特集ワイド:憲法よ 医師・中村哲さん

毎日新聞 2013年06月06日 東京夕刊

中村哲さん
中村哲さん

 「実行」という言葉を耳にした瞬間、あざやかな緑の大地の写真が脳裏によみがえった。理想は実行された時、あんなにも力強く人の胸に迫るのだ。

 01年米同時多発テロ後の米英軍の爆撃以降、アフガニスタンでは外国人への憎悪は募るばかりだ。治安が急速に悪化した08年、仲間の日本人男性スタッフが殺害された。政治的な誘拐ではなく金銭目的だった。地域住民は必死に犯人グループから男性を救出しようとしたが、かなわなかった。外国人をターゲットにした誘拐や襲撃は今も増える一方だが、その後、仲間が狙われたことは一度もない。それでも念のため、一時は25人いた日本人スタッフを帰国させ、今は事務職員と2人だけ。現場に出る日本人は中村さん一人だ。

 日本のニュースはもっぱらインターネットで読む。「日本はどうなっているのか」といら立つことが増えた。「この干ばつは戦争どころじゃない。一人でも多く生きて冬を越せるように」と危険な作業に挑み、政府軍と反政府軍の衝突と聞けば工事中の用水路をざんごう代わりに隠れる、そんな厳しい日常から見る祖国の改憲論は「どこか作り物くさい。政治力をアピールしたいだけの芝居のように見える」。

 ならば、中村さんにとって憲法はリアルな存在なのか。身を乗り出し、大きくうなずいた。「欧米人が何人殺された、なんてニュースを聞くたびに思う。なぜその銃口が我々に向けられないのか。どんな山奥のアフガニスタン人でも、広島・長崎の原爆投下を知っている。その後の復興も。一方で、英国やソ連を撃退した経験から『羽振りの良い国は必ず戦争する』と身に染みている。だから『日本は一度の戦争もせずに戦後復興を成し遂げた』と思ってくれている。他国に攻め入らない国の国民であることがどれほど心強いか。アフガニスタンにいると『軍事力があれば我が身を守れる』というのが迷信だと分かる。敵を作らず、平和な信頼関係を築くことが一番の安全保障だと肌身に感じる。単に日本人だから命拾いしたことが何度もあった。憲法9条は日本に暮らす人々が思っている以上に、リアルで大きな力で、僕たちを守ってくれているんです」

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