね。でも(ああいう歌い方って)嫌いな人は嫌いかもしれない。僕はそういうのにも慣れているから、別に嫌いな人は聴かなくてもいいよっていう感じですね。
−−:そのかわり、あのスタイルや声に引っかかった人は、絶対に見てやろう!って思うアーティストですよね。
松本:そうですね。それにすごく成長すると思うよ、これから。でもよく考えたら、僕はそういう才能を発掘するのが大好きなんですよね。それが一番得意なんじゃないかなって思うときもある。あと新しい土俵を作るのが大好きでね。それも得意。詩を書くよりも、そっちの方が得意かも知れない(笑)。
−−:では今回は、まさにお得意なその2つを、やられているんですね。
松本:水を得た魚みたいな感じですよね、自分では。まあ売れたらの話だけど(笑)。
−−:でもそこが大変なところですよね。
松本:売れないと続かないからね。
−−:そういう新しいことをまた始めるのは、大変ではありますけど楽しい事の方が多いですよね。でも売れるのも大事ですけど。
松本:儲けたいとかそういうことじゃなくて、とにかく自転車操業が回転するだけの、赤字を出さない程度であればね。だから色々な方にも応援して欲しいんですけど。でも万が一売れたら、まずスタジオを作りたい。やっぱりみんな低予算で制作してるから、端で見ててちょっとかわいそうだしね。でもやはり土俵を作るのが好きなんだね。今までも作ってきたし、ロックやってポップスやってきたから、今度は3回目。
−−:ところでこの前ノラオンナが「風待フラッグVol.4」のライヴで、薬師丸ひろ子さんの「探偵物語」をカヴァーされてましたね。あの解釈は見ていて驚いて、「こういうカヴァーもありなんだ!」って思ったんですけど。でも毎回皆さん、松本さんの作品のカヴァーされるんですよね。
松本:みんな、勝手に歌うんだよね(笑)。
−−:別に松本さんから「これ歌ったら」みたいなことではないんですね?
松本:そう。困ったものだよね(笑)。
−−:でも毎回、違ったカヴァーも面白いですよ。以前「風待フラッグVol.2」の時に川本真琴さんが出られたときも、大滝詠一さんの「1969年のドラッグレース」をピアノで弾き語りして…。
松本:あれはびっくりしましたね。
堀越:あの時はwafflesも「瞳はダイアモンド」をやって。
松本:まあああいった僕の作品は、もう僕のものではないっていうような面もあるじゃないですか。もうみんなの歌になってるから。だから誰がどういう風に歌おうが、別にいいんですけどね(笑)。
−−:ではご自身でああいうカヴァーを聴かれて、ビックリされることも多いですか?
松本:それより僕の詩はやっぱりいいなって、思う(笑)。
堀越:でもノラオンナは、「探偵物語」は私の歌だって言ってますよ(笑)。
松本:それじゃみんなクミコになっちゃうじゃない(笑)。それもいいんだけどね。でもクミコのカヴァーした「情熱」はいいよね。オリジナルと全然違う生命を吹き込んでもらってるっていう感じがして。オリジナルはオリジナルでもちろんいいんだけどね。今までの日本にないパターンですよね。
−−:あの曲は筒美京平さん作曲ですよね?
松本:そうですね。でも彼女の歌だと、京平色ゼロになってますよね。
−−:あと平井夏美さん作曲のクミコさんの新曲「さいごの抱擁」(編集部註:9/25発売のクミコさんのニュー・アルバム『愛しかない時』に収録されます)もあの場で披露されましたけど、あれもいい曲ですね。
松本:「瑠璃色の地球」と同じコンビの「さいごの抱擁」…いい曲だよね。
−−:そうですね。さて、このところこういった「風待フラッグ」のようなイヴェントと、レーベル、そしてその前にはホーム・ページの「風待茶房」を立ち上げたりと色々な動きがここ数年続きましたけど、これらをやる前と今とで何か大きく変わったことはありましたか?
松本:「風待茶房」もそうだけど、それ以上に『風待図鑑』が出たことが本当に大きかった。それまでも自分の中では信念としてはあっただけど、半信半疑で…つまりまとめて形になっていないから…。僕の作品はバラバラに書いているんだけど、実は通底しているということが自分の中ではあるんですけど、それを誰も知らない訳でね。それが形になったっていうのが大きかったですね。大滝詠一と例えばイモ欽トリオとか、マッチ(近藤真彦)とかね。でもマッチと大滝詠一は意外と近いかも知れない。「君は天然色」とか、マッチでもいいかなって思うし(笑)。あれでマッチが歌ってれば1位になるよ、そういうものだからね。そういうことが、みんなジャンルで仕切り板がないと分からないんだけど、『風待図鑑』によってそれが取れたっていうのが大きいよね。
−−:あのボックスを聴けば、誰でもそこに通底しているものがあることに気づきますよね。
松本:最初から最後まで聴けば、誰でも分かるはず。
−−:その後も「風待ミーティング」とか、イヴェントも色々ありましたね。
松本:あれは面白かったよね。でもアンチもいるだろうから(笑)。
−−:あとその後の「風待クリスマス」の時も、例えばハナレグミの永積タカシ君とかが出演して、しかもそれまでのバンドでの永積君と全然違った面が発見できたりして、僕らもすごく新鮮だったんですけど。
松本:そういう仲間は増やしていきたいよね。やはり才能ある人をピック・アップして、一緒にっていうのは。
−−:僕の周りでは、今年のベスト・トラックはハナレグミの「眠りの森」っていう人も多いですよ。
松本:彼は歌がうまいからね。それに詩も良くて曲も良くて、いい音楽が自然にみんなに伝わるようなライヴをしたいしね。そういう意味では風待がブランドになってもいいかなって思う。風待(のライヴ)に出られたらいいなとか、「風待レコード」からCD出したいとかね。ブランド感は作りたいよね。
−−:そういう意味でも、これから出る3アーティストは大事ですよね。
松本:大事ですね。まあ来年も出していきますけど。でも今のところ三者三様に、こちらの期待に対してちゃんと返してくれてきてますね。
−−:この3組以外に次のリリースはもう決まってるんですか?
松本:色々と出しますよ。あと募集もかけます。オーディション。
堀越:出来れば年末ぐらいからオーディションを呼びかけたいと思っているんですけど、というのもCDという形でいくつかタイトルが並んだ頃の方がより具体的にイメージしてもらえるのかなって思いまして。
松本:新春までにまず4枚出ますからね。本当にレコード会社みたいだね(笑)。あともしかしたらクラシックとかもあるかも知れない。
−−:松本さんって、本当にノン・ジャンルですよね。でもこういう形で色々なお仕事をされていて、もう一度こんな事をやってみたいとか思われる事って、何かありますか?
松本:もう何もやりたくないね(笑)。遊びたい。今一番やりたいのは、陶芸。陶芸をやって、個展をやりたいね(笑)。
堀越:ホーム・ページで売りましょうか、受注生産で(笑)。
−−:全部一点もの(笑)。また陶芸で出来たものを並べて、その会場でライヴもやるとか、そんなアイディアも出てくるかも知れないですね(笑)。そういう意味では、本当に垣根がないですよね、松本さんは。
松本:そうだね。中学の時に憧れたのは、ジャン・コクトーだからさ、全然彼はジャンルがなかったから。ほとんど死ぬ間際ぐらいまで彼は詩壇から無視され続けてきたぐらいだからね。
−−:「風待レコード」にもそういったいい意味でのノン・ジャンルの精神が宿ってますよね。既成のジャンルに限定しないで。
松本:そう、だから色々なことをやりたいし、やりたいことはいっぱいあるんですよ。例えばミュージカルも作ってみたいし、作曲家がいればオペラでもいいし、バレエも面白いなとか。ただ時間と肉体は1つだからね、ノン・ジャンルとは言えども。まあその中では限られてくるんだろうけど、小説はもういいかも知れないし、映画も自分で作るよりは人のものを見てる方がいい気もするんですけど。
−−:では、当分はこの「風待レコード」がまずは一番ですかね。
松本:そうですね。土俵を作るのは好きだからね(笑)、まずはここからだよね。
−−:あとは強い力士を育てないと、ですね。
松本:まあ、勝手に育つでしょう。
−−:あと、インディーズという事についてなんですが、例えばはっぴいえんどの頃のURCもインディーズの走りでしたけど…。
松本:URCはある種のインディーズでしたよね、すぐ壊れましたけど。あれはメジャーが引き抜いてしまったから。
−−:その当時と今とは、状況はかなり違いますか?志や考え方の部分も含めて。
松本:そうですね、今の方がある意味URCよりももっとフリーですよね。URCの頃って労音とか民音とかのバック・グラウンドがあったから。そういう意味では今はしがらみが一切ないので、フリーですよね。まあ当時もはっぴいえんどはあまり関係なかったですけど、岡林信康とかフォークルとか、そういう繋がりでは色々ありましたね。そういう政治と一切関係ないところで自由にやりたいし、やれるんじゃないかなという気がするんですよ。"風街"にはある種の仮想現実みたいなところがあるし、すごく懐が深い。誰でも入ってきていい、みたいなところがあるから、勝手にそこに家を建てても違和感がないんです。だからかなり巨大な方向に行きつつあるよね、"風街"は。そういう意味では、はっぴいえんどの時に思いついたことが、今になって実現してるのかも知れないですね。
−−:でも当時はなかなか実現しづらいところが、きっとありましたよね。
松本:当時は、はっぴいえんどははっぴいえんどとしてやってたし、今ならソロでもいいわけだから。才能って磁石みたいなもので、引きつけ合うわけ。はっぴいえんどの時も色々ないい才能が周りに集まってきて、それが例えば山下達郎だったり、南佳孝だったり、矢野誠だったり。そういうものを"風街"という磁場の中で、また実現出来るんじゃないかなと思ったんですね。今の日本の中にも、きっとそれに共鳴する才能はいっぱいあるはずですしね。それはこちらが必死に集めなくても、勝手に集まるものだし。そういう磁場を作ることが、僕は好きなんですよ。だから80年代にアイドルを手がけてた時も、そういう作り方をしてきたし、その時僕がしたことはちょっとしたことだけ…例えば細野(晴臣)さんに「ちょっと曲書いて」ってお願いするとかね(笑)。アイドルなんか大嫌いって言ってた人に曲書かせた訳でね、そうしたらそれだけでも1つの大きなムーヴメントになるんですよね。その時は一般大衆にはそういったことは全然分からないんですけどね。業界も分かってないと思うし、でもそういう自然な成り行きがあると思う。今回も自然の成り行きで、極めて楽観的で、僕はフィールドをこしらえる。あとは勝手に開拓して行ってね。
−−:でも今回の第1段階は、今の時点でほぼ終わったわけですから、これからがまた楽しみですよね。
松本:第1段階は、結果を見るまではまだ分からないですよ(笑)。いつも不安ですよ、僕は。この詩だったら1位を獲れるっていつも思うんだけど、でも実際は本当にこれがリリースされるんだろうかとかっていう不安もあるし、その作品を大衆が分かってくれるのかなっていう不安もあるしね。だからそういうもの1つ1つが証明なんですよね。それが正しいやり方だっていうのを必ず証明しないといけない。でも証明にはすごく困難が伴うんで、簡単にはいかない。これは生き方と同じですよ。それが、今までにやってきたことかな。でも今までやってきて、大外れはあまりないから…。今回もそういう証明をするまでが大変だけど、でも証明できたらみんなが真似するでしょう(笑)。
−−:では最後に、この「風待レコード」や"風街"へ入って来たいと思っているファンに対してメッセージをお願いします。
松本:まずミュージシャンに対しては、テクニックを磨けと言いたいですね。テクニックがないと、話になりません。ヴォーカリストだったら、音程とリズム感は最低条件。敷居も高くなると思うけど、入りたい人は一生懸命努力して欲しいですね。そのかわりある意味、理想的な状況は作れると思いますから。ただスタジオは…(笑)。でも僕が今までに聴いた一番音の良いレコードって『HOSONO HOUSE』じゃないかと思う時があるんですよね。
−−:細野さんの狭山の自宅で録った…。
松本:ということは、スタジオはどうでもいいのかも知れないですよね。
−−:あのアルバムは、まさに宅録の走りですものね。
松本:そう。まあ機材はスタジオのものを運び入れてたけど、ある意味防音設備もいらないし…そういう哲学だよね。本当にいい音楽だったら、四畳半でも録れるっていう。また録れるだけのテクニックもある、そういう感じかな。
堀越:デモ・テープは随時募集しております!
松本:自信のある人は、どんどん送って下さい。なんか道場みたいだね(笑)。
堀越:次のオーディションの時は、多分シンガーも募集します。
松本:あと風待のアイドルを作りたいね(笑)。
−−:いいですね、風待のアイドル。華やかに。
松本:アイドルって常に大きな資本がワーッと動いて売るんだけど、もう少し自然発生的なものがあってもいいかなって思ってね。だから歌のうまい子供とか(笑)。合唱団でソプラノの美少女とか美少年とか、そういうのもいいかも知れない(笑)。ますますノン・ジャンルだね。
−−:ではアイドルの出現も楽しみに待っております。今日はどうもありがとうございました。
松本:ありがとうございました。
2003年7月28日 東京・南青山/松本隆事務所にて
インタヴュー&構成:土橋一夫(編集部)
協力:堀越信哉(ソイツァーミュージック)/松本美緒(松本隆事務所)/松本昭仁(すみや本社商品部)
【風待レコード ホームページ】http://www.kazemachi.com/