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第6章 亜人の国、ミスミド。
#49 帰宅、そしてハプニング。


 リオンさんと護衛の騎士たちは、しばらくミスミドに駐留するらしい。なんでも、このあとのいろいろな手続きにベルファスト側の人間がいないと作業が滞るんだそうだ。
 姫であるユミナの護衛をしながら、ベルファストに戻ると言い出す奴もいたが、ユミナがそれをピシャリと断った。曰く、自分の仕事をしろと。
 本音を言うと、僕らは「ゲート」で一瞬にして帰るから、ついて来られると困るのだ。
 別れ際にリオンさんにも手紙用ゲートミラー(さっき命名)をセットで渡しておいた。遠く離れていても、これがあれば毎日文通できる。ひとつをオリガさんに渡しておけば、ベルファストに帰っても連絡を取り合うことができるだろう。それを渡したときのリオンさんのテンションの高さったら。正直ちょっと引いた。
 獣王陛下や宰相のグラーツさん、オリガさんに戦士長のガルンさんにも別れの挨拶を済ませる。リーンとポーラにも挨拶しようとしたのだが留守だった。残念だが仕方がない。
 城を出て、城下町で屋敷の使用人さんたちとスゥへのお土産を買って、荷物をまとめる。あとは「ゲート」を開いてベルファストへと帰るだけだが……。

「ごめん、ちょっとお土産の忘れ物」

 みんなに断りを入れて、街中の人混みに紛れながら、マップアプリを起動して目的の二人を検索する。んーと、こっちの屋根か。「ブースト」で一気に飛び上がり、屋根の上を移動して、二人の前に降り立つ。

「っ!?」
「ふわっ!? ああ、旦那様ですか~。驚かせないでくださいよお~」

 仮面を被った二人、ラピスさんとセシルさんだ。ウチのメイドさんたちではあるが、実質的な雇用主はユミナの父のベルファスト国王陛下である。
 彼女たちの雇用は国王陛下がライムさんに無理矢理頼み込んだらしく、それなら正直、僕が給料を払う必要がないんじゃ無いかとも思ったが、メイドさんとしての仕事はちゃんとこなせるそうなので、そこは目をつぶった。
 まあ、ここ10日分の給料は払うわけにはいきませんが。そちらの料金は王様に請求していただきたい。

「僕らはこれから「ゲート」でベルファストに帰ります。それよりも先に二人を家の方へ送ろうかと思って」

 ずっと監視されてたなら「ゲート」のこともバレてるだろう。僕は二人にそう切り出した。

「ほえ? ベルファストにですか~?」
「確かにこのままだと我々は10日遅れて帰ることになりますね…。さすがに姫様に怪しまれるかもしれません」
「そう思ったからここに来たんですよ」

 苦笑しながら「ゲート」を開く。二人を連れて光の門をくぐると、そこはもうベルファストの屋敷、自宅のリビングだった。

「お帰りなさいませ」

 その場にいたウチの執事のライムさんが、いきなり現れた僕らにちょっと驚いていたが、すぐに冷静さを取り戻し、言葉をかけてきた。

「ただいま、ライムさん」
「ただいまです~」
「すみません、旦那様に知られてしまいました…」
「でしょうな」

 この状況からすれば一目瞭然である事実を述べるラピスさん。それに対してライムさんは苦笑するしかない。
 とりあえず二人にはメイド服に着替えてもらって、ずっとここにいましたよ、ということにしないといけない。二人が着替えに部屋へ向かうと、ライムさんが頭を下げてきた。

「申し訳ございません。あの二人に関しては国王陛下から命じられていたものですから……」
「まあ、娘を心配する気持ちもわかりますし、大した被害はないからいいですよ。ライムさんも断りにくかったでしょうし」

 主人を裏切るとは! などどいうつもりもない。そこまで徹底する気もないし。そりゃ、命にかかわることだったり、大きな損失を被るのなら話は別だが、今回のことはそこまで目くじら立てることじゃないと思う。逆に考えれば警備員が増えたとも取れる。……うん、ちょっと無理があるか。

「まあ、一応ユミナやみんなには内緒にしときますので」

 それから、このあとみんなを連れてもう一回帰ってくるが、初めての帰宅という感じで迎えてくれと頼んでおいた。

「おーそーい。なにしてたのよ」

 「ゲート」を使いさっきの屋根の上に出て、ミスミドにいるみんなの元へ戻るなり、エルゼにむくれながら文句を言われた。適当に言い繕って、みんなで誰もいない裏路地の方へ行き、再び「ゲート」を開く。
 自宅のリビングにぞろぞろと現れたみんなに、待ち構えていたライムさんが頭を下げる。

「お帰りなさいませ」

 ライムさんの二度目の挨拶を僕が聞いていると、リビングのドアが開き、メイド服に身を包んだラピスさんとセシルさんが現れた。

「皆様、お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ~」
「ただいま。ラピスさん、セシルさん」

 しれっと僕らは挨拶を交わす。みんなは自室の方へと戻り、お風呂に入って旅の疲れを癒すらしい。僕もあとで入るとするか。
 その前にみんなにお土産を渡しておこう。
 ライムさんにはネクタイピンとカフスボタン、ラピスさんとセシルさんには色違いのティーカップ。二人は受け取れないと言ったが、彼女たちにだけ渡さないのも変だからと、無理矢理渡した。
 フリオさんとクレアさん夫妻には麦藁帽子とミスミド料理の本。あと、夫婦茶碗。トムとハックの警備員コンビには装飾で飾られたナイフをそれぞれ渡した。スゥのお土産は後日渡す事にしよう。
 自室のベッドに倒れこみ、身体を伸ばす。しかし疲れたなー。肉体的疲労よりも、見知らぬ土地での精神的疲労が意外とこたえる。まあ、それを言ったらこの世界自体が見知らぬ土地なんだけどさ。
 しかし、今回の旅でいろいろ思いついたことがある。例えば「ゲート」を付与した姿見をイーシェンに送って、向こうに行ってみるとか、「プログラム」を施した自動馬車、自動車を作ってみるとか。これはまず自転車から作ってみるかな。目立つし。あとはマップアプリに「プログラム」して自動ターゲット機能を追加したり。いろいろできる幅が増えたように思う。
 あとは自動人形のポーラかなー。僕も似たようなの作ってみるかな。猫とかペンギンのぬいぐるみで……ふあ……。眠くなって…きた……。



 ……あや? いかん。少し眠ってたか。自分で思っているよりも疲れているんだなあ。寝巻きに着替えないまま寝たからか、身体がだるい。一旦、風呂に入ってお湯でほぐすとしよう。
 タンスから着替えの下着とバスタオルを持って一階の浴室へ向かう。
 ウチのお風呂は大人五、六人は入れるほどの湯船がある。ちょっとした大浴場だ。みんなは女の子同士、一緒に入ったりもしてるようだが、僕の場合それを一人で使える。男は僕とライムさんだけなので、必然的にそうなるのだ。ライムさんと一緒に入る気はないしな。

「まあ、贅沢な楽しみのひとつだよねえ」

 上機嫌でお風呂場の手前、脱衣場のドアをガチャッと開ける。

「「「「……え?」」」」
「………………あれ?」

 ……えーっと、目の前にはエルゼ、リンゼ、八重、ユミナがいまして、全員下着姿の状態で。エルゼとリンゼは上下お揃いの、小さなリボンが付いたパステルカラーの色違い。エルゼはピンク、リンゼはブルー。下の方はサイドが紐で結ばれているタイプであります。その隣の八重は、またお決まりのようにサラシにフンドシって。イーシェンではそれが定番なんでしょうか。真っ白な輝きが眩しいです。サラシが緩んでいて初めて判明しましたが、一番大きかったんですね。最後にユミナですが、派手ではないけれど、高そうなフリルとレースが付いた白い下着で、こちらもエルゼたちと同じくサイドを紐で結ぶタイプのやつでした。この世界にはこのタイプが一般的なのかもしれません。………僅かな時間でここまで考えられるとは。「アクセル」を使った覚えは無いんですが。

「「「「っきゃ──────────ッ!!!!?」」」」
「わ─────────ッ!!!?」

 みんなの悲鳴でやっと我に返り、釣られて同じように叫んでしまった。ひょっとしてものすごいガン見してたか!?
 涙目のエルゼの拳が僕に向かって放たれる。あの、エルゼさん、これって「ブースト」かかってませんよね?
 ものすごい衝撃を側頭部に受けて、僕は意識を失った。



「確かに脱衣場に鍵を掛け忘れたのは、私たちが悪かったかもしれないけど!」
「もうちょっと注意して欲しかったでござるよ」

 四人に囲まれ、正座状態の僕。さっきからずーっと説教され続けている。

「てっきり、みんなもうあがったと思ってて……」

 どうやらみんなも自室に辿り着くなり、軽く眠ってしまったらしい。目覚めてから、慌ててお風呂に入ろうとみんなが集まり、脱衣場で服を脱ぎ出したタイミングで僕が入ってしまったと。なんて間の悪い……いや、そうでもなかった、かな……?

「……反省、してます?」
「え? あ、はい!」

 ジト目でリンゼが睨んでくる。普段おとなしいだけに、妙に迫力がある。

「私としては、こういうことはちゃんと手順を踏んでからにして欲しかったですけど……」

 手順ってなんですか、ユミナさん。顔を赤くして余計なことを言わんでください。まあ、注意深く行動していれば、回避できたかもしれないのは事実だし、じっくり見てしまったのも事実だし。言い訳できる立場じゃないけど……。
 それから延々と説教されて、解放されたのは真夜中になってからだった。その夜、まったく寝れなかったのは言うまでもない。目を閉じると浮かんでくるんだもの……。痛かったけど、いい日でした!





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