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第2章 旅の仲間。
#18 お買い物、そして訳あり商品。

 せっかく王都に来たんだから、このまま帰ることはない。お金もかなりあるし、ここはショッピングといきましょう、と決定した。というかされた。女性陣三人に逆らえるわけがないでしょうが。
 馬車を宿屋に一時預けて(泊まらない予定なので預かり賃を取られたが)三時間後にここに集合、ということになった。
 三人は一緒に行動するみたいだが、僕は別行動を取ることにした。荷物持ちは勘弁だ。それに僕も買いたいものがあったし。
 さて、マップで場所を確認…って…広いな…。さすが王都か。検索ってできるのか? 防具…屋…っと…。
 検索すると地図上にいくつかのピンが落ち、防具屋の場所を示した。えーっと一番近いのは……目の前?
 顔を上げると盾の看板を出した防具屋があった。検索する必要なかったじゃんか…。

「いらっしゃいー」

 中へ入ると様々な盾や鎧、籠手に兜などが置いてあった。奥のカウンターには人の良さそうな店主がにこにこと笑っている。

「すいません、ちょっと見せてもらえますか?」
「どうぞどうぞ。手に取ってごらんください」

 店主に断りを入れてからじっくりと鎧を眺める。武器はギルドの初依頼の時に刀を買ったが、防具はなんか後回しにしていた。いい機会だから買ってしまおう。せっかく王都にいるんだから、できればいい物を買いたい。
 しかし、どうするかな…。自分は機動力を重視するので、金属製の鎧は向いてないような気がする。全身鎧なんてかなり動きにくそうだ。
 と、なると革の鎧とかああいう軽装タイプになるが…。

「すいません、ここで一番いい鎧ってどれですか? あ、金属製以外で」
「金属製以外ですか? それならこの斑犀の鎧が一番かと」
「まだらさい?」
「その名の通り斑模様の犀です。その皮から作られたこの鎧は、普通の革の鎧より堅く丈夫ですよ」

 コンコンと叩いてみるが、確かに堅そうだ。

「それでも金属製の鎧よりは下?」
「そりゃあ、まあ…魔力付与の効果でもされてなければ普通、そうなりますよ」

 魔力付与。確か魔法の効果が追加された道具のことだったか。ものすごく数が少なくて、古代遺跡から見つかるものとか、没落貴族が手放した家宝とか。そんなものしか手に入らないとか。

「魔力付与された防具はここにあります?」
「うちじゃあ扱ってませんねえ。あの手の物はかなり高価ですから。東通りの「ベルクト」って防具店なら置いてあると思いますが、あそこは貴族御用達ですからねえ」

 店の主人は困ったような顔で答える。貴族御用達か。ちょっと無理かなあ。待てよ?

「その店ってこれで入れませんかね?」
「なんです、これは…? こ、これって公爵家の!? お客様は公爵家所縁の方で!?」

 僕が公爵家から貰った例のメダルを見せると店主が顔色を変えた。

「そういうことでしたら大丈夫だと思います。公爵家が身分を保証してくださるのなら、なんの問題もないでしょう」

 手間をかけさせた詫びに、銀貨でチップを払って店を出た。そのままマップを見ながら「ベルクト」へ向かう。
 王都を歩いてみてわかったが、人間以外のいろんな人種がいることにあらためて驚く。亜人と呼ばれる彼らは様々な特徴を持った種族がいるが、中でも驚いたのが、獣人の存在だ。
 リフレットではまったく見なかったが、ここではちらほらと獣人が目に付く。獣人と言っても人の身体に動物の頭、といった、いわゆるミノタウロスのようなものではない。
 例えば目の前から歩いてくるあの狐の獣人の女の子。耳と尻尾以外は普通の人間となんら変わらない。長い金髪の頭の上からピョコッと出た同じ色の耳は先端だけ黒く、逆に膨らんだ大きめの尻尾の先端は白かった。
 頭の上にある耳の他に、僕らと同じ位置にも耳があった。メインとサブの使い分けができると確かリンゼが言っていたが、詳しくはわからない。
 おや? なんかあの狐の子、キョロキョロして何かを探しているような……ひょっとして迷子なのか? ものすごい困った顔をしてるけど。にしても誰も助けてやらないのかな。こっちの世界も都会は冷たいのかねえ。
 …よし、声をかけてみよう。

「あの、どうかしましたか?」
「ひゃ、ひゃい! なんでしゅか!?」

 あ、噛んだ。目を見開いてこちらを見てる。落ち着いてください、怪しい者ではありません。……怪しくないよね、たぶん。ここまで怯えられると自信を無くすな。

「いえ、何か困っている様子だったので。どうしたのかな、と」
「あっ、あの、あのわた、私、連れの者とはぐれてしまって……」

 やっぱり迷子か。

「はっ、はぐれたときのために、待ち合わせの場所を決めといたんですけど、その場所がっ、どこかもわからなくて……」

 しゅんとして声が小さくなる狐さん。耳や尻尾も心なしか力なく垂れ下がっているように見える。

「待ち合わせの場所は?」
「えっと…確か「ルカ」って魔法屋です」

 魔法屋「ルカ」ね。スマホを取り出しマップ検索。あったあった。「ベルクト」の途中にある店だな、ちょうどいい。

「その店なら案内しますよ。僕も同じ方向へ行くとこだったので」
「本当ですかっ!? ありがとうございましゅ!」

 あ、また噛んだ。なんか和むなこの子。エルゼたちより年下かな。12、3ってとこかな。
 連れ立ってマップに従い、通りを歩いて行く。彼女の名前はアルマというんだそうだ。

「冬夜さんは観光で王都に?」
「いや、仕事でね。もう終わったけど。アルマは?」
「私もお姉ちゃんの仕事でついて来たんです。王都が見てみたくて」

 にこやかに笑うアルマ。さっきまでの表情が嘘みたいだな。
 たわいない話をしながら、しばらくすると魔法屋が見えてきた。と、その店の前で佇む獣人の女の人が一人。彼女はこちらに気付くと足早に駆けてきた。

「アルマ!」
「あ、お姉ちゃん!」

 たたたっ、とアルマは駆け寄ると姉らしき人の胸に飛び込んだ。女の人もぎゅっと抱きしめる。当たり前だけど、お姉さんも狐の獣人なんだな。アルマより年上で大人っぽいけど。凛とした雰囲気はなんとなく軍人みたいな印象を受ける。

「心配したのよ! 急にはぐれるからっ…!」
「ごめんなさい…。でも冬夜さんがここまで連れてきてくれたから大丈夫だったよ」

 そのときになって初めて僕の存在に気がついた彼女は深々と頭を下げてきた。

「妹がお世話になりました。感謝します」
「いえいえ、会えてよかったです」

 ぜひ礼を、と言われたが、用事があるので、と断った。たかがこれくらい、そこまでされるほどじゃない。挨拶もそこそこに僕はその場を去った。アルマはいつまでも手を振っていた。
 二人と別れ、「ベルクト」に近づくにつれて、だんだんと周りの建物や店が洒落た造りになってきたような気がする。しばらくするとその店が見えてきた。

「うわあ、高そう…」

 格式ありそうな煉瓦造りの店構えに、ちょっと気後れする。いかにもブランド店と言った感じだ。
 やっぱり場違いかなあ。門前払いされたりして。まあ、門番とかはいないけど。仕方ない、いつまでもここにいるわけにはいかないし、とにかく入ってみよう。
 豪奢な造りの扉を開けて中へ入ると、すぐさま若い女性の店員さんが声をかけてきた。

「いらっしゃいませ、ベルクトへようこそ。お客様は当店を初めてご利用でございますか?」
「あ、はい。初めてです」
「それではなにか、お客様のご身分をどなたかが証明する物、もしくはどちらかからの紹介状などをお持ちでしょうか?」

 なるほど、一見さんお断りというわけか。誰かからの紹介がなければいけないってことなのかな。僕は懐から公爵家のメダルを取り出して、それを店員さんに見せる。お姉さんはさっきの防具屋の店主のように動揺することもなく、深々と頭を下げた。

「確認いたしました。ありがとうございます。それで本日はどのようなご用件でしょうか?」
「魔力付与のされた防具を見せて欲しいのですが」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 お姉さんに案内されて、店の奥のコーナーに辿り着くと、そこには煌びやかな輝きを放つ鎧から、一見なんの変哲もない、安そうな革手袋まで様々なものが置いてあった。

「これ全部魔力付与されているんですか?」
「はい。例えばこちらの「銀鏡の盾」は攻撃魔法反射の付与が、そちらの「剛力の籠手」には筋力増加の付与が施されております」

 ……確かになにか魔力を感じるな。はて? いつの間に僕は魔力なんてものを感じられるようになったのか。ま、たぶん神様効果だろう。

「それでお客様のご希望はどのような物を?」
「あ、金属製じゃない…というか、重くなくて、それでいて丈夫な防具が欲しいんですけど」
「そうですね…でしたらこちらの革のジャケットはどうでしょう。耐刃、耐炎、耐雷の魔力付与がされております」

 うーん、悪くはないんだけど…デザインが…。ラメ入りはちょっと派手だと思う。あと背中の竜の刺繍も正直言って恥ずかしい。
 ふと店の隅にかけられていた白いコートに目を留める。襟と袖にファーが付いたロングコートだ。

「これは?」
「こちらには耐刃、耐熱、耐寒、耐撃、加えて非常に高い攻撃魔法に対する耐魔の付与が施されておりますが、少々問題がありまして…」
「問題?」
「耐魔の効果は、装備されたその方の適性しか、発揮しないのでございます。それどころか、逆に持っていない適性のダメージは倍加するといった有様で…」
 …つまり火属性を持った者には、優れた耐炎効果を発揮するが、そいつが風属性の適性を持っていない場合は、耐雷効果が発揮しないばかりか逆に大ダメージをくらう…と、こういうわけか。
 諸刃の剣だなあ。例えば炎の魔物とか一属性の相手と戦うときなんかは有利だろうが、多属性の相手と戦うにはリスクが大きすぎる。
 ま、僕には関係ないけど! 全属性の適性ありますんで。

「試着してみていいですか?」
「どうぞ」

 コートを手に取り、触り心地を確かめながら、とりあえず着てみる。うん、サイズ的には問題ない。軽く動いてみるが、動きが妨害されることもなく、違和感もないな。気に入った。

「これ、いくらですか?」
「こちらは少しお安くなっておりまして、金貨八枚になります」

 だいたい80万円か。安くなってこれか。高いなあー。でも効果を考えたらこの金額でもアリなのかな。金銭感覚がおかしくなってくるな。

「じゃあ、これください。お代はこれで」
「白金貨ですね。少々お待ちください」

 お姉さんがカウンターへ戻り、銀盆の上に二枚の金貨を持ってやってきた。僕はそれを受け取ると自分の財布に入れて、店の出口へ向かう。

「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

 頭を下げるお姉さんに見送られながら「ベルクト」をあとにする。いい防具を入手できた。ちょっと高かったけど…。






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