第14章 ブリュンヒルド公国。
#105 遊戯室、そして招待準備。
さて、と。ご招待するのはいいけど、どこから手をつけたらいいもんかね。遊びたいって言うんだから、まずはそっちからだよなあ。僕の知ってる限りで、簡単に作れそうなものから作っていくか。
最初に作り始めたのはビリヤードだ。構造的にも簡単だし、室内でもゆっくりと楽しめる。
次にボーリング場。これも倒れたピンと投げたボールを元に戻す機能さえ「プログラム」すれば難しくはなかった。ただ、作ってから気がついたが、いささかお年を召した王様たちにはこのゲームはキツいかもしれない。
全自動麻雀卓。ルールを覚えるのがいささか大変だが、慣れてしまえばこれほど駆け引きを楽しめるゲームもあるまい。
あとは卓球台やらピンボール台やらエアホッケーとか、いろいろ室内遊戯を作っていく。
疲れが取れるようにと自動マッサージチェアも数台作る。自分で作っておいてなんだが、コレはいい……。あ〜…癒されるわ……。なんだかんだで疲れてるんだなあ……。
「冬夜、冬夜」
「ん?」
極楽にいた僕に雀卓を囲んでいたエルゼが声を掛ける。目の前の牌を指差し、
「これってあがりよね?」
「どれどれ……ちょ……!」
東東東南南南西西西北北北中 中
大四喜、字一色、四暗刻単騎だと……。
「ツモ?」
「……ツモだね…。トリプル…いや五倍役満か。親だから80000オール……」
「「「うえっ!?」」」
卓を囲んでいたラピスさん、ロゼッタ、リンゼが声を上げる。恐ろしい……。エルゼとは卓を囲まないようにしよう。
「オーナー。フラッシュとストレートはどちらが強いのですか?」
「えーっとフラッシュの方が上」
今度は別の卓でベルエさんとポーカーをしていたシルヴィさんの質問に答える。今回、とてもじゃないが僕らだけでは手が回らないので、読書喫茶「月読」の従業員にヘルプを頼んだのだ。「月読」からはウェイトレスリーダーのシルヴィさんと、厨房のニアさん、受付のベルエさんが来ている。
ウチのメイドさんたちも含め、シルヴィさんたちにはひと通り遊んでもらっていた。ルールを覚えるためにはやってもらうのが一番だからな。
「旦那様〜、シェスカちゃん、ビリヤードから外して下さいよ〜。私一回も突けないんですけど〜」
「クッションの状態と入射角と反射角を計算し、力の強弱をコントロールすれば難しくないゲームでス」
セシルさんが困ったような声を出し、シェスカが平然とした顔で答えていた。あ〜、人選ミスだったか。ナインボールのルールならブレイクから一度もミスしなけりゃそうなる。「ブレイク・ラン・アウト」ってやつだ。
遊戯室の方はとりあえず置いといて、食堂の厨房へと向かう。広い厨房にはクレアさんと「月読」の厨房係であるニアさん、そして手伝いとしてレネがいた。
「あ、旦那様。ちょうどよかった、味見をお願いします」
クレアさんから渡された熱々の焼き菓子を手に取って頬張る。うん、美味い。
「大丈夫、ちゃんとワッフルになってる。美味しいよ。あ、これに生クリームとか添えるとさらに美味くなる」
「なるほど。じゃあそちらも作ってみますね」
僕はワッフルをくわえたまま、厨房の隅に置いてある氷を入れた簡易冷蔵庫から冷やしてあった物を取り出した。うん、ちゃんと固まってるな。
「オーナー、それは?」
ニアさんが取り出した物を興味深い そうに眺める。
「プリンだよ。これも生クリームやフルーツを添えると豪華になる」
プリン・ア・ラ・モードってやつだな。皿を一枚取り出してその上にカップをひっくり返し、中身を取り出す。ぷるるんと黄色いその上にカラメルが流れ、なんとも美味そうだ。スプーンを取り出して一口食べてみる。ちょっと濃いけどまあ大丈夫だ。
ニアさんもスプーンでプリンを口に運ぶ。その味に目を見開いて驚き、続けざまにパクパクとプリンを食べ続ける。これも成功かな。
「冬夜兄ちゃん、言われた通り芋を切っておいたけど、コレどうするの?」
レネの前にスティック状に切られた芋が、まな板の上で山になっている。それをざっと水洗いして水をきり、フライパンに油を少し入れて中火で熱しながら、1本ずつ入れていく。芋が浮いてきたら取り出して、と。今度は高温の油に入れてカラッと揚げて出来上がり。
塩をパラパラとかけたやつと、自家製のケチャップを添えたふたつをそれぞれ食べてみる。たいしたものじゃないのに久しぶりだからか、フライドポテトがものすごく美味く感じる。
「美味しい! 冬夜兄ちゃん、コレ全部もらってもいい!?」
「全部かよ。まあいいけど。あんまり食べ過ぎると胸やけするから気をつけなよ」
苦笑しながら最後に二、三個口に放り込んで、皿ごとレネにフライドポテトを渡した。横からクレアさんとニアさんが手を伸ばして一口食べたが最後、その手が止まらなくなる。……太りますよ。
とりあえず食事と室内遊具はこんなもんでいいか。あとは警備か。
城壁内の訓練場に行くと、ウチの新人騎士三人が荒い呼吸をしながら地面にのびていた。それを見下ろしながら八重が笑っている。三人を叩きのめしたのは彼女ではなく、その横にいる厳つい白髪交じりで長い髭の爺さんと、全身傷だらけのおっさんだ。
馬場信晴と山県政景。イーシェン武田領の武将たち。武田四天王の武闘派二人だ。
「よう、小僧。どうした?」
「いや、どんな様子かなと思って」
相変わらずこの馬場の爺さんは僕を小僧呼ばわりだ。一応王様になったんだけどなあ。
「おう、冬夜。こいつらなかなか見どころあるぜ。ま、もっともまだまだひよっこだけどな」
山県のおっさんが大剣を担いでにやりと笑う。こっちは呼び捨てだし。
三人を鍛えようと二人にわざわざ来てもらった。ベルファストのニールさんとか八重のお兄さんとかに頼もうかとも思ったが、忙しそうなんで遠慮した。この二人は逆に暇だったらしい。
なんでも新しく武田の当主となった武田克頼が、前当主である武田真玄の側近をあえて遠ざけ、自分勝手をし始めたんだとか。あれだけ僕が忠告したのに、織田ともなにやら揉めているらしい。二十歳にもなってない若者ゆえの暴走なのか、それとも本当に無能のボンクラ領主なのか……。武田滅亡は近いかもしれないなあ。
「しかし小僧が王様ねえ……。ちっこい国だけど大したもんじゃねえか。まあ、あんだけすげえ魔法が使えんだから、なってもおかしくはないが……」
「こいつらがちょっと羨ましいぜ。ウチの殿様と比べるとな」
ため息をつくように山県のおっさんがのびている三人を見ながら、そうつぶやく。相当苦労しているようだなあ。
「実際どうなのさ? 織田とぶつかったらまずいんじゃ?」
「いや、織田がどうこうというより、ウチの殿様の行動が問題でな。思いついたことを大した考えもなくやたらと命令したり、領地に金がないとなると、安直に民衆への税金を上げたりとかな。とにかく評判が悪い。このままでは織田に潰されるより早く、領地没収、お取り潰しになりかねん。高坂のやつが諫言しちゃいるんだが、まったく聞いてくれなくてな」
どうやらかなりまずいことになってそうだ。建国者が希代の英雄でも二代目がボンクラなために滅んだ国はいくつもあるからなあ。これでは真玄さんも浮かばれまい。
「よかったらウチの国に来る? 今ならできたばっかりの国なんで人手が欲しいところだし」
「ううむ。魅力的な誘いではあるんだがなあ。一応お屋形様への義理もあるし……」
「馬場殿は固えなあ。いいじゃねえか。せっかく誘ってくれてるんだし、俺は賛成だぜ。ま、戦場が無いってのは少々不満だけどよ」
物騒なこと言わんでくれ。まったくこれだから戦闘マニアは。ミスミドの獣王陛下といい勝負だな。
「どっちにしろ今ここで返事はできんな。帰って高坂と内藤にも話してからだ。お取り潰しになるにしても、武田の最後はきちんと見届けたい」
「まあ、気持ちはわかるけど。僕の方も強制する気はないし、気が向いたらでいいからさ」
「おう、ありがとよ」
山県のおっさんが担いだ大剣を下ろし、伸びていた三人に目を向ける。
「さて、休憩は終わりだぜ。さっきと同じく三人でかかってきな」
「「「はい!」」」
元気よく返事をして三人とも立ち上がり、武器を構える。気合入ってるなー。これなら警備の方も安心かな。当然、僕の方でも万全を期すつもりだが。
訓練場をあとにして、城内に戻ろうとすると観音開きの大扉が自動的に開いた。そのまま玄関ホールに入ると今度は後ろで扉が閉まる。自動ドアではない。扉の開閉をしてくれた者が目の前にいる。いる、というか「飾られて」いる。
玄関ホールから二階へと上がる踊り場にかけられた一枚の絵。
「なんか城の中が慌ただしいですねぇ、マスター」
絵の中から白いドレスを着た少女が上半身だけ出してきた。例の幽霊騒ぎで回収した額縁のアーティファクトである。僕がバビロンの所有者だとわかると、シェスカと同じくマスターと呼び始めた。
殺人領主の奥さんの絵はとっくに売り払い、その金で適当な別な絵を額の中に入れた。適当と言っても城に飾るのでそれなりに高い絵をだが。
結果、白いドレスを身にまとい、桃色の髪をリボンでまとめた十代後半の少女に生まれ変わった。名前はリプル。あの幽霊城の名前、リプル城からだ。
「王様たちを迎える準備で忙しいのさ。リプルも頼むぞ?」
「はい。何か怪しい動きがあればお知らせしますよぉ。このお城には常に私の目が光ってるんですからぁ。あ、今レネちゃんがお皿割りました」
よくわかるな。リプルは「工房」で複製した自分と同じ額縁の中を自由に行き来でき、その感覚をも共有できるらしい。複製には意思まではコピーされないので、統括は本体がする。便利な警備システムを手に入れたもんだ。 複製の額縁には風景画が入れられており、城のいたるところに設置された。むろん、プライベートな空間には飾ってはいない。幽霊監視カメラとでも言おうか。
とりあえずこれで準備万端整った。あとはロイヤルファミリーをお迎えするだけだな。
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