<2013年5月=東スポ携帯サイトより>
ウクレレ漫談家の牧伸二さんが4月29日、丸子橋から多摩川への投身という衝撃的な死を遂げた。享年78。
私は高校生の頃からか牧さんが出演する演芸番組を小まめにチェックし、それを録画したビデオから漫談部分のみをカセットテープへと録音し、《牧伸二全集》なんてカセットを勝手に製作していたほど、あのウクレレ漫談が好きだった。それを繰り返し聞いていたから暗記しているネタも数多い(牧さんのウクレレ漫談は序盤がボヤき、季節&時事トーク→ウクレレを弾き始め時事ネタ漫談→中盤からはいくつかの定番ネタの組み合わせというパターンが多かった
)
そんなワケで、今も世間を騒がすニュースがあると「牧伸二だったら、こんな感じで漫談にしちゃうんだろうな」なんて考える癖がある。
なんでウクレレ漫談が好きなんだろうか? と考えてみるとやっぱり、今はヒカリエとなった渋谷・東急文化会館の地下にあった「東急レックス」(後に渋谷東急3)で収録されていた日曜昼の「大正テレビ寄席」(NET系)の影響もあるだろうし、あと東京12チャンネルの再放送で繰り返し見た米国産アニメ「幽霊城のドボチョン一家」(本放送は昭和45年、NET系で放送)の影響も大きいような気もする。要は牧さんのあの独特な声質が好きなようだ。
ドボチョン一家はフィルメーション制作によるギャグアニメ。幽霊城を舞台に、おどろおどろしい絵ながらもギャグが満載。ストーリーなどはあってないようなモノで、ショートギャグの連発から、後半は歌のコーナーになってしまうという不思議なアニメだった。
ほぼ主人公であるドラキュラの吹き替えは、関東人にはヒヤリングさえ困難な超早口の名古屋弁でまくし立てる南利明。幽霊城の中を小型スポーツカーで走り回る迷惑な人喰いライオン(どう見ても狼男)の吹き替えは由利徹。ゆえに時に民謡を唸ったり、何かあると「ドボチョ~ン、チッチ」と叫ぶのが特徴だ。
そして牧さんが吹き替えていたのが、どこからどう見てもフランケンシュタインなのだが、劇中では「怪物」と呼ばれる大男。「♪ドボチョンドロドロ ドボチョンドロドロ出てこいよ~」の主題歌の後、コウモリに変身したドラキュラが幽霊城に激突し、ドボチョ~ンと落下するおなじみのオープニングで流れる「幽霊城のドボチョン一家、ドヒャドヒャバッキ~ン」のナレーションも、おそらく牧さんの声だろう。
この米国産アニメは、南利明の名古屋弁、由利徹の東北弁、そして東京生まれの牧伸二がギャグや歌声までグチャグチャに織り交ぜつつ、かなりテキトーにユルくセッションしているという、演芸場でもなかなか見られない実に豪華かつ奇跡の作品だったのだ。
関東圏での再放送は昭和57~58年あたりにテレビ東京の朝の時間帯でされたのが最後。かれこれ30年以上も再放送されていないのだから、知らない人が多いのも当然だ。この時にカセットテープに録音した音源(まだ我が家にビデオデッキはなかった)は今聞き直しても何だか楽しい。
そんな楽しく特徴のある「いい声」の持ち主・牧さんに恐怖したことが1度だけ…。それは昭和59年に土曜ワイド劇場枠(テレビ朝日系)で放送された、牧さんの弟子でもある泉ピン子主演の「森村誠一の侵略夫人〝醤油貸して、金貸して!〟隣の団地妻を覗いたら…」なるドラマだ。
このドラマで牧さんは何とセールスマンとして団地を訪れ、セールスついでに人妻たちを強引に犯していくレイプ魔を演じていた。お笑い系の人が犯罪者を演じると、普段との落差で怖いというのは定番だが、あれは「顔は笑っているが、目は笑っていない」牧さんならではの狂気を感じられる演技だった。合掌。