発信箱:愚かなこと?=大治朋子
毎日新聞 2013年08月06日 東京朝刊
「同じことを繰り返しながら、違う結果を期待するのは愚かなことだ」。ドイツ出身の理論物理学者、アインシュタインの言葉である。
先日、イスラエルとパレスチナが約3年ぶりに和平に向けての直接協議を再開した。パレスチナの議員、ムスタファ・バルグーティさんに意見を聞くと、この格言を引きながら、悲観論に終始した。1991年に開かれたマドリード中東和平会議にパレスチナ代表団として参加した医学博士で、和平交渉には詳しい人物だ。
確かにイスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナのアッバス議長は、3年前に協議が頓挫した時もリーダーだった。過去の和平交渉で決裂の要因になってきた、イスラエルによるパレスチナ側への入植(住宅)地建設も、凍結される予定はない。
「同じようなメンバーが同じような障害を抱えたまま交渉を再開しても、結果は同じ」。バルグーティさんの主張には、なるほど説得力がある。
今までと違うことがあるとすれば、米国務長官の粘り腰かもしれない。ケリー長官は交渉再開に向けて、2月の就任以来6回も現地に足を運び、双方が根負けするように交渉再開に同意した。
「たとえ結果が出なくても、対話をすることは大事」(和平交渉でイスラエル側の代表を務めた経験のあるシェル弁護士)という考え方もある。ケリー長官がシャトル外交を始めて以来、米国に気兼ねしてか、双方の関係はおおむね穏やかだ。イスラエルは最近、パレスチナが望んできたパレスチナ服役囚の釈放に応じる方針も示している。
同じ顔ぶれが同じ障害を抱えながら、違う結果を出す。ありえなくても期待したい。(エルサレム支局)