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第15章 大樹海にて。
#111 極寒地帯、そして魔氷。


 ザナックさんの服飾店や、「銀月」ブリュンヒルド支店も建築が始まり、いよいよもってここらも商店街のようになってきた。まだまだ物資は足りないけれど、そこらへんは僕らがなんとかカバーしている。
 幸い、国民が少ないので食料事情はさほど心配ない。森に入れば山菜や木の実、山芋などが取れるし、猪や兎などの獣もいる。川にも魚がたくさんいるし、ベルファストとレグルスの両陛下が言った通り、確かにここは肥沃な土地らしい。まあ、だからこそ魔獣が蔓延っていたのだろうけど。
 まあ、国作りは概ね順調だと言える。そんなとき、椿さんがある情報を持ってきた。

「帝国の北、極寒の凍土が広がるエルフラウ王国に陛下のおっしゃる転移陣らしきものがあると耳にしました」

 なんと。どうやらエルフラウからこちらへやってきた商人からの情報らしい。なんでも氷の中に閉ざされた洞窟に、誰も入ることのできない不思議な円筒型の物体があるらしい。なるほど、砂漠の遺跡と同じか。形は違うみたいだが。
 あの博士も統一しといてくれれば、検索魔法で探しやすかったのに。「転送陣」とかで一発だったのにな。毎回外側の形が変わったのでは遺跡としか認識しようがない。入ってみるまでわからないし、中に入れば一目瞭然だけど、ご丁寧にも中には結界が張られているしな。検索魔法も弾かれる。
 ここまで徹底してるとやっぱり嫌がらせなんじゃないかと邪推したくなる。もちろん、その洞窟の中のモノが転送陣だと決まったわけじゃないけど。
 しかし、よくわかったなあ。さすが忍者。情報収集はお手の物ってことか。

「コれでマスターの愛玩人形がまた増エるわけでスね」
「……お前みたいなのがまた増えるかと思うと、それだけが憂鬱だよ」

 しれっとつぶやくシェスカに苦々しい感情をこめて切り返す。思うんだが、やっぱりこいつらの性格って、博士の人格を切り取って作られてる気がするなあ。モノ作りの姿勢とかはロゼッタとかに強く出てる気がするし。エロジョークはシェスカにな。
 マップを表示し、椿さんに話を聞いた場所を教えてもらう。遠いな。北も北、最果てに近いじゃないか。寒いんだろうなあ。

「とりあえずロゼッタとシェスカはバビロンで先行してくれ。寒かったら庭園の家に入っておけよ?」
「ご心配なく。バビロンでは適温に保たれる障壁が展開しておりますので、暑さ寒さもへっちゃらでありまス」

 そういや砂漠に行ったときもあんまり暑くなかった。広範囲でのエアコン機能か。便利だな。よく考えたら庭園の植物たちには必要な機能なのかもしれない。暑さ寒さに弱い種もいるかもしれないし。
 シェスカとロゼッタを送り出したあと、みんなを連れてリーンのところへ行き、転送陣が見つかったことを告げると彼女は飛び上がって喜んだ。正直教えなくてもよかったんだが、教えないとあとが怖いからな。
 極寒地帯に行くということで、みんな準備をしに部屋へ戻った。僕はこのコートがあるから問題ない。なにせ、耐寒、耐熱、耐刃、耐撃、耐魔の効果付与があるからね。砂漠でも暑くなかったし、大丈夫だろ。
 今回琥珀は連れていくが、珊瑚と黒曜は留守番していると申し出た。

『私らは寒さに弱いのよう。動けないことはないけど、ちょっと遠慮したいわねぇ』

 なるほど。蛇と亀だからわからんでもないな。不便だねえ。人間はそこまで苦手じゃないからよかったよ。



 ……甘かった。極寒地帯を舐めてました。なんじゃこの寒さは。このコートの耐寒機能効果出てんのか? マイナス何度だよう。なのに、他のみんなは平然とした顔をして辺りを見回している。どういうこと!?

「な、なんで君ら平気な顔してるワケ? さ、寒くないの?」
「温暖魔法を使ってるからね。あなた以外は普通に常温状態よ」

 リーンがそんなネタばらしをしてきた。なにそれずるい。僕だけ仲間外れかよ!

「防寒はバッチリって、あなた言ってたじゃないの」

 言ってましたけど! ごめんなさい、過信してました! だから僕にもその魔法プリーズ!

「熱よ来たれ、温もりの防壁、ウォーミング」

 リーンの魔法の光が僕の身体を包んでいく。おお、寒さが和らいだ。試しに降り積もっている雪を手に取ってみたが、あんまり冷たくない。雪が急激に溶けることもなかった。どうやらこの魔法は体温を上げる魔法ではなく、寒さから身を守るバリアみたいな役割をしているのかもしれない。
 寒さが落ち着いたところで辺りを見回してみる。針葉樹林で覆われた山腹に大きな氷穴が広がっていた。氷で覆われた洞窟がどこまでも地下に続いている。この中に例の遺跡とやらがあるらしい。
 洞窟に足を踏み入れる。「ウォーミング」が効いているのに、ゾクリとした寒気が背中を突き抜けた気がした。「ライト」の魔法で中を照らし、少しずつ進んでいく。

「滑るから気をつけて。足元に注意してゆっくりと…」

 みんなに注意喚起しようと振り向いた瞬間、氷に足をとられて転倒した。痛ったあ。いつも敵にスリップをかけている呪いだろうか。

「なにやってんのよ、冬夜」
「大丈夫でござるか、冬夜殿」

 エルゼと八重の差し伸べた手を取って立ち上がる。絶対に滑らない靴とかあればなあ。スリップの逆の魔法があれば氷でも滑らないですむのかな?
 そんな状態なのにポーラが軽い足取りで氷穴を跳ねながら下っていく。当然足を滑らせ、面白いように転がり落ちていった。なにやってんだ、あいつは。
 それを見た僕らは洞窟をさらに注意して下っていく。何回か滑りそうになったが、なんとか転ばずに下層まで辿り着いた。

「…高いですね」

 リンゼが上を見上げてつぶやく。氷穴の中は高く広い洞窟になっていて、何本もの氷柱が天井と地面を繋いでいた。洞窟の奥の方は暗く、なにがあるのかわからない。
 「ライト」を先行させ、琥珀が先導する。琥珀なら臭いや音でなにかいても気付くだろうしな。

『主。前方になにかあります。例の遺跡と思われますが、これはちと面倒なことになっているようで……』

 ん? 遺跡があったのか。琥珀は夜目もきくからな。もう見えているんだろう。でも面倒なことってどういうことだ?
 足元に気をつけて歩を進め、琥珀の言っていた意味がわかった。黒光りする円筒型の大きな物体が、途轍もなく分厚い氷で覆われている。なんだこりゃ、永久氷壁か? 洞窟に現れた氷の壁。その中に透けて黒い円筒状の遺跡が見える。

「カチンコチンだな……。砕けるのか、これ……?」

 ブリュンヒルドの弾丸を氷の根元に撃ち込んでみたが、容易く弾かれた。あかん。これはフレイズ並みに硬いぞ。

「リーン…これ、魔法で溶かせないかな」
「うーん、やってみるけど……」

 リーンの手の先から火炎放射器のように炎が吹き出したが、氷が溶けることはなかった。どういうことだ?

「やっぱりダメね。この氷は普通の氷じゃない。魔氷よ」
「まひょう?」
「天然の魔力が蓄積されてできた氷。半端な力じゃ砕けないし、魔法の炎ででも簡単には溶けないわ」

 うぬう。「グラビティ」で潰せるかなと思ったけど、それでは中の遺跡まで潰しそうだし、「ゲート」で氷だけ転移させようにも、他のところとくっついてしまってるしなあ。やはり溶かすのが一番か? いや、高熱で溶かしすぎると、この洞窟自体が崩落しかねないよな。となると、砕くしか。

「うーん、なにかいい方法はないかなあ」

 氷壁に手を触れてみる。ひんやりと冷たい。「ウォーミング」の効果で和らいでいるのだろう、本当なら肌が凍りつく冷たさだと思われる。

「すぐそこにあるのにな」
「トンネルでも掘れればあっさりと辿り着くんですけどね……」
「トンネル……? あ!」

 ユミナのつぶやきが、僕の頭に閃くものを与えた。掌に魔力を込める。そうかそうか、その手があったか。

「モデリング」

 ぐにょん、と氷が歪み、僕の正面の壁が凹む。代わりにその周りが飛び出して、まるでトンネルのようになった。
 溶けない、砕けない。なら変形させてしまえばいい。取り除くことが目的ではないのだから。イーシェンで馬場の爺さんたちを牢屋から出したときと同じ要領だ。
 僕はどんどんと魔氷を変形させて、進んでいく。やがて正面の円筒状の物体が氷の中から姿を現した。

「さて、これがバビロンへの転送陣なのかどうか……」
「大きいですわねえ」

 ルーの言う通り、円筒状の遺跡の大きさは直径六、七メートル、高さ三メートルといったところか。ツナ缶みたいな形をしているな。「モデリング」で氷を変形させながら周囲をぐるっと回ってみたが、どこにも入り口がない。扉のようなモノもないし、砂漠のときのような、触れるとすり抜けるようなところもない。
 んんー? どういうことだ?
 ふと、形からツナ缶を思い出して、その缶が開くところが浮かんだ。上、か?
 氷を階段状に変形させて、滑り落ちないように注意しながら登っていく。みんなには下で待ってもらうことにする。
 遺跡の上には何もなかったが、ただ一点、中央に直径1メートルほどのくぼみがあった。ひょっとしてこれか? 恐る恐る足を伸ばしてみると、すり抜けた。やはりここが入り口らしい。全属性持ちしか通さない、あの不思議な壁だ。

「入り口を見つけた。これから入ってみる。みんなは少し待機していてくれ。何かあったら琥珀に連絡するから」

 下にいるみんなにそう告げてから、覚悟を決めてくぼみの上に身を踊らせる。するっと天井を突き抜け、内部へと着地した。薄ぼんやりとした明かりと、六つの石柱に転送陣。やっぱりバビロンの遺跡だったか。
 それぞれの石柱に各属性の魔力を流していく。六つの魔力をすべて流すと、転送陣が淡い光を放ち始めた。その中央へと立ち、最後の無属性の魔力を流す。眩い光彩陸離の光と共に僕は転送された。





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