サラリーマンを辞めて書家になったのも、思い切った物件を選んだのも、「行き当たりバッチリ」だったように思います。
書の道に進んだきっかけは、中小企業診断士の資格をとって独立する先輩に「名刺のデザインをしてくれ」と頼まれたことでした。それで、僕が字を書いて名刺を作ってあげたら、「すげえ、カッコいい!」と、ものすごく感動してくれたんです。
それ以来、自分でサイトを開いて、フォトショップを使った名刺作りのサービスを始めたんですが、やっているうちに楽しくなってきて、毎日まともに寝られない日々が続きました。そして、「もう仕事との両立は無理だ」と思って、会社に辞表を出したのです。
ただ、ちょうどその頃は営業成績も良かったので、辞表を出しても10回くらい却下されてしまいました。しまいには本社の人事部長にまで説教されたり……。でも、僕の中では、自分の好きな書の道に進んだら、どんどんアイデアがわいて夢が広がっていく気がして、そこに「宝の山」があるように思えたんですね。だから、どうしても書の道に行きたくて仕方がなかった。
時間はかかりましたが、最終的には「どうしても辞めたい」と押し切って退社しました。母親は、「NTTを辞めるなんてもったいない」と会社の寮まで止めに来ましたが、その時の僕はすごくキラキラしていたようで、結局何も言わずに東京観光を楽しんで帰っていきました(笑)。書道家である母親はこの道の苦労を知っているだけに、複雑な心境だったようです。
そして、書道教室を開くために、神奈川県の辻堂に築100年位の家を借りて新しい生活をスタートさせました。家賃がNTTの給料よりも高くて……。周囲からは無謀だと言われたけど、この家に一目惚れ。迷いはまったくなかったですね。