日本と近隣国の関係にいつまでも刺となっている靖国神社をめぐる問題が、再び人々の注目を集めようとしている。
中国と韓国は以前から、日本の指導者による靖国神社参拝について、日本が戦時中の行為を十分に反省していない証しだと批判してきた。安倍政権がタカ派的なスタンスを示し、日本と近隣諸国との緊張が高まる中、今年は特に8月15日の終戦記念日を控えて靖国神社への関心が高まっている。
靖国神社をめぐる論争は比較的新しい問題で、1978年に14人の「A級戦犯」を密かに合祀したことから始まった。政府の同意なしに行われ、その後わずか1年後には明らかになった宮司によるこの宗教儀式により、靖国神社は第2次大戦時に日本軍が行った残虐行為に関する反感をいつまでも思い起こさせる存在となっている。
東京の中心部に10万平方メートル近い緑地を持つ靖国神社には、約250万人に上る戦没者の霊が祀られている。靖国神社が問題視されているのは、処刑された、あるいは獄死した戦犯が後になって合祀されたためだ。その中には、戦時中日本を率いた東条英機元首相も含まれている。
靖国神社を批判する人々は、付属施設の博物館である「遊就館」にも眉をひそめている。遊就館には、戦死した兵士の遺品(独身のまま戦死した兵士のために母親が購入した花嫁人形なども)が展示されているほか、日本の戦史に関する修正主義者の見解を示したパネルが展示され、海軍による自爆攻撃に用いられた人間機雷も復元されている。
靖国神社の関係者によると、毎年約500万人が神社を訪れ、昨年は8月15日に16万1000人が参拝した。
ナショナリストと言われる安倍晋三首相は、靖国神社に対する強い思い入れを示すとともに、閣僚による参拝を容認し、靖国神社をめぐる論争に再び火をつけた。
安倍首相は4月に国会で「国のために尊い命を落とした英霊に尊崇の念を表するのは当たり前」と述べた。首相の祖父である岸信介元首相は戦犯容疑者として3年間投獄されたが、不起訴となり、後に首相に就任した。
米国の当局者は、靖国神社に執着を示す安倍首相の姿勢が、すでに領土紛争や慰安婦問題などをめぐって緊張が高まっている日本と近隣国の関係をさらに悪化させかねないと懸念している。
安倍首相は8月15日に靖国神社を参拝するかどうか言及を避けているが、日本政府当局者は、首相や主要閣僚は近隣国との関係をさらに悪化させるのを避けるため、参拝は見送る見通しだと明らかにしている。安倍首相が先に靖国神社を参拝したのは自民党総裁に就任した後の2012年10月で、いずれ首相として参拝したいとの考えをほのめかしていた。政権奪取を目指して戦った12年12月の総選挙期間には、「前回の任期中に参拝できなかったことは痛恨の極みだ」と述べていた。
日本の軍事力増強や憲法改正を目指す安倍首相は、半年に1度の例大祭が行われる10月か来年4月に参拝する可能性があると一部の関係者はみている。
安倍首相が在任中に靖国神社を参拝すれば、首相として参拝するのは小泉純一郎氏以来となる。小泉元首相は01年から5年間の在任中に繰り返し靖国神社を参拝し、日中関係の冷却化を招いた。政府当局者や政治関係者によると、8月15日には若干の閣僚らが靖国神社を参拝する見込み。それは韓国や中国の反発を招く可能性があるが、安倍首相の最近の外交努力を損なうほど大きな影響はないとみられている。
4月には、麻生太郎副総理を含む4人の閣僚と、過去最高の168人の国会議員が靖国神社を参拝し、中国と韓国による強い反発を招いた。
中国外務省の洪磊報道官は、今月初めに記者団に対し「靖国神社の問題は、日本が侵略の歴史に向き合い、犠牲となったアジア諸国の人々の感情を尊重できるかどうかということだ」と語った。
韓国のシンクタンク、Asan Institute外交政策センターのディレクター、Bong Youngshik氏は「靖国神社は、日本が過去の償いを拒否していることのシンボルとなっている」とした上で、「日韓関係はおそらく長年の間で最低に落ち込んでいる。麻生副総理や安倍首相自身が参拝すれば、事態はますます悪化するだろう」と述べている。
多くの日本人は、近隣国の反応について、祖先を敬うという神聖な行為に対する介入だと反発している。安倍首相は4月、中国や韓国の抗議行動に対し「我が閣僚はどんな脅かしにも屈しない。その自由は確保している」と述べた。
一部の議員や歴史学者はこれまで、14人の戦犯について靖国神社から切り離し、別の場所に分祀する方法などを通じ、問題を解決しようとしてきた。しかし、元軍人団体や愛国者グループなどの反対が強い上、一度まとめられた霊を分割することを禁じる複雑な神道の規則によって、その手法に対する支持は広がっていない。
京都産業大学の東郷和彦教授は「日本人自身が国民的な話し合いをして、結論を出さなくてはいけない」としている。また、日本人が戦争といかに向き合っていくかは中国との関係に左右されるべきではないとの考えを示しながらも、「これは理論的には可能だが、政治的には難しい」と述べた。東郷教授の祖父は戦時中に外相を務めた東郷茂徳で、14人の戦犯の1人。教授は、問題が解決されるまで政府当局者による靖国神社参拝の「モラトリアム」を求めている。
東郷教授は欧州を中心に外交官として34年間勤務した後、自身が外交官として対処できなかった祖父の過去に関する「心の空白」を埋めるため、6年に渡りアジアの戦史について研究した。
靖国は「国土を平和に統治する」という意味で、戦死したすべての日本人を奉る場として1869年に明治天皇によって設立された。1978年に当時の宮司で元海軍の軍人、松平永芳氏によって14人の戦犯が密かに合祀された。松平氏は何年か後、雑誌のエッセーに、私はいつも、「すべて日本が悪いという東京裁判史観を否定しないかぎり、日本の精神復興はできないと考えていた」と記している。
日本の天皇はそれ以来1度も靖国神社を訪問していない。日本の学者やジャーナリストは、それは戦犯を合祀したことに対する暗黙の抗議だとみている。日本軍の兵士は昭和天皇の名の下で第2次大戦を戦った。昭和天皇は1989年に逝去している。
靖国神社の歴史
1869: 戦死者を奉るため、東京の中心部に東京招魂社と呼ばれる神社が設立され、1987年に靖国神社と改名された。
1945: 第2次世界大戦で日本が降伏。米国主導の連合国軍が靖国神社を個人的な祈りの場にすると宣言。
1975: 三木武雄首相が終戦記念日の8月15日に靖国神社に参拝。「民間人」として参拝したが、現職の首相が参拝したのは初めて。
1978: 250万人の戦死者に加え、14人の「A級戦犯」が密かに合祀される。
1985: 中国が中曽根康弘首相による靖国神社「公式」訪問に抗議。
2001: 小泉純一郎首相が年に1度の靖国神社参拝を開始。
2010: 民主党政権下で閣僚は靖国神社参拝を自粛。
2012: 安倍晋三氏が自民党総裁として靖国神社に参拝。その2カ月後、首相に就任。
2013: 安倍政権の閣僚4人と168人の国会議員が4月の春季例大祭の機関に参拝。中国と韓国が抗議。
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