「著者の真意」なんて気にせず、どんどん「誤読」しよう

2013/03/29


ダメな人は失敗を「自分のせい」にする」という記事について、「為末さんの真意を理解していない」という指摘をいただきました。誤読の問題について考えてみましょう。


誤読という神聖な権利

どんなテキストも、「著者の真意」なんて気にする必要はありません。そんなものに縛られると、ろくなことがありません。

内田樹先生は「誤読」というのは、読者の神聖な権利と書いています。これは目から鱗を落としてくれる、すばらしい指摘です。

その方がどう読もうと、「誤読」する神聖なる権利は彼または彼女のものであり、書き手はそれを尊重しなければならない。


芸術の美徳というのは、鑑賞者が「誤読」する余地があることです。

実例を挙げましょう。たとえば次の絵を見て、みなさんは何を思いますか?これはぼくが大好きな絵のひとつです(イヴ・タンギー「無限の可分性」)。

Ndef divisibility

ぼくはこの絵を観て、タンギーは「人間が原子になる以前に見た世界」を表現していると、直感的に解釈しました。著者の考えは知りませんが、かなり高い確率でこれはぼくの「誤読」でしょう。ではぼくの解釈が「間違っているか」というと、決してそんなことはありません。芸術の解釈はオープンであり、鑑賞者の数だけ可能性があるのです。


音楽も同じです。たとえばマーラーの第三番。

この楽曲はニーチェの哲学を反映していると言われます。「著者の真意」はそこにあります。が、鑑賞者であるぼくらはそんなことは知りませんし、知らずとも楽しむことができます。

人によっては、ここからキリスト教の思想を読みとるでしょう。ニーチェは一般的にアンチ・キリスト教で、マーラーは作品に特定の宗教観を取り入れることは避けているので、それは著者の真意と反します。が、ぼくらはその解釈を間違っていると断罪することはできません。キリスト教徒が、このからキリスト教の思想を読みとるのは、むしろ鑑賞者として賛美すべき態度です。


誤読は新しい価値を生み出します。ぼくは為末さんの意見を誤読しているでしょう。記事のなかでは、ぼくは独自の洞察を展開したつもりです。ぼくは為末さんのことばを元に「新たなバージョン」を作り出したということです。

クリエイティブであるということは、積極的に誤読することです。誤読をもとに、新しい価値を生み出すことです。「著者の真意」を正確にトレースするという態度は、クリエイティブではないのです。


名著、「クリエイティブの授業」から。

人間には偉大な欠陥がある——完璧なコピーを作れないってことだ。ヒーローを完璧にはコピーできないからこそ、そこに僕たちは自分の居場所を見つける。そうやって、人間は成長していく。だから、ヒーローをコピーしよう。そして、自分に足りない部分を見つけよう。自分にしかない個性とは?その個性を何倍にも膨らませて、自分だけの作品へと変えよう。

クリエイターよ、パクりまくれ!「盗む」に関する偉人の名言まとめ


その意味で、表現者の善し悪しというのは、「誤読の余地」がどの程度許されているのか、という観点からも判定できます。無限の誤読可能性があることは、すばらしい作品であるということです。

ぼく自身の著作も、少なからず「誤読」されています。ネガティブな意味もあれば、ポジティブな意味もあります。読者が予想外の読み方をしてくれるのは、著者として嬉しい瞬間です。ぼくは最近、むしろ積極的に誤読してもらいたいとすら考えています。


というわけで、ぼくは今後も積極的に誤読していきますし、誤読されるような文章を生産していきたいと考えています。みなさんもガンガン誤読して、独自の考えを打ち立ててください。ぼくのことばに限りませんが、あらゆる表現は自分の表現を培うための栄養ですから。

なお、「誤読された!」といって怒るような表現者は漏れなく二流ですので、気にする必要はありません。あなたをコントロールし、創造性を抑えつけようとしている人ですので、さっさと距離を置くようにしましょう。



★この記事を読んだ人にはこの本がおすすめ。

「Steel like an artist」、すなわち「アーティストのごとく盗め」。クリエイティビティと盗むことについてシンプルに説いた名著です。


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