甲風園の通りに面したビルの1階にある小さな靴屋さん。主人の菅基司さんが、5年間のヨーロッパ修行から帰国した2010年に店舗兼工房を構えました。間口一間ほどの小さな店には、ファッショナブルな靴のサンプルとたくさんの工具が並んでいます。

 靴作りは、採寸に始まり、木型作り、型紙作り、仮縫い、本縫いと、いくつもの工程が必要です。一人のお客様とのやりとりは4~6ヵ月かかり、幾度か店に足を運んでもらうことになります。「お客様の普段の服装やライフスタイル、好みなどを聞いて、デザインも履き心地もぴったり合う靴を作ります。難しいのは木型作りと型紙作りです。採寸した数字では問題がなくても、フィッティング感はお客様の好みに左右されますので」と菅さん。 ヨーロッパの最高の革を使ったオーダーメイドの靴は、1足16万8千円から。お客様の年代は幅広く、ほとんどの人がリピーターになるそうです。お客様は「次はどんな靴にしようか」とオーダーを楽しみ、菅さんは「木型を育てていくことを楽しむ」のだそう。粋なお客様と職人の心意気を感じます。

 西宮育ちの菅さんは、靴作りへの夢をこの街であたためました。イタリア・フィレンツェに行く前から、いつかこの街に店を出すことを思い描き、帰国してすぐに場所を探したそうです。土地勘があったということもありますが、直観的に選んだ店でした。来るお客様も同じように直感的に何かを感じてドアを開けられるようです。缶コーヒーを差し入れてくれる近所の店主、店の前を通りすぎて引き返して入って来る人、「昼間、店の前を通った奥さんが、休日にご主人を連れてきて、オーダーをプレゼントされるということもありました」。上質な革の香りに包まれる靴屋さんには、素敵な大人が集まってくるようです。

 「おしゃれに興味を持ち続ける男性は、素敵に年を重ねていかれます」。 流行を追うより、丁寧に作られたもの、お気に入りのものを大切に身に付けるヨーロッパの紳士のように、かっこいい男性が闊歩する街、お店から出てくるダンディ―な男性の姿が目に浮かぶようです。