人工降雨装置:12年ぶり出番か 都「準備はOK」
毎日新聞 2013年08月08日 14時27分(最終更新 08月08日 14時51分)
◇小河内ダム周辺、設置半世紀の“老兵”
きょうも厳しい暑さの日本列島。東日本では8日午後にかけ気温がぐんぐん上がり、35度以上の猛暑日になる所が多くなる見込みだ。そんな中、首都圏に迫る水不足の危機を救うべく、12年ぶりの出番を待つ「秘密兵器」がある。多摩川水系の小河内(おごうち)ダム(東京都奥多摩町)周辺にある人工降雨装置だ。水滴をできやすくする化学物質を上空に放出することで雨量を5%増やす効果が期待できるという。所有する都は「久しぶりだが、いつでも動かせる状態」と準備を整えている。【安高晋、飯田和樹】
5月の降水量が平年の約4割だったことや早い梅雨明けで、6都県(東京、千葉、埼玉、茨城、群馬、栃木)の水がめの利根川水系8ダムの平均貯水率は65%(7日現在)。7月24日からは同月としては19年ぶりの取水制限(10%)が始まった。気象庁の予報では今月も雨が少ない見込みだ。
人工降雨装置は、小河内ダムのそばと上流の山梨県内に計4基ある。昭和30年代に関東で水不足が続き、都が1965〜66年、1800万円をかけて導入した。仕組みは、氷の結晶の核になりやすいヨウ化銀を、蒸発しやすいアセトンと混ぜて燃やす。煙突を開けて煙を上空に放出すると雲の中でヨウ化銀が周りの水蒸気と氷の結晶を作る。これが雨のもとになる。
煙は無色無臭。都によると、雨となり貯水池に流れ込むヨウ化銀の濃度は米国が飲料水について定めた基準の約9万分の1と極めて低く、健康に影響はないという。2〜3時間で効果が表れるが、周囲に雨雲がないと効き目がない。「雨量5%増」という効果は、装置を動かした時とそうでない時の10年分の観測結果を分析して導き出した。
東京では、約8割を利根川水系8ダム、約2割を多摩川水系の水でまかなう。利根川水系が減り始めると多摩川水系に頼る割合を増やす仕組みで、人工降雨装置が前回稼働した2001年は利根川水系が10%の取水制限を行ったタイミングで使用された。導入以来の稼働実績は802日間で、このまま水不足が進めば「出番」が検討されることになる。
ただ、設置から50年近くになり存続の危機にも直面している。3年前に都が補修工事を計画したが、業者は既に撤退。不具合があると管理事務所の職員が市販の部品を買い、直している。山本克己所長は「このままの形で維持するのは難しいかもしれない」と語る。