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戦後68年と近隣外交―内向き思考を抜け出そう

 人気バンド、サザンオールスターズの新曲は「ピースとハイライト」。暑い夏の人々の心をつかんだ歌はこう始まる。

 ――何気(なにげ)なく観(み)たニュースでお隣の人が怒ってた/今までどんなに対話(はな)してもそれぞれの主張は変わらない/教科書は現代史をやる前に時間切れ/そこが一番知りたいのに何でそうなっちゃうの?――

 今の私たちに最も近いはずなのに見えにくい。そんな現代史を考えるために、1945年8月15日の「お隣」で何が起きていたかを振り返ろう。

■無関心の原点

 その日までの日本は、アジアで広大な領域とさまざまな民族を支配する帝国だった。

 掲げた看板は「大東亜共栄圏」。日本が欧米からアジアを解放すると唱え、太平洋戦争を「大東亜戦争」と呼んだ。

 ところが敗戦とともに、日本は、その東亜圏との関係を断ち切ってしまった。

 作家の故・堀田善衛はその日を上海で迎えた。ラジオで聞いた終戦の詔勅に「怒りとも悲しみともなんともつかぬものに身がふるえた」と記している。

 彼の周りには、日本と親しい中国の文化人が多くいた。ところが詔勅は、もっぱら日本本土向けで、アジアに対しては「諸盟邦ニ対シ遺憾ノ意ヲ表セサルヲ得ス」と片づけていた。

 堀田はそんな宣言を「薄情」「エゴイズム」と感じた。(ちくま学芸文庫「上海にて」)

 日本の敗戦の過程に詳しい国文学研究資料館助教の加藤聖文さんは「当時の政府は国体(天皇制)護持という内向きの議論ばかりしていた。詔勅はその素(す)の気持ちが表れた」とみる。

 その結果、当時は日本人だったはずの朝鮮人や台湾人の保護責任もあっさり放棄した。

 アジアを率いる指導者面しておいて突然、知らん顔をする。それが68年前の実相だった。

■国際環境は変わる

 戦前戦中の日本の責任を問う声がアジアから湧き起こるまでには時間がかかった。それは、戦後の秩序の影響が大きい。

 米国とソ連が世界を二分した冷戦の時代。日本と台湾、韓国は米国陣営に組み入れられた。さらに日本は高度成長にも入った。資金と技術で隣国を助ける優位を保つことができた。

 70年代までに終えた近隣との国交正常化は、冷戦構造の産物でもある。日本への賠償請求権は消えたとされたが、当時の近隣諸国では外交に民意が反映される状況ではなかった。

 やがて冷戦は終わる。グローバル経済の時代、韓国は先進国へ、中国は大国へと成長した。日本と国力の差がなくなるにつれ、歴史問題に由来する大衆感情が噴き出している。

 日本はもはや軍国主義は遠い遺物と思っても、隣の民衆にとっては戦争を問う時が今やってきた。そこには歴史観の時差ともいえる認識のズレがある。

 日本の政権も無策だったわけではない。93年に宮沢喜一政権は従軍慰安婦をめぐる「河野談話」を出し、95年に村山富市首相は「植民地支配と侵略」の談話でアジアに謝罪した。それを歴代内閣は引き継いできた。

 しかし安倍首相は当初、継承を明言しなかった。加えて「侵略の定義は定まっていない」とも発言し、波紋を呼んだ。

 中韓首脳にとって、歴史は、貧富の格差など国内問題から国民の目をそらす手段にもなる。だとしても、そんな思惑に対抗するかのように日本もナショナリズムの大衆迎合に走ってしまえば悪循環は止まらない。

 安倍政権の歴史認識については、同盟相手の米政府も懸念している。侵略の史実を否定すれば、日本の歴史認識に対する国際世論の風当たりは強まる。

■他者を知ることから

 他の国々との関係を忘れた内向きな思考に拘泥していると、外交の幅を狭め、自縄自縛の隘路(あいろ)に迷い込む。それは、戦争の失敗から日本が学んだはずの教訓だったが、今もその思考の癖から抜け出せていないのではないだろうか。

 多くの日本人にとって、戦争の光景とは、日本各地の惨状だろう。この夏に公開されている映画も、日本を舞台にした「風立ちぬ」「終戦のエンペラー」「少年H」。どれも平和の尊さを人間味豊かに描いている。

 私たち国民が実体験した戦争を語り継ぐのは、当然の責務である。ただ、そこで立ち止まらず、想像をアジア、世界へと広げたい。あの戦争の被害に国境はなかったのだから。

 昨年夏の朝日新聞の世論調査によると、「日中戦争は日本による侵略戦争だったと思いますか」との問いに日本では「そう思う」との答えが52%、「そう思わない」が31%。中国では99%が「そう思う」と答えた。

 この認識の溝は、あまりに深い。だが、そこが出発点だ。アジア抜きに日本の未来は語れない今の時代こそ、じっくり考えよう。「お隣」は今なおなぜ、怒り続けているのか、と。

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