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童謡「ぞうさん」の歌詞の意味、とその衝撃

まどみちお氏作詞の童謡「ぞうさん」の歌詞は、子供心にちょっと不思議に感じていた。その説明をする前に、まず、作詞者自身の証言をもとに、正統的な解釈を紹介する。
[歌詞全文]

ぞうさん ぞうさん おはながながいのね
そうよ かあさんも ながいのよ

ぞうさん ぞうさん だあれがすきなの
あのね かあさんが すきなのよ

この詞は、Q&A形式になっている。一節二節とも、一行目が問いかけ、二行目がそれに対する返答ということになる。
問いかけられているのが「ぞうさん」であるが、問いかけているのが誰かはわからない。
第一節、一行目で、ぞうさんは、他とは異なる、彼の身体的特徴を指摘される(鼻が長い)。そして、二行目で、それが遺伝的なものであること、象たるものであると宣言する。そして、第二節で、そんな母が大好きだと、それを強化する。
そのような意味らしい。

個人的には、まったくそんな解釈ができていなかった。
その原因の最たるものは、知っていたのは一番の歌詞のみで、二番は知らなかったことにある。
一番のみ読んだ場合、「かあさん」は、自分の呼び名のように聞こえる。つまり、「そうよ」と答えているのは、一行での問いかけに答えた母親だということだ。ということは、一行目で問いかけているのは、彼女の子であり、その印象は、「~のよ」という二行目の語尾に、教え諭す調子が感じられることで一層強まる。
つまり、象を見た子が、象って鼻が長いねえ、と母に言い、母が「母さんも長いのよ」と答える、という解釈になる。となると、母さんも長いとはどういう意味かと、疑問に感じてしまう。
母さんも長い、と言うのは、母象の鼻も長い意味だろう、と考えると、その前の問いかけが意味を成さなくなる。この矛盾に悩んだ。
やはり、しっくりくるのは、この詞は母子の会話と解釈することだった。だが、母さんも長い、とは、何が長いのか、それが謎になる。そして、その解けない謎、意味ありげな無意味こそが、この詞の最大の魅力でもあった。

ところが、二番の詞を調べて知り、作詞者の意図が明らかになると、途端にこの詞は輝きを失うように思われた。
その意図がさらに明確になるとよう、ちょっとした替え歌を作ってみた。

さんぼちゃん さんぼちゃん おはだがくろいのね
そうよ かあさんも くろいのよ

さんぼちゃん さんぼちゃん だあれがすきなの
あのね かあさんが すきなのよ

「さんぼ」というのは、童話「ちびくろサンボ」の主人公の名前である。この童話は、昨今では、差別的であるということで絶版になり、目にする機会がめっきり減っていると思われる。(私は、子供の頃、この話を何度か読んでいるが、記憶にあるのは、数頭の虎が木の周りをぐるぐる回るうちにバターになってしまう、というところだけである)
さんぼちゃんは、自分の肌の色を卑下したりしない。そして、同じ肌の色をした、母親が大好きだと言う。そこから感じられるのは、さんぼちゃんは母親べったりで、世間知らすだということである。さんぼちゃんは、まだ幼く、差別を知らないのである。
そのような無垢な姿を歌うことが、違うからこそ素晴らしい、という見方に貢献するものかどうかは個人的には確信がない。

まどみちお氏の「ぞうさん」に感じる個人的な不満は、一つには、象の目立った特徴は、鼻が長いことだけでなく、耳が大きいこともあるが、それには一切触れられていないことである。象の代表的なキャラクター、ディズニーの「ダンボ」は、知ってのとおり、その大きな耳を翼のように使って飛ぶ。やはり、耳についても言及してもらいたいところだ。
もう一つは、なぜ母親だけなのか? 父親はどうなってしまったのか、ということだ。(穿った解釈をするならば、父親の鼻は長くない/肌は黒くない、ぞうさん/さんぼちゃんは父親を知らない、ということになる。まどみちお氏の創作の源は決して無邪気なものではない) 父親が登場しないにしても、せめて言及はしておきたい。
そこで、自分勝手に、つまらない二番の詞を書き直させてもらった。

ぞうさん ぞうさん おはながながいのね
そうよ かあさんも ながいのよ

ぞうさん ぞうさん おおきなみみをして
そうね とうさんも きくかしら

さて、いかがなものだろうか? 少しは面白くなったと思う。
(おみみがでかいのね、だと語呂が合うが、下品な響きと、前節の安直な繰り返しに聞こえるのを嫌った)
(最後、悩んで「みみかして」とし、最後の一文字を変えることで、あえて謎めいて聞こえるように「みみかしら」にしてみたが、やはり最初の「きくかしら」に戻した)

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