A級戦犯の寄せ書き発見 東条元首相ら20人超 看守の日系米兵に贈る 米加州で娘所有
新たに見つかったA級戦犯の寄せ書き。中央は東条英機元首相の書き込み(鍋島明子氏撮影・共同) |
戦犯の名前のほか、好きだったとみられる漢詩の一節などが記されている。A級戦犯の寄せ書きはこれまでにも確認されているが、昭和史に詳しい作家の 半藤一利 氏は「これだけの人数が書き込んだものは多くない」と話している。
新たに見つかった寄せ書きは、終戦直後に巣鴨プリズンに勤務した日系2世の米兵看守で、76年に60歳で亡くなったトミー・イシバシさんの長女ジェーンさん(64)が、カリフォルニア州オークランドの自宅に所有していた。
縦約18センチ、横約4メートルの細長い紙に毛筆で書かれ、冒頭に「昭和 丙戌 (ひのえいぬ) (21年)秋」「石橋正雄(トミー・イシバシさんの日本名)君」と記されている。
東条元首相は名前に加え「古人今人若流水」と記入した。「昔の人も今を生きるわれわれも、流れる水のようなもの」という意味で、中国の詩人、李白の詩から取ったとみられる。
広田弘毅元首相は「万邦協和」。年号の「昭和」の由来で、中国の古典の歴史書にある言葉とみられる。
白鳥敏夫 元駐イタリア大使は、英国の文豪シェークスピアの作品の一節らしい英文とともに、アルファベットで署名した。 このほか 平沼騏一郎元首相や 重光葵元外相の名前もある。 花押だけ記した人もいる。寄せ書きを納める木箱も戦犯の誰かが作り、イシバシさんに贈った。
イシバシさんはカリフォルニア州で生まれたが、日本で学んだこともあり、日本語ができた。ジェーンさんは「日本語を話せる米兵は少なかったので、戦犯たちと仲良くなり、寄せ書きなどを贈られたらしい」と話している。
◎看守だったから頼めた
作家の 半藤一利さんの話 筆跡や花押からみて本物だろう。A級戦犯たちは巣鴨プリズンで、面会者や米軍関係者の個人的な求めに応じ多くの署名を残している。詩などを記した寄せ書きもいくつかあるが、これだけの人数が書き込んだものは多くない。公式文書のようにアルファベット順に並んでいないのは、書いてもらった人が、不規則にプリズン内の各戦犯の収容先を訪ねて回り、記入を依頼したからかもしれない。看守だったから、それができたのではないか。(ロサンゼルス共同)
A級戦犯 第2次大戦の終戦翌年の1946年4月、連合国側は「平和に対する罪」や「人道に対する罪」で、 東条英機元首相や 広田弘毅元首相ら28人をA級戦犯として起訴。日本の指導者の戦争責任を裁くために設置された極東国際軍事裁判(東京裁判)の判決は48年11月にあり、両元首相ら7人は絞首刑を言い渡され、巣鴨プリズンで処刑された。 白鳥敏夫元駐イタリア大使は終身禁錮刑となった後、服役中に病死した。(ロサンゼルス共同)
(共同通信)