ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第10章 日々の暮らし2。
#77 騎士団の事情、そして夜襲。
 ニール副団長に詫びを入れられたあと、リオンさんに騎士団の現状を聞かされた。騎士団は王都の守りを主に司り、都の安全や、王室警護、要人護衛などを任務とする。ほとんどが貴族の子息であるが、家督を継ぐべき長子ではなく、次男、三男が多いらしい。その立場から責任感がなく、家柄を誇るだけの、ああ言った我儘な奴らもいるとのことだ。

「かく言う僕も次男ですけどね。まあ、ウチは他の家と違って、人様に迷惑をかけるような間違ったことをすると鉄拳制裁が待っているので……」

 苦笑しながらリオンさんがそう語る。あー、あの親父さんだしな…。なんとなくわかる。甘やかされる要素がなさそうだ。

「少数だがやはり家柄とかにしがみつく者がいてな、伯爵家の新兵が男爵家の隊長に従おうとしなかったり、また逆に隊長の方が新兵に媚びたりな。まったくくだらない話さ」

 ニールさんが苦々しく話す。どこも問題を起こす奴ってのはいるんだなあ。

「まあ、今回は渡りに舟だったよ。あいつらは騎士団にとって獅子身中の虫になりかねんからな。今までは実家の手回しで躱してきたが、今回はそうはいかん。なにせ姫様のフィアンセに手を出したのだからな。首がつながっているだけありがたく思ってもらいたいもんだ」

 この人、初めから僕とあいつらが揉めるのを見ていたな。確信犯か。まあ、乗せられた僕も僕だが。

「それよりも、だ。先ほど見せてもらったのだが、その武器……それはなんだね?」

 興味深そうにニールさんは僕の腰に下げられた剣銃ブリュンヒルドを眺めた。

「これですか。僕専用の武器です。僕にしか使えませんし、僕にしか作れません。遠距離と近距離、どちらでも使えます。短剣や長剣状態に変形し、相手を麻痺させることもできます」
「ふむう。すごい武器だな。私にも作ってはもらえないか?」
「すいません、それはちょっと……」

 銃に関しては慎重にならざるをえない。これは容易に人を殺すことができるモノだ。他人に譲渡するのはよほど信頼した相手でなくてはならないだろう。

「そうか…残念だ」
「ああ、でも変形する武器や、麻痺の能力を付与したものを作ることはできますよ? 使いこなせるかはわかりませんが」
「本当か!? ならお願いしたい!」

 ニールさんの返事を聞き入れ、「ストレージ」から鋼のインゴットを取り出す。ミスリルの方が硬度があるのだが、ミスリルはどっちかというと武器にはあまり向かない。軽過ぎるのだ。あれを活かすには軽さと硬さを利用したエストックのような刺突武器か、「斬る」ことに特化した刀が相応しいと思う。

「ニールさんはどういう武器を得意にしてるんですか?」
「そうだな、やはり槍だな。むろん剣も使えるが」

 じゃあその二つ…いや、短剣も合わせて三つの変形機能を加えるか。
 「モデリング」を使い、まずは二メートル程の槍を形成する。デザインは昔ゲームで見た西洋風の槍だが、穂先がそのまま短剣の形をしている。簡単に言えば柄の部分がとても長い短剣だ。
 この柄部分は空洞化してあり、変形時はこの中に質量を移動させて柄を短くする。すると短剣状態になるわけだ。
 また、ブリュンヒルドと同じく、厚みのある短剣の刃を薄くし、柄部分を再び空洞化することにより、一メートル程の長剣に変形する…と、こんな感じでいいか。「エンチャント」で「モデリング」を付与する。そして仕上げだ。

「プログラム開始/
発動条件:所有者の「スピアモード」「ソードモード」「ダガーモード」の発言/
発動内容:「モデリング」による刀身及び柄部分の、槍、長剣、短剣形態への高速変形/
プログラム終了」

 あ、麻痺効果も足しとかないとな。再び「エンチャント」で「パラライズ」を付与する。

「プログラム開始/
発動条件:所有者の「ブレードモード」「スタンモード」の発言/
発動内容:スタンモードにおける刀身の変形、及び「パラライズ」による麻痺効果の付与/
プログラム終了」

「っと、これで一応完成かな」

 くるりと槍を回してみる。うん、イーシェンで作ったのと同じく、相変わらずバランスは悪いな。慣れないと難しいかもしれない。

「ダガーモード」

 一瞬にして、柄部分が短くなり、槍が刃渡り40センチ程の短剣に変形する。振り回してみるが問題はなさそうだ。普段はこの形態にしておけば持ち運びに便利だろう。

「ソードモード」

 今度は刀身が伸び、一メートル程の長剣状態になった。柄部分は両手持ちできるくらいには伸びている。正面に構え、振り下ろす。うん、悪くない。

「スピアモード」

 最初の槍状態に戻る。よし、変形機能は問題ない。あとは……。

「スタンモード」
「え?」

 ニヤリと笑い、リオンさんの肩を槍で軽く叩く。次の瞬間リオンさんがその場に崩れ落ちた。

「はうぅ!?」
「麻痺効果も問題なし、と」
「おいおい……」

 ニールさんが呆れたような声を上げる。え、だって試してみないと。ねえ?
 スタンモードになると刃が無くなり、切れなくなる。まあ、槍で突くことは可能だけど。麻痺効果は弱めに設定しておいたが、それでも回復に1時間はかかるので、倒れたリオンさんに「リカバリー」をかけて麻痺を解く。

「ちょっと勘弁して下さいよ!」
「すいません、試してみないことにはわからなかったので」

 不満をぶつけるリオンさんに謝りながら、「スタンモード」から「ブレードモード」に戻した槍をニールさんに手渡す。

「手製ですからバランスはかなり悪いんで、慣れが必要だとは思いますが」

 槍を受け取ったニールさんはそれを構え、突き、回し、払い、と綺麗な動きで流れるように操る。さすがは副団長と言うところか。
 短剣状態、長剣状態に変形させ、同じように一つ一つの動きを確認していく。最後にまたスピアモードに変形させると、リオンさんの方に顔を向けた。

「スタンモード」
「ちょっと待って下さいよ!?」
「冗談だ」

 焦るリオンさんを見て、笑いながらニールさんは槍を短剣状態に戻す。どうやら使いこなすのに問題はないようだ。

「スタンモードでの麻痺効果は相手が護符などで防御してると効果がないので気をつけて下さい。また、一旦麻痺させると普通なら1時間は効果が切れないので、味方を痺れさせないように気をつけて」
「なるほど、承知した」

 ニールさんはそう言って短剣を嬉しそうに眺めた。喜んでもらって何よりだ。

「いいなー、副団長ばっかり」
「いや、もちろんリオンさんのも作りますよ?」
「さすが冬夜殿! そうこなくっちゃ!」

 同じようにもうひとつ作り、リオンさんに手渡す。こちらも嬉しそうに槍を振り回したり変形させたりして、その感触を楽しんでいた。

「いや、このような物をもらってはなんだか悪い気がするな。なにか礼ができれば良いのだが……」
「気にしないで下さい。まあ、さっきの奴らとなんか問題があったら間に立ってくれれば」
「わかった。約束しよう」

 笑いながらニールさんは請け負ってくれた。まあ、そこまであいつらも馬鹿じゃないと思うが。



「……って会話をしたのが昨日のことだったんだけどな」

 まさかそこまでの馬鹿だったとは。
 月夜に浮かぶ我が家の庭に、50人ほどの襲撃者が転がっていた。中にはあの時の金髪や茶髪、赤毛の馬鹿も混じってる。あとは屈強な男たち。こいつらは私兵団か、雇われた傭兵だろうか。
 怪しい集団がこっちに向かっていると、ラピスさんから情報を得て、わざと門番のトムさんに居眠りをしているフリをしてもらった。
 すると、国王直属の諜報部隊「エスピオン」のメンバーであるラピスさんの言った通り、怪しい集団が闇夜に紛れて庭に侵入してきたのだ。
 庭で待ち受けていた僕に全員驚いたようだが、一人とわかると一斉に飛びかかってきた。
 そこからはひたすら50発の連射である。正直、あっけなかった。一角狼の方がまだいい動きをする。

「あれかな、ニールさんが言ったことがわからなかったのかな?」

 倒れた金髪たちに僕は歩み寄り、ブリュンヒルドで肩を叩きながらしゃがみ込む。
 麻痺して動けなくても意識はあるから、僕の声は聞こえているはずだ。その証拠に怯えた目でこちらを見ている。

「お前らなにをやったかわかってる? 剣だ斧だ、ぶら下げてさ。襲撃だよね、これ。強盗未遂か暴行未遂、それとも殺害未遂かな。ま、なんでもいいけど」
「片付きましたか、冬夜さん」

 テラスに出てきたユミナを見て、金髪の目が見開かれる。は。こんな馬鹿でもさすがにユミナのことは知っているのか。それなら話が早い。

「はい、そうです。君らのしたことは王家への裏切り、謀反、反逆だね。残念ながら君のせいで家は取り潰し、君たちはめでたく斬首刑だ。ご苦労さん」

 僕の言葉を聞くと、金髪は白目を剥いて気絶した。ったく、ちょっと脅しただけなのに、こんなんでよく襲撃しようなんて思ったもんだ。
 トムさんに騎士団まで自転車で走ってもらい、事のあらましを伝えてもらう事にした。

「この人たち、どうするんです?」
「まあ、被害はないから死刑ってのは無いように頼むけど。こいつらの家の方にも罪は及ぶだろうね。爵位を剥奪されるかもしれない。どっちにしろ二度と大きな顔は出来なくなるだろうね」

 でも自業自得かな。親の方もこいつらの悪行をわかってて庇い立てしてたのだから。ニールさんの忠告を無視したってことは、こうなることも考えて……いなかったんだろうな。馬鹿だし。
 夜襲をかけて、数で押せはなんとかなる。あとは強盗が押し入ったことにでもしてしまえばいい……なんて感じの、安っぽいシナリオだったんだろう。
 後先考えない子供の行動だな。親の教育がなっていないのか? なっていないんだろうなあ。なってたらこんな馬鹿に育つわけが無い。
 やがてトムさんが呼んできた騎士団に全員連行されていった。もう二度と会うこともないだろう。
 数日後、いくつかの家に爵位剥奪という、国王陛下のお言葉が下ったという。
 騎士団はこれを恥とし、一層の規律遵守を心がけ、この後、家柄による格差は騎士団内では無意味とされたそうである。






+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。