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第14章 ブリュンヒルド公国。
#100 建国、そして城建設。


 帝国の反乱騒動から一週間がたった。皇帝陛下はこの度の反乱を鎮圧し、帝都を救った英雄として僕を称えた。立場的には「帝都」を救った「ベルファスト」の冒険者である。
 この機を活かし、ベルファストとの友好、同盟を発表し、同時に互いの国から領土を分割、「ブリュンヒルド公国」の建国を認可した。公王は僕である。
 新国家樹立には皆驚いたようだが、現状は何も無い平原である。さほど興味は続かなかった。まあ、僕もすぐにどうこうしようとは考えてないからいいけどさ。国と言っても何も無いし、国民とか別に移住させる予定も無い。でっかい治外法権の土地をもらったくらいに思っておこう。畑とか果樹園くらいは作るかもしれないが。
 ユミナやルーとの婚約発表は先送りになった。ベルファストの方、ユエル王妃が産む子が男の子か女の子かで、僕の立場も変わってくる。そのため、ユミナとの婚約発表は延期となり、ルーの方だけ発表するのもどうかということとなったわけだ。
 バズール将軍と数名の軍将校は処刑された。完全に反逆罪だから当然と言えば当然だが。その将軍から回収した「吸魔の腕輪」と「防壁の腕輪」だが、これほどの騒動をしでかしたブツだ。また同じような野心を持った奴らが出てくるかもしれない。ベルファストにもレグルスも、これは争いの種にしかならないということで、結局は破壊するという形になった。
 「実はそれバビロンの遺産でー、僕に所有権があるんですー」とか言える状況じゃなかった。「工房」で作った偽物とすり替えようかとも思ったが、そんな形で国王と皇帝を騙すのもどうかと。仮にも義父になる人たちなんだし。
 腕輪は二つとも両陛下の前で「グラビティ」でペシャンコにした。やっぱり惜しかったかなァ……。
 さて、両国から国を分割、譲渡され、建国したわけであるが。

「…結局、あの国に引っ越すんですか?」
「いんや? その予定は無いけど?」

 リンゼの言葉に答えながら、リビングでライムさんが持って来てくれた紅茶を飲む。だって不便じゃん。王都のほうが便利だし。

「しかし、今はいいでござるが、どのみち引っ越すことになると思うでござるよ」
「え? なんで?」
「バカねー。このあとユミナとルーシア、どっちとも婚約を発表して、なのにここに住んでたらベルファスト寄りって思われるでしょうが」

 あ、そうか。帝国側としては面白くないかー。まあ、「ゲート」があれば王都だろうが帝都だろうが一瞬で行けるから問題ないとも言えるんだけど。

「じゃあブリュンヒルドの方に住むしかないのか。どうするかな……この屋敷ごと向こうに転移しちゃうか?」
「ここはここで王都の拠点として残した方がいいんじゃないでしょうか。ブリュンヒルド公国大使館として」

 そういやそうか。ユミナの言うことも一理あるな。と、なると向こうに住む場所を建てないといけないか。

「どこかで屋敷を買ってブリュンヒルドに転移させるか? いや、バビロンにある空家を転移させたほうが……」
「どうせならお城を建ててしまったらどうでしょうか? 仮にも冬夜様はあの国の王であるわけですし、屋敷を探すよりも自分好みに手を加えられた方が素敵ですわ」
「あ、いいですね。綺麗で真っ白なお城とか素敵です」

 ルーの提案にユミナが応え、きゃっきゃっとはしゃぎ始めた。本当に仲がいいなあ。この二人、同年齢であるためか最近よく一緒にいる。生まれや育ちも似ているので、どこか気が合うのかもしれない。仲が悪いよりは遥かにいいので、僕としては助かるが。

「城ねえ……」

 スマホをネットに繋ぎ、「城」で画像検索。パパパッと様々な城の映像が宙に映し出される。

「…冬夜さん、これは?」
「お城のカタログ…図鑑みたいなもんかな」

 リンゼに曖昧に応えて、画像を次々とスライドさせていく。

「イーシェンのような城もあるでござるな」

 「城」ってだけで検索したから日本の城も入っちゃったんだな。…しかしいろんな城があるなあ。「ステーン城」なんて城もあるのか。スリップ使いの僕が参考にするにはふさわしいかもしれない。

「このお城とか白くてキレイですわー」

 ルーが目を止めたのはチェコのフルボカー城か。確かに白くてキレイだけど……。

「いや、でもな…? やっぱり大きすぎるんじゃないかなあ。そもそも僕らには家臣とかいないわけだし。ここまで大きいと逆に不便じゃないかな……」
「うーん、そう言われると……」
「まずは小さな城をひとつ建てて、必要になったら増築していく、という形でいくか」

 と、決めても僕に城なんて建てられないのだが。いや、素材さえあれば「モデリング」で外観だけは作れるよ? すごい大変だけど。けれど、内装とかまでは無理。写真とかじゃ一部だけしかわからないし。ベルファスト城とかを参考にすればできるかもしれないけど、どんだけ時間がかかるか…。

「どっかに使ってない手頃な城でも落ちてないかな……」
「こんなこともあろうかと、でありまス!」

 バァン! と作業着を着たロゼッタが部屋に飛び込んできた。うわっ、びっくりした!

「今こそ! 今こそ「工房」の実力を示すとき、でありまス!」

 ぐっ、と力強く拳を握りしめ、天にかざす。やたらテンション高いな、おい。

「「工房」には複製機能の他に、自動改造機能が備わっておりまス! スキャンした対象を自分好みに改造して、製作することができるのでありまスよ!」

 むふーっ、ロゼッタが鼻息荒く一気に説明する。自動改造機能? スキャンしたものを改造できる?

「さあ、行くでありまス! 我が「工房」へ!」



 初めて見る「バビロン」に驚きを隠せないルーを連れて、みんなで真白き立方体、「工房」の中に入った。床から小さな立方体が次々と重なって、あっと言う間にロゼッタの前にモニターのようなものが作り上げられる。同じように後ろには小さな椅子ができあがっていた。ロゼッタはその椅子に座りモニターに手を触れる。

「とりあえずこの国のお城をスキャンするでありまスよ」

 あらかじめバビロンは城の上空へと移動させておいた。ステルス機能のおかげで誰も気がつかない。しかし、影も落ちないってのは何度見ても不思議だよな……。……魔法に疑問を持つのはやめとこう。ハゲる。

 正面のモニターに上空からのベルファスト城が映る。緑の光が一瞬城を包んだと思ったら、次に画面上にその城の立体映像のようなものが浮かんだ。

「スキャン終了。自動改造に移行するでありまス。何か注文はあるでありまスか?」

 こちらを振り向き僕らに尋ねてくるロゼッタ。

「注文っていうか…そうだな。まず、こんなに大きくなくていい。いくつか部屋を削ってもらえるか?」
「了解でありまス」

 ロゼッタが立体映像に手をかざすと城の色々なところが大幅に削られていき、コンパクトになっていく。デザインも変わっていくのか。

「あ、あとこの塔もいいや。外してくれ。中庭はもう少しこっちに広い方がいいな」

 僕の注文に合わせて城がまた変形していく。改造ってこういう事か。確かにこれはいいな。細かい設定や変形は「工房」が自動でやってくれるんだ。

「みんなもなにか希望ある?」
「そうですね…。バルコニーをもっと広く取りたいですね」
「城の中に広い道場が欲しいでござるよ」
「あ、じゃああたしも室内格闘場がほしい!」
「…図書室をいくつかに分けてほしい、です」
「堀はもう少し幅を広く、大きな跳ね橋にしてほしいですわ」

 次々とみんなの注文を受けて、城の形が変わっていく。もはや初めのベルファスト城の名残りなどどこにもない。完全に別物だ。堀や城門、跳ね橋と、城だけでなく周りの建物も変化していく。

「これでよろしいでありまスか?」
「うん、問題ない。で? どうやってこれを造るんだ?」
「現場に行ってこのデータ通りにパーツを造り、土地を変形させてから転送して組み上げていくでありまスよ。三日もあれば完成するでありまス」

 これだけのものを三日か。すごいな「工房」。これを利用すれば、街とかもすぐできるんじゃないか?

「素材が揃えばでありまスが」
「…………は?」

 素材…って……え? 城の? ちょっと待って、どういうこと?

「城の素材って、材料ってこと? 大理石とかレンガとか?」
「それだけじゃなく、ガラスから木材、真鍮や鉄などの金属、絹や綿や麻などの布まですべての必要素材を揃えるでありまスよ」
「できるかあっ!!」

 全部集めるのにどんだけ手間がかかると思ってんだ! それなら普通にお金払って城を建ててもあんまり変わらないだろうに! 人件費が浮くくらいで! いや、城ひとつの人件費っていったらかなりの金額かもしれんけど!

「あのう、それって新品の素材じゃないといけないんですの?」

 ルーがおずおずとロゼッタに尋ねてくる。

「素材は一度分解して再構築するので古くても問題ないでありまス。あまりにも朽ちてしまったものはさすがに再構築できないでありまスが」
「……それなら帝国の北方に打ち捨てられた大きな城砦があったはずですわ。それをまるごと回収すれば、充分に素材として使えるのではないかと……」

 なるほど! もともと城だったものを使えば大幅に必要な素材は減るな。布とかはボロボロになってるから使えないとしても、石材や金属、ガラスなんかは再構築すれば使えるだろう。捨てられた城なら消えたって問題ないだろうし。皇帝陛下に許可をもらって、早速その城へ行くとするか。
 思い立ったが吉日ってヤツだ。すぐに行動を起こそうとする僕を、なぜか提案したルー本人が申し訳なさそうに引き止める。

「えっと…あの〜、実はその城砦なんですけど…………出るんだそうです……」
「……なにが?」
「幽霊が、ですわ」

 おいおい。幽霊城……ですか?







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