さあこれからだ:/61 子ども・被災者生活支援法に魂を=鎌田實
毎日新聞 2013年08月13日 東京朝刊
東京電力福島第1原発事故の被災者の生活や健康を守る「原発事故子ども・被災者生活支援法」の成立から1年がたつ。だが、子どもを守るための具体的な基本方針は決まっておらず、法律は絵に描いた餅になっている。
福島から小さな子を連れて山形に自主避難しているお母さんたちに、ボランティアで2度ほど話をしに行った。ピーク時には1万4000人が避難していたが、ぼくが行った5月には約8900人になっていた。
困っていることや不安を聞いた。第1位は「生活資金」だった。二重生活のため、生活費が余計にかかっている。若いお母さんが多く、のしかかる負担も重い。
支援法では、避難指示区域ではない市町村から自主避難した人も含め、被災者をもれなく支援することになっている。しかし、支援の程度がわからないため、避難してきた人の不安は大きい。県内外の被災者に、生活の安心を早く与えてあげてほしい。
今年の夏も、長野県の各地で、福島の子どもたちの保養を受け入れている。ぼくが代表を務めている日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)でも、8月下旬に福島の母子約30人を信州に招く。
福島では、除染後も放射線量が毎時0・23マイクロシーベルトを超える地域が多い。つまり、年間の外部被ばく線量の限度である1ミリシーベルトを超える環境で生活している子どもたちがいるということだ。
支援法は、福島に残る子どもが屋外で運動できる機会や、自然との触れ合いを通じた健康の保持などをうたっている。しかし、福島県で行っている「移動教室」の補助は1回だけで、補助も一部にとどまり、2回目以降は保護者の負担になってしまう。
チェルノブイリ原発事故のあったベラルーシでは、同じような支援法で子どもたちに23日間の保養を認めているのに比べ、何とも頼りない。「保養」の充実を支援法に盛り込んでほしい。
放射能の「見える化」が徹底されていないことも、お母さんが子どもを連れて福島に帰りにくい理由の一つだ。市場に出ている野菜は基準値の100ベクレル以下であるということは、ほぼ信用している。でも、小さな子に食べさせるには、具体的に何ベクレルか知りたい。検出限界値以下(ND)といっても、測定機器の精度によっては25ベクレルでもNDになってしまうところがある。「これでは安心できない」と、何人かのお母さんが言っていた。
JCFの測定所では10ベクレルまで測定可能だ。ぼくが関係している福島県のひらた中央病院の測定所では、ゲルマニウム半導体測定器を使い、1ベクレルまで測定できる。子どもの命を守るために、支援法の中に放射能の徹底した「見える化」を書き込んだ方がいい。