余録:「暑い事 釣瓶(つるべ)ひとつに人だかり」…
毎日新聞 2013年08月13日 00時12分
「暑い事 釣瓶(つるべ)ひとつに人だかり」。酷暑の夏に冷たい井戸水を求め、町の人々が群がっているとの江戸川柳である。「暑い事」は昔の川柳の決まり文句のようで、「暑い事 枕ひとつを持ち歩き」「暑い事 重ねだんすで蝉(せみ)が鳴き」もある▲それを下の句にすえた「暑い事」づくしもあって、「風鈴(ふうりん)の短冊(たんざく)読める 暑い事」「真っ直(す)ぐな柳見ている 暑い事」……暑気がそよとも動かぬ耐えがたさを示す風鈴の短冊や柳の枝である。当然ながら夜も「寝ざあなるまいと苦にする 暑い事」という次第である▲だがもう上も下もない、「暑い事 ああ暑い事 暑い事」と叫びたくなる週末からの酷暑だ。きのうはついに高知県四万十(しまんと)市で41度という国内観測史上最高気温を記録した。猛暑だった2007年に埼玉県熊谷(くまがや)市と岐阜県多治見(たじみ)市で記録した40.9度を上回ったのだ▲ちなみに四万十市の江川崎(えかわさき)の観測点では10日に40.7度、11日に40.4度を観測、同じ地点で3日連続40度を超えたのも初という。これが局地現象でないのは読者の多くが身をもって体験されている通りで、週末来、全国何十もの観測点で史上最高気温が更新された▲見逃せないのは東京都心で最低気温が初めて30度を超えたという記録である。このため11日は夜も朝も丸1日30度を下回らなかったわけで、枕を手に涼しい寝場所を探した江戸のご先祖もびっくりだろう。この超熱帯夜、大都会のヒートアイランド現象の影響らしい▲局地的豪雨に伴い最近よく聞かれる「今までに経験したことのない」が気象のキーワードになったような今夏である。史上初どこまで続く 暑い事。