<2013年5月=東スポ携帯サイトより>
最近流行している、往年の名作アニメをギャグ路線で復活させるというアレ。もちろん、そういうのもアリだし、個人的にも大好きなのだが、ちょいとした逆転現象が見られることがある。
例えば「おはよう忍者隊ガッチャマン」(日本テレビ系=最近終了)を先に見た子供たちが、何かの機会で後からオリジナルの「科学忍者隊ガッチャマン」(昭和47年)を見たりすると「古いのは真面目で全然笑えん…」となる。そりゃそうだ。元祖版はギャグではなく純然たる正統派ヒーロー物なのだから。同じ現象は他の作品にも見られる。
刷り込みとは大きいモノで、誰しも最初に見たモノこそが「正統」と思いがち。私の年代でも、随分と時間が過ぎてから長年本流だと信じ込んでいたモノが、実はかなりの変化球作品だったと思い知ったモノがある。それはアダム・ウエスト主演のTV版「バットマン」(日本放送は昭和41年からフジテレビ)だ。
ジョーカーにペンギン、ミス・キャットにナゾラー、本虫etc。登場する敵役も憎むべき犯罪者と言うよりはある種の愉快犯…と言うか狂人…。ついでにバットマンとロビンもどうかしている。カラー放送黎明期の作品とはいえ、画面全体を彩る、目にドギつくキッチュにしてチープ、そしてサイケな色彩感覚。そして軽妙かつ、どこか突き放した感じのロイ・ジェームスのべらんめえ風ナレーション。バットマンことブルース・ウエインの吹き替えを務めた広川太一郎が、極めて真面目に演じているのもおかしい。
幼少時、このTV版バットマンが大好きだったのだが、かなり大人になってからティム・バートン監督の「バットマン」(1989年公開)から始まる映画シリーズを見て、「こんなシリアスで暗い映画はバットマンじゃない!」「ゴッサムシティじゃなく、ゴッタムシティだろ?」「ナゾラーをリドラーなどと呼ぶな!」なんて大いに憤慨したものだ。
だが、どちらのバットマンが、より原作コミックのムードに近いか?と言えば、圧倒的にシリアスな映画版だ。TVシリーズ版のバットマンが放送された当時、本国アメリカの〝バットマニア〟たちは「ふざけ過ぎ」「軽すぎ」と大いに憤慨していたそうな。
多くの日本人が「バットマン」を知った、あのTVシリーズこそが実は邪道だったというワケ。ヒーローと怪人が妙な世界観でバトルを繰り広げるあの雰囲気が、日本産のどんなヒーローに近いかと言えば、やっぱり「タケちゃんマン」か…。
映画版第6作「ダークナイト」(2008年公開)でジョーカーを演じたヒース・レジャーが、公開前にわずか28歳で急性薬物中毒で死去。その死因をめぐり「ジョーカーの狂気の役作りに没頭するあまり精神に変調をきたし~」なんて報道には驚かされたモノ。
このニュースも、シリアスな映画版が公開される以前の日本であれば「明石家さんまがブラックデビルやパーデンネンの役作りに没頭するあまり精神に変調をきたし…」なんて面白ニュアンスにすら聞こえたかも…。それほどTV版と映画版のバットマンには大きな違いがある。
TV版バットマンは人気も知名度も高いのだが、なぜかBSやCSでも再放送がなく、ソフト化もされていない。これには色々と複雑な権利関係(TV版は20世紀FOXの作品で、映画版を含む現在のバットマンの権利はワーナーブラザーズの管轄)が背景にあるそうだが、昨年末に両社による話し合いが行われ、商品化に向け前向きな結論が出たそう。順調に行けば近々、あのコミカルなTV版もソフト化されそうな気配だ。
今やシリアスな映画版バットマンしか知らない世代も多い。ガッチャマンやマジンガーZと同様に「今度はバットマンまで、ギャグ化されちゃったよ」なんて言われる再逆転現象が起きるかも?!