アトピー性皮膚炎 −脱ステロイド・脱ステの危険・依存という嘘−

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ステロイド外用剤は皮膚バリア機能を障害する、は本当?嘘?



よく脱ステロイドのブログで、『ステロイド外用剤は皮膚バリア機能を障害する』ので、ステロイド外用剤を使うべきではない、という主張を見かける。
だが、直接的な証拠となる研究を見たことがなかった。


今日紹介するのは、アトピー性皮膚炎の患者さんにステロイド外用剤であるベタメタゾン(日本の処方薬アンテベートと同じ)と、免疫抑制剤のピメクロリムス(プロトピック軟膏と同系統の薬)を1日2回、3週間外用して、皮膚バリア機能などの観察を行った論文である。
結論から書くが、この論文では『ステロイド外用剤が皮膚バリア機能を改善させた』ことが証明されている。
脱ステロイドのブログに書いてあることとはだ。

それでは、皮膚バリア機能に関連する結果を引用する。
TEWLの測定と、Dye penetrationという実験法の2種類の方法で、皮膚バリア機能をみている。

Different effects of pimecrolimus and betamethasone on the skin barrier in patients with atopic dermatitis
J Allergy Clin Immunol 123: 1124, 2009

TEWL and dye penetration
TEWL is a marker of the inside-outside barrier. Increased TEWL values are reported in the nonlesional and lesional skin of patients with AD. In patients with lesional AD, TEWL was reduced after 1 week of treatment in both the betamethasone (P=.002) and pimecrolimus (P=.01) groups. In the pimecrolimus group no further reduction was seen after 2 and 3 weeks of treatment. In the betamethasone group TEWL values continued to decrease.
Dye penetration is a marker of the outside-inside barrier. A significantly lower value in Chroma Meter reading was measured in patients with untreated AD after 10 hours compared with that seen at time point zero, indicating a significant dye penetration caused by a disrupted outside-inside barrier. Dye penetration was significantly reduced by betamethasone and even more so by pimecrolimus treatment compared with that seen in untreated control skin. There was no significant difference between the pimecrolimus and betamethasone groups. In healthy skin no dye penetration occurred.


経表皮水分蒸散量 (TEWL:transepidermal water loss)とは、皮膚の角層を通じて揮散する水分量のことだ。
TEWLは、皮膚のバリア機能を反映する指標として用いられる。
揮散する水分量が増加(TEWLが増加)するほど、皮膚バリア障害が生じていることになる。
この研究結果では、1〜3週間の観察期間中、ベタメタゾンとピメクロリムスを使用した病変部位でTEWLの低下がみられている。
図から読みとくと、TEWLが約半分にまで値が下がっている。
つまり、ベタメタゾン軟膏(ステロイド)とピメクロリムス軟膏ともに、皮膚バリア障害を改善したことを示唆している。

もう一つのDye penetrationだが、これは色素を測定部に滴下して、どの程度の色素が浸透するかをみている。
色素が浸透しやすいほど、皮膚バリア障害が生じていることになる。
未治療部では著名に色素が浸透しているが、ベタメタゾンとピメクロリムスを使用した病変部では、色素の浸透が軽減して、わずかしか浸透していない。
つまり、こちらの方法でも、ベタメタゾン軟膏とピメクロリムス軟膏ともに、皮膚バリア障害を改善したことを示している。

(この論文では、TEWLとDye penetration以外にも、電子顕微鏡や免疫学的染色を用いて、他の要因も検討されているが、ここでは述べない。知りたい人は直接、論文を読んでほしい)




多くの脱ステロイドのブログでは、何の疑いもなく『ステロイド外用剤は皮膚バリア機能を障害する』とされている。
だが、この研究の条件では、逆に『ステロイド外用剤は皮膚バリア機能を改善した』のだ。まったく正反対の結果だ。
この研究の良い所は、実際のアトピー性皮膚炎の患者さんの病変部で、その事実を確認しているところにある。in vitroやマウスの実験などとは違って、非常に直接的なin vivoの結果だ。


この研究結果から、『ステロイド外用剤は皮膚バリア機能を障害するのでステロイド外用剤を使うべきではない』という主張が、まだまだ議論の足りない考えであるかがわかる。





以前、皮膚バリア機能についてコメントをいただいたことがあるが、一部の人は、湿疹自体が著明に皮膚バリア機能を障害しているという事実を理解していないようだ。
多くの脱ステロイドのブログのいうように、「ステロイド外用剤が皮膚バリアを障害する」のが問題だとするなら、脱ステロイドで湿疹を放置することは、湿疹による皮膚バリア障害を放置していることになり、それこそ問題ではなかろうか?
脱ステロイドの主張の矛盾がここに存在するのだ。






≪追記≫
TEWLは、血流の影響を受けるから、ステロイド外用剤の血管収縮作用でTEWLが改善した可能性があり、皮膚バリア障害が改善したのではない、という指摘があった。
確かにTEWLは血流の影響を受けるだろう。

だが、ステロイド外用剤の血管収縮作用だけで、この論文の結果のようにTEWLが1週目には約2/3に、2週目には約1/2までも大幅に下がるとはとても思えない
さすがに、ステロイド外用の血管収縮作用だけで説明するのは無理だ。
著者らも、論文自体に『betamethasone appeared to improve the skin barrier (べタメタゾンは皮膚バリアを改善したと思われる)』と明記している。

ステロイド外用剤の血管収縮作用がどの程度TEWLに影響するのか、ベタメタゾンよりも強いクロベタゾール(デルモベート)を用いて調べている論文があるが(Skin Res Technol 7: 73, 2001、全く違う対象の研究なので一概に言えないとはいえ)、最も強いステロイド外用剤のクロベタゾールでもTEWLに及ぼす影響はこんなに強くない。
それに加えて、血管収縮作用のないピメクロリムスもTEWLを改善している。
湿疹を良くすることで皮膚バリア機能が改善していると考えるのが妥当だろう。


一方で、この論文では免疫組織学的染色や電子顕微鏡での所見も報告されている。
それによると、フィラグリンロリクリンという皮膚バリア機能に関わる蛋白質が、ベタメタゾンとピメクロリムスの治療群でともに改善していることが示されている。
ステロイド外用剤による皮膚バリア機能の改善は、こういった皮膚バリア機能関連蛋白の回復が一因と考えられる。


個人的には、標準治療と同じように、保湿剤を併用していたらどうだったのだろうか?というのが興味をそそられる。
この研究では、観察部以外の保湿剤の使用は許されていたようだが、実験の観察部には保湿剤は塗られていなかったようである。
あくまで個人的感想ではあるが、保湿剤とステロイド外用剤をきちんと併用することで、より皮膚バリア障害が改善され、副作用等が軽減されているのではないかと思う。




ちなみに、正常皮膚(上腕)でのTEWLの値は約 5 (g/m2/h)であるが(http://www.sccj-ifscc.com/terms/detail.php?id=35)、この論文で示されている湿疹部位(上腕)の治療前の値は約 25〜30 (g/m2/h)である。
約5〜6倍である。それだけ皮膚バリア機能が障害されているのだ。

何度も書くが、湿疹という状態は、『著しく皮膚バリア機能が障害された状態である。
一部の脱ステロイド関係者の主張では、この観点が大幅に抜けている。
湿疹を放置するようなことは得策ではないのだ。


 

 
 
 
 

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はじめまして。
ステロイドのことを調べていたらこちらのブログにたどり着き
始めの記事から何日かかけて一気に読ませていただきました。
とても参考になり、ありがたく思っております。
そして、ずっとこのブログを続けていらっしゃることに
cam_engl様のアトピーの方たちへの愛を感じました。
これからもよろしくお願い致します。

2013/8/9(金) 午後 8:49 [ fi_*e_*i_*a ]

外用の軟膏を使用することで、もろい角層の目が塞がり、一時的にはTDWLが低下したとは考えられませんか?
外用の影響が完全に解除されたあとの皮膚本来のバリア機能にどう影響するのか気になります。

2013/8/10(土) 午前 9:29 [ みいいい ]

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匿名でコメントをくださった方へ

いつも応援のコメントありがとうございます。
このブログは、応援してくださる方々のコメントに支えられております。
引き続き、有意義なブログになるよう努力いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。

2013/8/10(土) 午後 5:40 [ cam_engl ]

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fi_*e_*i_*aさま

コメントありがとうございます。
このブログにたどりついてくださる方がいると、励みになります。
また、いらしてください。

2013/8/10(土) 午後 5:52 [ cam_engl ]

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ステロイド塗りたて時は皮膚は綺麗になりますからその論文は当然だと思いますが塗り続けなければ維持できないのが大問題だと思います。アトピー患者はステロイド使用しなくても綺麗な皮膚になりたいと思っていますがそれは無理でしょうか? 削除

2013/8/10(土) 午後 10:08 [ 一般人 ]

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みいいいさま

コメントありがとうございます。

TEWLの測定はガイドラインに沿っているとのこと。そのようなことで検査が成り立たなくなるような方法では調べられてはいないと思います。
そして、TEWLの結果では、ステロイド外用剤は3週間連続で下り続けていますが、ピメクロリムスは1週間目以降TEWLがほとんど変わっていません。このような差がでることから、軟膏が角層の間を塞いだという物理的影響ではなくて、薬効そのものでTEWLが改善したと考えられます。
お考えは理解できますが、その可能性はないでしょう。

2013/8/11(日) 午前 9:36 [ cam_engl ]

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一般人さま その1

>ステロイド塗りたて時は皮膚は綺麗になりますからその論文は当然だと思いますが

当然と思っていない方がいるので、この記事を書いております。


>塗り続けなければ維持できない

多くのアトピー性皮膚炎の患者さんは、ステロイド外用剤を使いながら、良好にコントロールできています。
それが問題なのでしょうか?
塗り続けなければ維持できない、というと、何だか悪意を感じてしまうのは私だけでしょうか?

多くの日本人は、何かしらの病気を持っていて、薬などを使い続けながら生きているのが現状ですし、私にはそれが悪いことだとは思いません。
慢性疾患である以上、薬を使いながら、なるべく正常人と同じ生活ができるように持っていくことは普通の考えだと思います。

2013/8/12(月) 午前 7:32 [ cam_engl ]

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一般人さま その2

>アトピー患者はステロイド使用しなくても綺麗な皮膚になりたいと思っていますがそれは無理でしょうか?

まず一点。
アトピー性皮膚炎の患者さんのすべてが、ステロイドを拒絶しているわけではなくて、本当にごく一部のステロイド忌避の患者さんだけが、ステロイドを拒絶しているのが現状です。
大半のアトピー性皮膚炎の患者さんは現代医療を受け入れています。

そして、私の考えを述べておきます。
アトピー性皮膚炎は病気です、そして完治する確実な治療法は今のところありません。
もちろん、自然に寛解することはありますし、年齢とともに症状が軽快、ときに寛解する病気です。
なので、今ある選択枝の治療法の中で、アトピー性皮膚炎を良好にコントロールすることが治療法になります。
ステロイド外用剤は、間違いなくアトピー性皮膚炎をコントロールする最も有効な治療法の一つです。
ステロイド外用剤なしにアトピー性皮膚炎に立ち向かうのは、なかなか厳しいと言わざるをえないと思います。

2013/8/12(月) 午前 7:33 [ cam_engl ]

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