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第14章 ブリュンヒルド公国。
#106 親善パーティー、そして花火。


「おおお! なんかわからんが楽しそうだな!」

 遊戯室に入るやいなや、ベルファスト国王は足早にピンボール台へと向かう。それに負けじとミスミド獣王陛下がボーリング場へ向かい、ボーリングの玉を持ち上げた。

「重いな!なんだこりゃ、大砲の玉か? 穴が三つ空いてるが……」

 二人に続いて入室してきた皇王と皇帝はキョロキョロと物珍しげに室内を見渡した。

「これが全部遊ぶためだけのものなのか……なんとも贅沢な気もするな」

 つぶやく皇帝陛下の後ろからはぞろぞろとそれぞれの家族と護衛の者が入ってくる。
 当初は家族だけとしていたのだが、さすがに臣下の人たちが心配するので、数人の護衛を許可した。
 ベルファストからは国王陛下、ユエル王妃、オルトリンデ公爵、エレン公爵夫人、スゥ。
 レグルス帝国からは皇帝陛下、ルクス皇太子、サラ皇太子妃。
 リーフリース皇国からは皇王陛下、ゼルダ王妃、リリエル皇女、リディス皇太子。
 ミスミド王国からは獣王陛下、ティリエ王妃、レムザ第一王子、アルバ第二王子、ティア第一王女。
 これだけで総勢17人。これにそれぞれ数人の護衛がつく。
 ベルファストからはニール副団長とかリオンさん、レグルスからは片目の帝国騎士団長ガスパルさん、ミスミドからは警備隊長ガルンさん、リーフリースの護衛は知らない人たちばかりだったが。それぞれの国で五人くらいだから20人くらいいるのか?
 もちろん武器は取り上げているし、ここだけの話、攻撃魔法を使おうとすれば「パラライズ」が発動するようになっている。
 護衛の人たちも始めて見る設備に言葉もないようだ。ウチの三騎士は一応警備という形で遊戯室に控えている。かなり緊張しているようだが。ま、仕方ないか。城自体の警備は庭にケルベロスとグリフォン、ペガサスたちがいるから大丈夫だ。

「ようこそ、我が遊戯室へ。みなさんに楽しんで遊んでいただくために、ここではいろいろ取り揃えております。遊び方はウチの者に聞いていただけれは説明させていただきますので」

 エルゼ、リンゼ、八重、ユミナ、ルーの他、ずらっとウチのメイド部隊が並ぶ。ラピスさん、セシルさん、レネ、シェスカに加え、助っ人として「月読」からシルヴィさんと、ベルエさん、さらにいつもは作業着のロゼッタにもメイド服を着せて手伝ってもらっている。むろん統括はうちの完璧執事ライムさんだ。

「また、あちらでは食事や飲み物、甘いモノなどを用意しております。ご自由にどうぞ」

 遊戯室の隅には大きなテーブルと椅子、そしてリクライニングシート、マッサージチェアなどを用意しておいた。テーブルの上には様々な料理やお菓子が揃えられている。
 国王たちはそれぞれ気になるゲームへと散らばり、みんなから説明を受けていた。王妃様、王女様たち女性陣はお菓子の方が興味があるらしく、そちらの方へ集まっている。

「おうりゃ!」

 さっそく獣王陛下が勢いよくボーリングの玉を投げていた。気合いに反して思いっきりガターだったが。レムザ王子とアルバ王子も揃ってガターか。レムザ王子は9歳、アルバ王子は6歳くらいか。あの二人も雪豹の獣人なんだな。
 エアホッケーではベルファスト国王陛下とオルトリンデ公爵が熱い兄弟対決を繰り広げている。
 雀卓ではレグルス皇帝陛下とルクス皇太子、リーフリース皇王陛下とリディス皇太子の親子対決か。
 リディス皇太子は12だっけか。ずいぶんと大人びて見えるが、あの薔薇好き姉さんの弟では大変そうだ。そして相変わらずルクス皇太子は影が薄い……。っていうかこの人結婚してたんだな、驚いた。
 雀卓のそばではラピスさんがついて質問に答えている。役は雀卓の横に表があるから問題ないだろ。
 護衛の人たちも王様たちのゲームを見て楽しんでいるようだった。
 食事のテーブルでは王妃様たちが料理に舌鼓を打っていた。概ね好評のようだ。
 スゥとリリエル皇女、ティア王女はトランプのテーブルでレネを含めた四人でババ抜きをしているようだったが。ティア王女はスゥと同じくらいだから10歳くらいか。

「しかし信じられない光景だな……」

 そばにいたニール副団長がぼそりとつぶやく。それに反応したのは帝国騎士団長のガスパルさんだ。

「確かに。ほんの少し前までは西方諸国の王が一堂に会するなどあり得ないと思っていた。それが一緒になって遊んでいるのだからな」

 二人とも苦笑しながらビリヤードを楽しむ自分たちの主君を眺める。
 互いに王という立場上、勝っても負けてもそれを引きずることはなく、次々と別の遊びをこなしていく。

「冬夜殿、あれはなんだ?」

 獣王陛下が部屋の壁側に置いてあった穴だらけの台を指差す。そういや、ミスミドには僕が「ゲート」を使えることがすっかりバレてた。怪しいとは思ってたらしいが、結局、ずっと不審感を持たれているよりもとリーンが話したらしい。まあ、こうなった以上今さらだが。
 台に設置されていた小さな柔らかいハンマーを手に取って獣王陛下が台の穴を覗き込む。

「ここから出てくるモグラを叩いて点数を競うんですよ。あ、力一杯叩かなくても大丈夫ですからね」

 いわゆるモグラ叩きだ。ゲームが始まると、ものすごい反応で獣王がモグラを叩いていく。さすが戦闘種族……動体視力が半端ない。しかし甘い!

「うぬっ!?」

 途中から高速モードに入ったモグラが数倍のスピードで出てくる。結果、獣王陛下は92点で戦いを終えた。

「くっ、もう一回だ!」

 獣王はムキになってモグラを強く叩き出す。力一杯叩くなと言ったのに。一応、台のフレームとモグラは頑丈に作っているから壊れたりはしないだろうが。
 食事のテーブルの方へ視線を向けると王妃様たちがデザートなどを口にしながらおしゃべりに興じていた。
 あちらの方はセシルさんとライムさんに任せて僕はこちらに気を配ろう。

「ブリュンヒルド陛下、これはどうやって遊ぶんですか?」

 ミスミドのレムザ王子とアルバ王子が尋ねてきたのは部屋の角に置かれた大きな四角い立方体だった。六面のうち、一面だけが透明化しているが、これはトランポリンである。魔法で六面全てで跳ねることができるという代物だ。

「中に入って跳ね回って遊ぶんだよ。大人二人まで大丈夫だからやってごらん」

 雪豹の兄弟は小さい入り口をくぐって中へ入ると、ポンポンと楽しそうに跳ね回り始める。そのうちバク転や空中ひねりまでし始めた。獣人の身体能力恐るべし……。

「おお、楽しそうだな。ちょっと余にはキツそうだが……」

 笑いながら皇帝陛下が跳ね回る子供たちを眺める。

「身体の疲れを癒す椅子があちらにありますよ。初めはちょっと痛いかもしれませんがだんだん気持ちよくなって、疲れが取れます」
「ほう?」

 マッサージチェアに皇帝陛下を案内させ、魔法で起動させる。座席の部分に仕込まれたローラーと、投げ出した足につけられたポンプがゆっくりとマッサージを始める。初めは少し顔を顰めていた皇帝陛下も五分もすると気持ちよさそうに目を閉じた。

「おお、ふぅー……。これはいいな…これはいい!」
「ひじ掛けのボタンを押せば止まりますからね」
「ああ、うん……」

 聞いてるのかいないのか、蕩けそうになっている皇帝陛下にそう言い残してその場を離れる。

 向こうではリーフリース皇王とミスミド獣王がパターゴルフに興じている。その横ではオルトリンデ公爵とルクス皇太子が卓球をし、さらに奥ではベルファスト国王とガスパルさんがビリヤードをしていた。おいおい護衛が遊んでいていいのかよ。

「うちの国王陛下が誘って、皇帝陛下が許可なされたのです。いいなあ、ガスパルさん。私も遊びたいですよ」

 そう言って横に来たのはリオンさんだった。あれも仕事なのかもしれないなあ。接待ビリヤード? 羨ましそうに眺めるリオンさんに声をかける。

「非番の日とかあったら招待しますよ。ああ、オリガさんと結婚したらウチでお祝いしましょうか」
「本当ですか!? やあ、それは楽しみだなあ! 騎士団のみんなも喜びますよ!」

 騎士団も招待するのか。まあ、普通そうなるか。まるで結婚披露宴の会場だな。ノリは二次会の感じだろうが。
 ひと通り遊んだのか、男性陣が今度は食事の方へと興味を向け始めた。逆に王妃様たちが今度はゲームの方へ向かう。とはいっても、トランポリンとかボーリングとかの運動系は避けて、トランプや麻雀、ピンボールなどの類ではあったが。



「さて、ここで護衛の皆さんも含めて我がブリュンヒルドからささやかなプレゼントがごさいます」

 ゲームもやり尽くし、会場が落ち着いてきた頃に、僕が招待客に声をかける。メイドさんたちが会場のみんな全員にカードを一枚ずつ配り始めた。そこに無作為に書かれた25の数字。籤を回し、出た数字のところを折り曲げていくように告げる。つまり、ビンゴゲームだ。
 部屋の隅にかけてあった布を取り外し、景品を客の前にさらす。剣や槍、斧といった武器から、細工の施された置物、魔石を使ったアクセサリー、おもちゃやぬいぐるみまで、いろいろ取り揃えている。武器だってただの武器じゃない。「エンチャント」によって特別な付与がされたワンオフものだ。まあ、珍しいだけでそんな強力なものではないが。

「では回させていただきます。……8! 最初は8です。8がカードに書いてある方はそこを折り曲げてください。縦、横、斜め、五つ揃った方から景品をひとつ差し上げます」

 結局、全員分のプレゼントはあるのだ。ただ、早いもの勝ちというだけで。
 何回か回すとリーチ状態になった人か出てくる。

「2……2……」
「14出ろ! 14!」
「51……出てくれ〜」

 懇願する視線を浴びながら、ビンゴマシーンを回す。

「32! 32です!」
「揃った!」

 声をあげたのは帝国騎士団長のガスパルさんだった。受け取ったカードをチェックして問題ないか確認し、景品の前へ誘導する。

「さあ、どれを選びますか?」
「どれでもいいのですか?」
「はい。ただしひとつだけですよ?」

 悩んだあげく、ガスパルさんは槍を選んだ。赤い装飾が施された槍である。

「この槍は「火焔槍」と言いまして、ある言葉を唱えると尖端から火球が飛び出す槍です」
「なんと……!」
「呪文の言葉はあとで教えますね。ここで撃たれると困るんで」

 軽い笑いを誘いながら、ガスパルさんに槍を手渡す。帝国騎士団長は嬉しそうに槍を持って元の場所に戻る。皇帝陛下が槍を渡されて感心したように眺めていた。
 もっともあれは魔力を食うので、普通の人だと三発も撃てばヘロヘロになるが。けれど、戦い方次第ではトドメの切り札になる。

「さあ、続けますよー。次は……15! 15です!」



 ビンゴゲームはつつがなく進み、みんな景品を手に入れ、ホクホク顏だった。奥様方も手に入れたアクセサリーやインテリアを気に入ってもらえたようだ。ぬいぐるみはミスミドのティア王女様のところへ渡った。話しかけると同じ言葉を返す「プログラム」がかかったぬいぐるみだ。桃色ロボ子の声だというのが残念だが。

「夜も更けて参りました。最後に余興として用意したものをご覧になっていただき、お開きとさせてもらいます」

 みんなを連れて、城のバルコニーへと向かう。そこには月のない夜空が広がっていた。ここらはこの城以外何もないので真っ暗なのだ。
 不意にその夜空に大きな音を立てて大輪の花が咲く。一瞬、護衛の人たちが身構えたが、僕が手をかざして押しとどめた。

「あれは花火と言います。見て楽しむもので、イーシェンでは夏に打ち上げるそうですよ」

 八重に確認したが、イーシェンに花火はちゃんと存在していた。ただし、ここまで派手なものではなく、ロケット花火に近いものであったそうだが。
 夜空に次から次へと花火が広がる。ここだけの話、実は打ち上げてはいない。ステルスで消えたバビロンからロゼッタが花火を投下している。花火は地上に届く前に爆発するように「プログラム」済みだ。打ち上げるよりこの方が楽だし。
 バルコニーから連続で広がる大輪の花。それを眺めている皆さんに、ウチのメイドさんたちがシャンパンを配り、それを飲みながらまた夜空の花火を眺める。子供たちもはしゃぎながら花火を見上げていた。
 こうしてブリュンヒルドの親善パーティーは大成功のうちに幕を閉じたのである。
 最後にそれぞれの国へ、今日遊んだものをひとつだけプレゼントすると言ったら、四国ともマッサージチェアを指定してきた。やっぱり王様って疲れるんだなあ……。








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