■男性の育休取得を推進する施策を
冒頭に述べたとおり、安倍首相は、男性の育児参画に触れてはいるものの、具体的な政策には言及していない。
これまで時間・場所に制約がある社員は女性のみと思われてきたが、これからは育児や介護を担いながら働く「制約社員」となってしまう男性社員も増えていく。仕事以外に何かをしていることを前提に、両立できる仕組みにしないといけない。
育児をする男性。男性の育児休業取得を促す企業もあるが…
男性の育児参画を本気で進めるなら、まだまだやるべきことはたくさんある。
第1に、この分野で進んでいる企業にも助成するといい。2013年の2月に経済産業省が音頭をとって、女性活躍推進のめざましい企業を「なでしこ銘柄」として発表したが、男性の育児参加について同様に「見える化」して、好事例を表彰する、助成するといった策が必要だ。厚生労働省は、今秋にも「イクメン企業アワード」を始める予定。男性の育児参加を積極的に促しつつ、業務改善を図る企業を表彰するもので、現在、企業に応募を呼び掛けている。
第2に、育児のための短時間勤務に対する所得補償の導入だ。男女ともに子どもが3歳になるまで短時間勤務を取得できるが、所得補償がなく収入減となる点も、男性社員の間で利用が進まない理由の一つだ。そこで、短時間勤務を「部分育休」と位置付けて、短縮した時間分だけ一定割合で所得補償をしてはどうか。例えば、スウェーデンでは短時間勤務を「育児休業の部分取得」(2分の1取得、4分の1取得、8分の1取得など)と考え、育児のための短時間勤務に対しても所得補償を行う。導入にあたっては、雇用保険から所得補償をするようにすれば、社員はうれしいし、会社も負担増とはならない。
第3に、育児休業中のテレワーク(在宅勤務を含む)を認めるべきだ。雇用保険からの育児休業給付金の給付ルールは、現在は月の就労10日までとされているが、これを時間単位で取得できるようにするといい。仮に自宅で就業日に1日2時間働いた場合、所得補償50%、賃金25%で75%が支給されるため、所得ロスは25%まで減少する。毎日わずかな時間でも働くことで業務のカンも持続するため、所得ロス、キャリアロス、業務知識ロスという三大ロスを気にする男性社員の心理的ハードルを下げることであろう。
こうした施策を組み合わせて、本格的に男性の育児参画を促進することこそ、真に女性が活躍しやすい職場、社会づくりにつながる。安倍政権には早急に有言実行を期待したい。
渥美由喜(あつみ・なおき)
東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長。東京大学卒業後、富士総合研究所、富士通総研を経て、2009年から現職。専門は少子化対策、ワークライフバランス、ダイバーシティ推進、社会保障制度。厚生労働省政策評価に関する有識者会議委員、イクメンプロジェクト委員。著書に『イクメンで行こう!』『少子化克服への最終処方箋』など。私生活では2回育児休業を取得、現在は子育てとともに父親の介護も担う。
(構成 日経マネー野村浩子)
成長戦略、パタニティハラスメント、マタハラ、厚生労働省、育休
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