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第13章 帝都動乱。
#98 五人目、そして新国家樹立。



 帝都に倒れていた兵士たちは全て捕縛され、地下牢へと入れられた。彼らは軍属を剥がされ、その上で罪を吟味されるそうだ。一部の扇動者以外は重い罪にはならないかと思ったが、(降伏勧告を蹴り、自らの意志で皇帝への反逆者となったのだから当然とも言える)それなりの罰は受けるようだ。死刑でないだけマシだろうが。
 皇帝は直ちに帝国中の街から少しずつ兵士たちを帝都に回すように指示を出した。このままでは帝都の犯罪を取り締まる者がいない。どさくさに紛れて犯罪を犯す者も出るだろうからな。
 捕えられていた重臣たちも開放されたようだ。ロメロ将軍と共に匿われていた皇太子も城へやって来た。僕を見てものすごくビックリしていたが。やっぱりあの時の騎士だった。
 変装して城から逃げる途中に護衛の人たちとはぐれ、兵士たちに襲われたんだとか。
 言ったらなんだけど、印象薄いんだよな、この人。存在感が無いっていうか。いい人っぽいし、それなりに優秀らしいんだけど。

「この度は本当に世話になった。冬夜殿は余の命の恩人というだけでなく、姫や皇太子…いや、帝国の恩人とも言える。なにか礼をしたいのだが、望みはあるだろうか?」
「いや、今回のことは流れというか、行きがかり上そうなっただけですし。気にしないで下さい」

 貴賓室で対面する皇帝陛下の申し出をやんわりと断る。正直、特に欲しいモノとかも無いし。それを聞いて、同席していたベルファスト国王が小さく笑う。

「変わらんな、冬夜殿は。ベルファストでも冬夜殿に爵位を授けようとしたのだが、このように断られましてな。結局、金と家を受け取ってもらえただけで。まあ、娘をもらってくれたのが一番でしたがね」
「ほほう。では余の方もルーシアをもらってもらえるのかな。ベルファストとレグルス、両方の姫を娶ったとなれば、これほど両国の同盟に象徴的な存在はないしのう」
「あのですね……」

 話が変な方向に行きそうだったので、注意を喚起しようと思ったのだが、横からユミナが手を上げてその話に割り込んできた。え? なに?

「ルーシア姫が私たちと同じく、冬夜さんの婚約者となることに私は賛成します。本人に確認をとっていますが、彼女もそれを望んでおりますし。何より両国の友好のため、これは良い縁ではないかと」

 え? なに言ってんの、ユミナさん!?

「あ、あたしも賛成」
「…私も、です」
「拙者もかまわないでござるよ」

 他の婚約者の方々も次々と賛同の意を示す。ブルータス、お前もか!? っていうか僕の意志がまったく考慮されてないってのはどうなんだ!?

「ちょ、待って下さい! なんでそんな流れに!?」

 話についていけず、思わず声を上げてしまったが、それに対してリオンさんが苦笑しながら答えてくれた。

「ぶっちゃけた話、冬夜殿の力のせいですね」
「え? どういうことです?」
「今回のことでわかりましたが、冬夜殿の力は全てにおいて規格外です。そんな力の持ち主が、ひとつの国ばかりに肩入れしては、他国としては脅威でしかない。逆に言うと、ベルファストが危険視される恐れがある。でも、帝国の姫とも婚約したとなれば、ベルファストだけではないと、少なくとも他国に言い訳ができる……とまあ、こちらは考えるわけで」
「帝国は帝国で、変に冬夜殿を政治の取り引きに使われたりすることなく、対等な同盟を結べるというわけですな?」

 リオンさんの言葉を片目の帝国騎士団長、ガスパルさんが引き継ぐ。いや、言ってることはわからないでもないけどさあ!
 ちら、とルーの方を見るともじもじと赤い顔でこちらをちらちらと見ている。ぬ、う……。

「もう四人も五人も変わらんだろ。なにを今さら悩む必要がある!?」
「そうはいいますけどね……」

 レオン将軍が相変わらずの力でバンバンと背中を叩いてくる。確かに反対する理由もないんだけど……。まだ出会って二日ですよ!? 急展開すぎるだろう!
 ……あれ? ユミナの時は出会ったその日だったか? じゃあ問題ないのか……ないのか?

「姫はどうだ? 冬夜殿のもとへ嫁ぐのは嫌か?」
「いいえ、お父様。嬉しすぎて気絶してしまいそうですわ! こんなに幸せなことはありません! 喜んで冬夜様のところへお嫁に行きます!」

 鼻息荒く、両手を胸の前で組み合わせながら、キラキラとした瞳をこちらへ向けてくる。あー……。これはなにを言っても無駄な気がしてきた。
 なんだろうなー、こっちの世界の人たちって結婚観があっさりしてるっていうか……。軽く考えているわけじゃないんだろうけど。こういうところが別の世界なんだなあって痛感する部分だよな……。

「どうだろう。ルーシアをもらってはくれないだろうか?」
「はあ……結婚は僕が18になるまで待っていただきますけど、それでよければ……」

 まあ、18まで待つ必要もないのだけれど、そこはわずかな抵抗というか、なんというか。
 きゃーっ、とはしゃぎながらルーがユミナたちの輪に加わっていく。仲良くなるの早いなァ……。

「むろんそれとは別に、謝礼としていくらか贈らせてもらうぞ。どちらにしろこれで対等な関係として、ベルファストと帝国の同盟を結ぶことができる」

 皇帝の言葉をあらためて考えてみるとすごいな。これでベルファスト、ミスミド、リーフリース、レグルス、と大陸の西方諸国のほとんどが同盟を結んだことになるのか。

「ところでこの際だから、ユミナとの婚約もルーシア姫との婚約も国内外に正式に発表してはどうかと思うのだが、そうなると冬夜殿の身分が必要になってくる。そこでレグルス皇帝と協議をした結果、冬夜殿には両国から領地を分割譲渡することにした」
「……どういうことです?」

 言ってることの意味がわからない。領地をくれるということだろうか。正直、そんなモノをもらっても統治なんかできないし困るんだが……。

「拝領ではない、譲渡だ。つまり、レグルスとベルファストの境に小さな国を建国する。そしてそこの国王として冬夜殿に即位してもらう、とこういうわけだ」
「はあ!?」

 建国って、国を作っちゃうの!? 国王って僕が!?

「まあ、国と言っても国民は冬夜殿の身内だけだが。だが、小さくても独立国である以上、ベルファストやレグルスの法律に縛られることはない。その建国の後ろ盾には両国がなるし、むろん不可侵とする。その国でどんなことが起ころうが、こちらは一切干渉しない。冬夜殿の自由だ。これなら立場的にも問題ないし、両国の姫と結婚するにもふさわしい身分となる」

 バチカン市国みたいなものか? それともどこかの公国みたいな感じだろうか。どっちにしろ国を一個もらっていいのだろうか。

「冬夜殿、地図を表示してもらえるか?」
「え? あ、はい。マップ表示」
『了解。表示しまス』

 王様の言葉に状況がつかめない僕は言われるがままに地図を空中に表示させる。
 左手にベルファスト、右手にレグルス。その境目を国王が指差した。

「両国の間には北から三分の二ほどメリシア山脈が伸び、その下は森林や平原の広がる地帯となっている。豊かな土地ではあるのだが、ここは魔獣も多い。なのでここを避け、さらに南下して両国の交易路があるわけだ。この平原地帯を両国から分割し、独立国として建国する」

 ちょ、そこさっき魔獣が多いとか言ってませんでしたっけ!?

「そんな危険なところに住めと?」
「住む必要はないがね。ただ、この地域は今後独立国として扱われる。となれば、我々の国はなにも手出しができない。極端な話、ここに盗賊団が根城を作って好き勝手していても、我々は指をくわえて見ているしかないわけだ。国王である冬夜殿に抗議をするくらいだな、できるのは」

 ニヤリと笑う国王と皇帝。汚なー、交易路の危険排除に担ぎ出されたようなもんじゃんか。同盟を組めばこれから両国の間で頻繁に人の行き来が行われるだろう。その安全対策のためにその危険地帯をなんとかしてくれと、こういうわけかい。

「なんか騙されてる気がするんですけど……」
「いやいやいや。土地は豊かなのは確かだし、国土としてもそれなりに広い。ここが安全地帯となれば、交易路を安心して人々は利用できるし、冬夜殿も土地と身分を手に入れることができる。いいことづくめじゃないか」

 そうなんだけどさー。なんかいいようにされている気がする。伊達にこの人らも一国の君主じゃないということか。抜け目がない。どちらも臣下に殺されかけてるけど。
 うーん、悪い話じゃないのかなあ。確かにお姫様を二人ももらうなら、それなりの身分じゃないと、ってのはわかるけど。国民とかいないだけ面倒じゃないからマシかなー。それに好き勝手できる土地があるってのはやっぱり魅力だし。

「わかりましたよ。その土地を安全にしてくればいいんでしょ。やりますよ」
「すまんな。そのあと両国の後ろ盾をもって、正式な声明で新国家樹立を宣言すればいい。両国と同盟関係にある国は承認するだろう」

 国家樹立ねえ…。あまりピンとこないけど。まあ、まだなんにもないしなあ。片付いたらお城でも建てますかね?

「とうとう王様でござるか……。拙者たちの旦那様はすごいでござるなあ」
「ねー。ここまでになるとは思ってもみなかったわよ」

 八重とエルゼが顔を見合わす。僕も思ってみなかったよ…。流されてるなあ。

「…国の名前とか、どうするんですか?」

 リンゼが僕に尋ねてくる。うーん、国名ねえ…。望月国とか? うわ、恥ずかしい! それだけは却下だな。ニホン公国とか? 語呂が悪いか。ジャパン、ジパング……。むう。これといったものがないな。あ。

「ブリュンヒルド……かな。ブリュンヒルド公国」
「ブリュンヒルドって冬夜さんの持ってる武器の名前ですよね?」
「うん。たぶん元々は戦乙女の名前が元になっていると思うんだけど」

 ブリュンヒルド公国。響きは悪くない気がする。まあ、公国と言ってもなんにもない国だし、土地名みたいなもんだからそこまで気にすることはないかもしれないけど。

「ブリュンヒルド公国、か。悪くない。ベルファスト王国はブリュンヒルド公国の建国を支持し、同盟国として承認する」
「レグルス帝国も同じく」
「承認って、この場所を安全にしたら、でしょう?」

  ここってどれくらいの広さなんだろう? みんなにわからないようにスマホで確認してみる。範囲指定して面積を割り出すように指示してみた。

『約410平方キロメートルでス』

 …と言われても正直よくわからん。例えば東京23区ってどれくらいの広さだ? 検索検索……えっと…621平方キロメートル……。
 え!? 東京23区の三分の二くらいあんの!? 広っ!!







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