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第13章 帝都動乱。
#95 トップ会談、そして帝国十二剣。


 皇帝の意識が回復したのか。けっこう早かったな。キャロルさんに話を聞くと、体調もだいぶ安定しているようだし、話をしても大丈夫みたいだ。
 キャロルさんについてきてもらいながら、皇帝陛下に当てがった部屋へと入る。そこには娘と穏やかに話す皇帝の姿があった。本当に大丈夫そうだな。

「冬夜様! お父様がお目覚めに!」
「……そなたが望月冬夜殿か?」

 嬉しそうに振り向くルーと、静かな表情で僕の方を見つめてくる帝国の皇帝。長く白い髭と痩せた顔からなんとなく仙人のような印象を受ける。

「まずは礼を言わねばな。余の命とルーシアの命を救ってくれたこと、感謝しても、し足りぬ……」

 皇帝陛下が頭を下げる。なんか恥ずかしくなってしまうな。

「お気になさらず。たまたまあのとき帝都に買い出しに来ていただけですので」

 言ってみれば偶然なのだ。一日早くても遅くても僕は何もしなかったに違いない。

「そう言ってもらえると助かる。此度の騒動は余の不徳と致すところだ。まこと口惜しい……」
「それでこれからどうします? まだベルファストには知らせてないので、どこか行く当てがあるなら「ゲート」でお送りしますが?」

 そう告げると驚いたように皇帝は目を丸くして、こちらをしげしげと眺めた。なんだ?

「いや……冬夜殿はベルファストの人間ではないのか?」
「住んでるという意味ではベルファストの住人ですけど。別に国に仕えているわけではないですし。王様とは親しくしていただいてますが、国家間の問題となるとまた違ってきますからね」

 このまま行く当てがあるならそちらへ亡命した方がいいかと思うし。第一皇女の嫁ぎ先とか第二皇女が留学中の同盟国とか。
 皇帝はしばらく沈思黙考に耽っていたが、

「いや、ベルファスト国王に会わせて欲しい。できるのであれば内密に話をしたいのだが、どうだろうか?」
「たぶん大丈夫だとは思いますけど……。いいんですか?」
「この際だ。今までのことや、これからのことを話し合いたい」

 んー、まだ夜も更けたばかりだし、今なら王様も時間があるかな。とりあえずユミナに頼んでついてきてもらおう。僕は皇帝たちの部屋を出て、ユミナのところへ向かった。



「……すまん、もう一度言ってもらえるか?」
「あー…実はレグルス皇帝陛下と第三皇女をウチで匿ってました。すいません」

 国王陛下は僕が伝えた言葉に衝撃を受けたのか、頭を抱え出した。ちょっとオモロイ。

「レグルス皇帝がわが王都にいるだと? まったく今日は驚きの連続だ…いったいどうなっている!?」

 と、言われましてもねえ。王妃様の妊娠は関係ないとしても、その他は僕のせいかも…いや、僕のせいか。

「で、皇帝陛下は国王陛下と内密に面談を望まれてますけど、どうします?」
「皇帝が?」

 王様はふーっと息を吐き、椅子に深くもたれ、腹の上で指を組み合わせる。しばらく考えていたようだが、意を決したように立ち上がった。

「ここで逃げるわけにもいくまい。その対談、乗ってやろうではないか」
「じゃあ直接ウチへ転移しますね」

 「ゲート」を開き、国王とユミナを連れて皇帝のいる部屋へ直接転移する。
 ベッドで横になっていた皇帝は「ゲート」に驚きつつも身体を起こし、目の前に現れたベルファスト国王に目を向ける。互いに視線を外さずしばし無言でいたが、やがて皇帝が目を伏せ、頭を軽く下げた。

「このような姿で申し訳ない、ベルファスト国王。此度のこと、御国にも迷惑をかけてしまったようだ」
「いや、あまり自分を責められますな、レグルス皇帝。事情は冬夜殿から聞いておりますので」

 そう言って王様はベッドの横にある椅子に腰掛ける。一応国のトップ会談だしな、部外者は席を外そう。部屋の中にベルファスト国王、レグルス皇帝、そして互いの娘であるユミナとルーを残して僕は外に出た。
 廊下にはキャロルさんが部屋を警護するように立っていた。部屋に入ってないのに部屋から出てきた僕に驚いていたが、すぐに「ゲート」を使ったと察したらしい。

「中でベルファスト国王とレグルス皇帝が会談中だから、邪魔しちゃダメですよ?」
「な!? いつの間にそんなことになったんです!?」

 またもや驚くキャロルさん。いちいちこの人リアクションがオーバーだな。
 ふと、キャロルさんの剣に目が止まる。あの柄頭に彫られている紋章……あ!

「すいません、キャロルさん。その剣の紋章なんですけど……」
「我がリエット家の紋章ですが何か?」

 間近でよく見せてもらう。やっぱり同じだ。レネの持っていたペンダントと。

「この紋章と同じものが彫られたペンダントを見たことがあります」
「ッ! それは風の魔石が嵌め込まれたやつですか!? どこで!? その人は!?」

 目の色を変えて僕に迫ってくるキャロルさん。こりゃよっぽどの理由かな。まだ事情がわからないのでレネのことは伏せておこう。

「持ち主の方は亡くなったそうです。病気だったそうですが」
「そう、ですか……」

 僕の言葉に先ほどの勢いは消え、キャロルさんは力なく俯いた。よほど大切な人だったのか?

「そのペンダントの持ち主は私の姉です。私が幼い頃、厳しかった父親に反発して家を飛び出した、たった一人の姉妹です」

 お姉さんだったのか。そりゃあ必死になるよな。ってことは、レネはキャロルさんの姪ってことになるのか? あんまり似てない気がするけど。キャロルさんは金髪だけど、レネは亜麻色の髪だしな。父親のほうの遺伝かな。

「リエット家ってのは帝国で有名な貴族なのですか?」
「有名かどうかはわかりませんが、一応、帝国十二剣の末席におります」
「帝国十二剣?」
「ベルファストではあまり知られてないかもしれませんが、帝国を建国した初代皇帝、それを支えた忠臣の十二人のことです。そのうちの一人「双剣のキール・リエット」が私のご先祖にあたります。まあ帝国十二剣もほとんどが今では名ばかりの貴族ですが……」

 そう言って寂しそうにキャロルさんは笑う。没落貴族…そこまではいかないにしても、すでに帝国では重要なポストにいないんだろうな。家の紋章をライムさんも知らないって言ってたし。

「そうですか……姉上は亡くなったのですか……。父上も亡くなる寸前まで姉上と喧嘩別れしたことを悔やんでいて……。向こうで二人とも仲直りしているでしょうか……」
「あー……っと、その、お姉さんなんですけど。実は娘さんが一人いまして。その子が今ウチにいるんですが……」
「………え?」

 キャロルさんが目を丸くして絶句する。急に亡くなった姉の忘れ形見がここにいると聞かされて、動揺しているのだろうか。
 そこへナイスなのかバッドなのかわからないタイミングでレネが廊下を駆けてきた。

「冬夜兄ちゃ……旦那様、お食事の用意ができました」
「ああ、ありがとうレネ。あとでいただくよ」

 僕とお客様であるキャロルさんにペコッと頭を下げると、廊下を戻っていった。キャロルさんの目がレネを追っていく。やがてレネの姿が見えなくなるともしかして、という視線を僕に向けてきた。

「あの子ですよ。名前はレネ。ここに来る以前は貧民街でスリをしていました」
「そんな……!」
「そんなことをしないと生きていけなかったんですよ。父親は冒険者で魔獣討伐の依頼を受けた先で帰って来なかったそうです。お母さんの形見のペンダントをずっと大切に持ってましたよ」

 廊下の先を見つめていたキャロルさんが僕の方へ視線を戻した。

「……そのうちあの子と話してみたいんですが、いいでしょうか?」
「いま呼んできましょうか?」
「いえ、今は帝国がこんな状態ですし、しばらくこのことは伏せておいて下さい。どうやらあの子もここで幸せそうに暮らしているみたいですし。ただ、母上にはいつか会わせてあげたいと思います。あの子……髪や瞳の色は違いますが、姉上の面影があります」

 キャロルさんの母上ってことはレネの祖母にあたるのか。いつかちゃんと会わせてあげられるといいなあ……。
 そんなことを考えていたら背後のドアが開き、ユミナが顔を覗かせた。

「冬夜さん、お父様と皇帝陛下がお呼びになってます」
「僕を?」

 なんだろ。国同士の話し合いに邪魔だと思って席を外したんだけどな。
 中へ入るとベッドには皇帝が、その隣の椅子には王様が座っていた。二人とも穏やかな顔をしている。話し合いは済んだのかな。

「冬夜殿、昼間の話だが……」
「昼間?」

 なんか言ったっけか? ベルファストの王様の言葉に首を傾げる。

「バズール将軍をなんとかすると言ったそうだが……。本当になんとかできるのか?」

 王様の言葉を引き継ぐように皇帝が口を開く。ああ、あのことか。

「どうにか、というか、将軍を倒すことはできると思いますよ。他の軍人さんたちも無力化できますし。言ったら何ですけど、明日にでも帝都を制圧することは可能です」
「「「な……!!」」」

 驚きに固まるユミナを除いた三人。ユミナは当然とばかりに小さな胸を張っていた。……まだ成長過程です。

「ただ、聞いておきたかったんですけど、鎮圧したとして今回の反乱に加わった軍人たちをどうする気ですか? 全員死刑とか?」
「いや、将軍をはじめ、主だった幹部はそれもやむをえないが、ただ従っただけの者は軍務を解き、帝都を追放とするに留めるつもりだ」

 残りは全員解雇か。まあ妥当なのかな。帝都にいるのは全軍の一割半ほどらしいし、痛手ではあるがまだ立て直せる範囲か。

「マップ表示。レグルス帝国帝都」
『了解。マップ表示しまス』

 ヴンッと部屋の中央に帝都の地図が現れる。

「な、なんだ、これは!?」
「帝都の地図ですわ……。それもこんなに細かい……」
「僕の無属性魔法です。便利でしょ?」

 驚く皇帝陛下とルーに大したことないですよ? という感じを含ませて答える。国王陛下も驚いていたが。そういや見せたことなかったか。

「検索。騎士団員を青、軍人を赤で表示」
『了解。…検索終了。表示しまス』

 ぶわっと帝都に赤い点が広がっていく。昼間見たより増えてるような気がするな。他の街からも呼び寄せたか? そして城の隅の一角に青い点が固まっていた。

「ここは?」
「……地下牢だな。おそらく騎士団の者は捕らえられているのだろう。だが全員ではない。少ないな。他のものは逃げたか、殺されたか……」

 悔しそうに拳を握る皇帝。それを見ておずおずとルーが僕に声をかけてくる。

「あの、冬夜様。お兄様を探すことはできますか?」
「うーん……できなくはないんだけど……。皇太子様ってなにか特徴がある? ひと目で皇太子ってわかるような」

 この検索は「サーチ」を元にしているので、僕がそれを見てどう判断するかで検索される。軍服を着てるから軍人、と判断できるなら「軍人」で検索ができるのだが。
 だから会ったこともない人は検索できない。八重のお兄さんのように「頬に刀傷」とかあればひと目でわかるのだが。

「特徴……ですか? えっと髪は銀髪で、えっと……あら? 特徴…特徴……」

 考え込むルー。それを見ながら苦笑する皇帝陛下。よっぽど普通の顔をしてるんだな。仕方ない。記憶を貰うか。

「ルー。ちょっと手を出して」
「? はい……? あ……」

 差し出された小さな手を握る。たちまちルーの顔が赤くなるが、僕はなるべく平常心で語りかける。

「目をつぶってお兄さんのことを思い浮かべて。なるべく最近のを」
「は、はい」

 目をつぶって集中しているルーのおでこに僕のおでこを当てる。正直、皇太子の記憶を貰うなら皇帝陛下でもいいのだが、男同士でおでこを合わせるのはできればしたくない。リーフリースの作家皇女に知られたら何を書かれるか。

「ふわわっ!?」
「集中して」
「は、はいぃ!」

 うろたえるルーを嗜めて、こちらも魔力を集中させ、魔法を発動する。

「リコール」

 ぼやっとした顔が頭の中に浮かび、だんだんと像を結んできた。銀髪でさほど特徴もないが、優しそうな青年の顔が……あれ?

「この人が皇太子なら……僕、会ったことあるぞ……?」
「「「「え!?」」」」

 驚く四人をよそに記憶を手繰る。そうだよ、間違いない。帝都が襲われてたときに、兵士に詰め寄られていた若い騎士だよ。え? あれが皇太子? ひょっとして逃げるのに変装とかしてたのか!?
 ………やべ。置き去りにしてきた。







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