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雑誌『医薬経済』
  • 2013年
    08月15日号
  • ■ディオバンで見えた「構造問題」
  • ■「後発品」に翻弄される医薬品卸
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医薬経済2013年08月15日号
ディオバンで見えた「構造問題」 (2/3)これは特定企業の特殊な出来事ではない
(株)薬新 井高恭彦

 府立医大は7月11日、慈恵医大は7月30日にそれぞれ会見を開き、ともに統計解析の担当者がノバルティスの元社員だと強調したが、元社員は慈恵医大の調査に「自分が責任ある立場で本件論文の解析を行ったことはない」と反論。解析は「お手伝い」の域を出なかったと主張している。慈恵医大は調査委員会の外部委員に元検事総長を招いて調査報告を作成、元社員の発言は「全体的に信用できない」と、データ操作の行為者が、あたかも元社員であるかのような踏み込んだ表現を使った。

 ここは水掛け論で、大学と元社員の主張は並行線を辿ったままである。ヒートアップするメディア報道の煽りを受けて、「泥仕合」になっている。ただ、府立医大、慈恵医大の会見で、少なくとも大学が統計解析で元社員に頼り切り、「丸投げ」に近い状態で研究を進めていた事実は明らかになった。

ズブズブの医師主導試験

 そもそも医師主導試験は、本来、医師が常日頃抱いているクリニカルクエスチョン(臨床上の疑問、臨床上解決が必要な問題)を解くために、製薬企業から独立して医師が自由に実施すべき試験だ。今回問題になっている一連の試験は、ディオバンに「降圧を超えた脳心血管イベントの抑制効果があるかどうか」を確かめることが狙いだが、果たして、それが本当に医師のクリニカルクエスチョンだったのか。根本的な疑問を禁じ得ない。しかも、よりによってディオバンの製造販売元であるノバルティスの社員に、統計解析を「丸投げ」していたのである。さらに府立医大、慈恵医大ともノバルティスから奨学寄附金という形で、それぞれ多額の研究支援金を受け取っていた。

 企業は、大学に奨学寄附金を納めて医師主導試験という名目で、自らが望む試験を実施してもらう。大学は奨学寄附金をもらった手前、スポンサー企業の製品に有利な結果を出したいというバイアスを抱えて試験を進める。「それでは結果が歪んでしまうのではないか」と指摘されても仕方がない。ズブズブの関係が、いつの間にかできあがっていた。

 医師主導試験で、企業にとって都合のいい結果が出れば、今度は専門誌ビジネスの登場である。製薬企業から多額の記事掲載費を受け取って対象製品を褒めちぎる特集号を組む。購読料頼みの弱小メディアと比べると、企業とのタイアップ記事を掲載するメディアの収益は桁が違う。お金をもらって無批判に製品を讃える記事を紙面に載せるのだから、もはやジャーナリズムの仮面を被った広告代理店である。今回、不正が見つかったディオバンの試験でも、日本高血圧学会の幹部を集めて何度も座談会を組み、莫大な収益を得たメディアがあった。試験結果をプロモーションに使ったノバルティスを批判する声があるが、タイアップ記事を何度も載せたメディアもノバルティスのプロモーションを支援した「当事者」であることを、しっかり自覚すべきだ。

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