2013年08月09日

給費制廃止違憲訴訟に対する私の立場

8月2日に給費制廃止違憲訴訟が提起されたこともあり、各所で話題になっています。

<参考>
司法修習生の給費制廃止違憲訴訟ホームページ
http://kyuhi-sosyou.com/
「給費制」廃止違憲訴訟への目線(元「法律新聞」編集長の弁護士観察日記)
http://kounomaki.blog84.fc2.com/blog-entry-725.html
給費制廃止違憲訴訟提訴に思うこと(一聴了解)
http://ittyouryoukai.cocolog-nifty.com/blog/2013/08/post-d5c0.html
やっぱり無理でした。スミマセン。(福岡の家電弁護士 なにわ電気商会)
http://ameblo.jp/mukoyan-harrier-law/entry-11588554944.html


私は以前に「司法修習生の給費制廃止違憲訴訟に対する期待と懸念」というエントリーを書きました(2012年12月12日)が、基本的なスタンスはそのときと変わっていません。
ただ、当時よりはむしろ、期待より懸念のほうが日に日に強まっている、というほうが正確かもしれません。

元法律新聞編集長の河野さんが書かれておられるとおり、違憲訴訟に対する弁護士の反応は様々だと思います。
河野さんは「あくまで印象ですが、やはり心情的賛同派が圧倒的に多い印象」とお書きになられていますが、私にはどうかなぁ?と思う部分もあります。
「同情派」は多いかもしれませんが、それを「賛同」と言えるかどうか。

訴訟に対する批判的な目線には、いろいろとあります。
・訴訟という手法を使って世論喚起をすることの是非。世論の支持を集められるかどうか。
・憲法問題に帰着させることの是非。他の手法・法律構成もありうるのではないか。そちらのほうが「勝ち目」があるのではないか。
・合憲という結論が出てしまうことで、いわば貸与制にお墨付きが与えられてしまい、給費制復活の足掛かりを失う懸念。

これらの批判はもっともだと思います。

これらに加えて、運動を主導している人たちへの反発もあるのでしょう。
一部の左翼弁護士に修習生たちが踊らされているだけだ、という声(中傷?)も耳にします。

ただ、正直なところ、この訴訟を進めている人たちの素性や目的・動機には、私自身はあまり関心はありません。
どういう人たちであれ、この訴訟が給費制復活につながるものであるのなら、私はそれで良いと思っているからです。

しかしながら、私がこの訴訟に抱いている懸念と疑問とは、そういうこととは別に、大きく次の2点になります。

1.「違憲」を勝ち取った後に残るものは?
この訴訟自体、正直勝ち目が低いだろうということもありますが、私は以前のエントリーでも書いたとおり、もしこの戦いが目論見通りに「違憲」判断を勝ち取ったとして、そのあとに何が待っているのか、ということなのです。
私は、給費制廃止が違憲とされたら、おそらく司法修習は最低でも修習専念義務は外されるでしょうし、ゆくゆくは任意化、そして廃止という方向に向かうだろうと思います。
この問題を「合憲か違憲か」という問題設定で論じることが、そもそも適切ではないのではないかという思いが強くあります。そこでは、司法修習が法曹養成にとっていかに重要で不可欠なものなのか、という肝心な視点が飛ばされてしまう危険があるからです。

2.「給費制」だけを単独で取り上げることの違和感
これはHARRIER先生もお書きになられていますが、「給費制」が復活するだけでは問題の解決にならないのですね。
結局は本当の敵は、貸与制ではなく、もっと別にあるということなのです。
この訴訟が仮に違憲判断を勝ち取ったところで本当の勝利にはつながらないというのは、その「本丸」との勝負を避けているからです。

その「本丸」とは、司法制度改革審議会の意見書の路線そのものであり、増員路線や法科大学院制度自体でもあります。
結局は、給費制にしろ、就職難にしろ、三振にしろ、司法試験の受験資格制限にしろ、これらの問題はトータルのパッケージとして解決されないとならないもので、単体で取り出しても本質的な解決はつながらないのですね。


この訴訟の弁護団長が宇都宮先生だというのは、ある意味で象徴的だと思うのです。
この訴訟の行く末を示していると思います。
おそらく、それは宇都宮会長時代の日弁連と同じ結末を辿るのではないか、と。

法科大学院制度には踏み込まず、給費制だけを取り上げようとしたこと。
給費制問題を「お金持ちしか法律家になれない」という経済問題に矮小化したこと。

それらによって、どういう結果を招いたのかという現実も、我々は直視しなければならないと思うのです。


給費制の復活を心から願う者として、この訴訟によって少しでも良い方向へ向かうことを祈っています。
しかし、私個人の立場として、この訴訟に賛成か反対か。
それを問われたら・・・。

いろいろな失望やお叱りの声を受けるであろうということは覚悟の上で、あえて苦渋に満ちた決断をしますと、
支持できないというのが今の私の結論です。

schulze at 00:00│Comments(14)司法修習 | 司法制度

この記事へのコメント

1. Posted by 甲南ロー出身の弁護士   2013年08月09日 01:31
私もschlze先生と同意見です。

貸与制と法科大学院受験資格要件強制、回数制限と、法曹養成検討会議や法科大学院村が相手だとずっと思っていましたが、背後にもっと巨大な何かを感じます。

新人弁護士が借金付けとなり就職難となって、回数制限や受験資格要件強制で法曹のなり手が減り、弁護士が人権問題に取り組みにくい環境を喜ぶのは誰か ?

仮に法科大学院受験資格要件強制や回数制限に踏み込んで給費制復活運動や裁判をしたところで、事態は変わったか?

運動や裁判ではなかなか是正できず、もっと大きな巨大な敵 例えば国や法科大学院以外の利権団体が絡んでいる気がしてなりません。
2. Posted by schulze   2013年08月09日 02:45
甲南ロー出身の弁護士様
コメントありがとうございます。
違憲訴訟に関わっていらっしゃる方々、期待されている方々もたくさんおられるでしょうから、本エントリーを書くかどうかは悩みました。
ご理解いただき、心強く感じます。
個人的な思いとは別に、訴訟提起に至った以上は最大限活かしていく必要があるとも感じています。今後もお知恵をいただければと思います。
3. Posted by 弁護士HARRIER   2013年08月09日 15:06
自分の記事をご覧くださったとのことでありがとうございます。
非常に複雑な気持ちですが、考えても考えても、給費制違憲訴訟のほうに優先順位を置くことができず、忸怩たる思いがあります。

「本丸」に攻め込まずして給費制復活だけを主張しても、説得力がないということは、かねてから申し上げておりましたとおりです。違憲訴訟も、この「本丸」を攻めつつやったほうがよかったのかもしれませんね。
4. Posted by schulze   2013年08月09日 15:15
弁護士HARRIER先生
コメントいただき、ありがとうございます。本エントリーはHARRIER先生のブログに触発されたところがありました。先生もそれだけ思い悩まれ決意された以上、自分もスタンスを明らかにしていくべきと考えました。
ただ、私は訴訟の足を引っ張ることは本意ではありません。単に反対とだけ言いっぱなしで終わってしまってはダメで、ここからどう進めていくかは、自分自身も含めて問われることになることを覚悟しています。ここからが正念場ですね。
この訴訟の難しいところは、目的と手段の関連性ですね。そこをどう捉えるかによって立場が分かれると思います。本質が経済問題(だけ)ではない、というところが伝わるのかどうかですね。
5. Posted by 甲南ロー出身の弁護士   2013年08月09日 22:48
最近ようやく気付きましたが、仮に給費制復活運動の頃から回数制限や法科大学院の問題に踏み込んで主張していたとしても同じような結末を辿ったと思います。

新人弁護士が借金漬けになり、就職難に陥り、法曹志願者が減少して、自分たちに抗う弁護士が減って喜ぶ者達はあまりに沢山います。

給費制廃止違憲訴訟の本当の敵は、法科大学院村や大学や国だけでなく、その背後に人権問題に取り組み弁護士が減って喜ぶ、複雑な利権団体だと思います。

この戦いに勝利するには、まず各地の反原発運動家や団体や学生運動で戦う学生達や労働組合、あらゆる人権裁判で戦ってきた市民団体、世界の反原発や反核兵器を始めとする市民団体や市民運動家と連携して戦って行かなければ、到底勝ち目はありません。

敵はあまりに巨大です。

裁判の結果も政治闘争も今のままではもう結果は明らかですが、私と繋がりがある市民運動家や市民団体にも広げて、反撃の道を模索していきたいと思います。
6. Posted by schulze   2013年08月09日 23:17
甲南ロー出身の弁護士様
いつもコメントをいただきまして、ありがとうございます。ブログ管理者として、僭越ながらお願いがあります。
甲南ロー出身の弁護士様が取り組まれている反原発活動など、それはそれで素晴らしいことと思いますし、結構だと思います。司法制度改革の問題点を知らしめる上で、これらのコミュニティや人脈を活用されることには大いに取り組んでいただきたいと思います。
その一方で、司法制度改革以外の政治的課題につきましては、読者の方にも色々な立場があろうかと思います。私自身も、原発問題に関していえば、東電側の代理人を務めている友人もたくさんいます。また、私の信条においても、エネルギー政策において現状では原発は不可欠ではないかとも考えており、単に原発を廃止すれば良いという反原発運動には賛同していません。この点はブログでのテーマにしておりませんので深くは立ち入りませんが、色々な読者がいるということは踏まえていただきたいと思います。司法制度改革に関しては私は自分の立場を明らかにしていますし、当ブログのテーマとしても正面から扱っていますので、ご自身のご意見・お考えを表明される分にはかまいません。それ以外の政治的テーマにつきましては、一定のご配慮をいただければ幸いです。
7. Posted by 甲南ロー出身の弁護士   2013年08月10日 00:17
すいません。そんなつもりは全くなかったのですが、私がここで伝えたかったのは反原発云々ではなく、それと構造を同じくするような体質を言いたかっただけですが、やはりインターネットでは私が本当に伝えたいことは伝わらないようですね。
インターネットのコミュニケーションの限界を感じました。
8. Posted by 甲南ロー出身の弁護士   2013年08月10日 00:51
私の意見が真意が伝わらなかったのが残念です。
やはりネットでは真意は伝わらず、ネットで意見を投稿することに疑問を感じました。
今までネットに依存して、ネットに投稿して自己満足に陥っていた自分がバカでした。
甲南ロー出身弁護士のハンドルネームも捨てます。
やはり私はネットで主張するより街頭で、前線に立ってアジテーションしている方が性に合います。
今までお世話になりました。
いつか現実の世界でお会いした時にお話しましょう。
9. Posted by schulze   2013年08月10日 01:20
私としては甲南ロー出身の弁護士様の真意を取り違えたつもりはないのですが、他の政治的テーマと絡めて論じることは余計な議論を招く可能性があるので、ご配慮いただければ…という「お願い」の意味で申し上げました。甲南ロー出身の弁護士様には、ロー修了法曹でありながらロー制度に対して鋭いご意見を以前よりお寄せいただいておりましたので、その点では感謝しておりますし、これからもご指導いただきたいと思っておりました。今回のような反応は私としては心外で、残念と言うほかありません。
10. Posted by 竹内佑馬   2013年08月10日 20:52
甲南ロー出身弁護士こと福島県弁護士の竹内佑馬です。

schlze先生、すみません。
私の方が先生の真意を捉えきれておらず、誤解していたようです。
申し訳ありませんでした。
最近過労と体調不良のため、冷静に文章を読めませんでした。

ネットに私も限界は感じてきています。
今まで法曹養成制度についてはネット上で議論していましたが、ネット内だけで盛り上がり、しかも同じような業種や考え方の方々ばかりで盛り上がることに留まることが多いことを悟りました。

私は市民運動家として、そろそろネットでの意見投稿は卒業し、法曹界ブログからは足を洗い、現実の世界で自ら前線に立って、アジテーションをしていこうと思います。
11. Posted by schulze   2013年08月10日 23:28
わざわざご本名を明らかにしていただいていますが、問題ないのでしょうか。ご判断はお任せしますが、影響等は慎重に判断されたほうがよろしいんじゃないでしょうか。ご希望があれば、いつでも削除・修正には応じますので、おっしゃってください。

ネットでの発言を今後どうされるのかは個人の自由だし、私がとやかく言うことではないですが、私が他のテーマの政治的発言については控えて欲しいとお願いしたことに対して、ネットだと真意が伝わらないだの、ネットでは限界があるだの申されましても、私としては困惑するほかありません。この流れだと、あたかも私が原因であなたへネットを失望させたということになりますね。実際にそうなのかもしれないけど(苦笑)、私に対して失礼な話じゃないですか。「ネット内だけで盛り上がり、しかも同じような業種や考え方の方々ばかりで盛り上がることに留まる」というのは、私に対する批判でもあるのでしょうか。私はブログではいちいち書いてませんが、リアルはリアルで自分なりに活動してるつもりだし、ネットとリアルの使い分けは当然に考えてますよ。ネットだけで何かの結果をもたらすだなんて、初めから考えてません。でも、ネットやブログにはそれなりに意味があると思って続けてきましたが、そういう私に対する非難も含まれているんでしょうか。どういう意図であなたがこういう捨て台詞的なコメントを書き込んだのか、私には測りかねますし、とても不愉快な気分ですね。ネットに限界があると感じられているのなら、見なければいいだけだと思います。
12. Posted by 甲南ロー出身の弁護士   2013年08月11日 00:12
ですから、そういうつもりで言ったのではないです。
名前を出したのは、匿名でなく自ら名乗りあげて、私の真意を伝えたかったからです。
何度も繰り返し述べているのになぜわからないのですか。
わかりました。
私も気分が悪くなりました。
もう私の過去の書き込みを含めて全て削除してください。
一切の書き込みの削除をお願いします。
あなたの所に書き込みをしていたこと自体を恥じます。
意気投合できそうだと思っていただけに、あなたには本当に失望しました。
私の方から絶縁させて頂きます。
もう二度とここには来ません。
失礼します。
13. Posted by schulze   2013年08月11日 03:53
これ以上、私から申し上げることは控えたほうがよろしいかと思います。これを最後といたしますが、私に対して失望されたということは、すべて私の不徳の致すところであり、甘んじて受け入れます。失礼があったところはお詫びいたしますが、それにしても「あなたの所に書き込みをしていたこと自体を恥じます」という言葉を頂戴するほどのことを自分がしてしまったのだろうか?という戸惑いは禁じえません。ネットでの意見投稿を断たれるということが、もし私に原因があるということでしたら、それはとても不本意であります。なぜこういうことになってしまったのか、そして「ネットでの限界」をなぜあえて私にぶつけられたのか、私には理解できないところがあります。甲南ロー出身の弁護士様にも、様々な活動をされている中で、色々とご心労がたまっているのかもしれないと推察していますが…。
甲南ロー出身の弁護士様には、これまで当ブログに対して様々なご支援をいただいていたところであり、数々のコメントには深く御礼を申し上げる次第です。甲南ロー出身の弁護士様の今後のご活躍を祈念しております。これまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
14. Posted by schulze   2013年08月11日 04:02
コメント削除のご要望に関してですが、過去も含むすべてのコメントの削除には応じかねます。議論の過程が分からなくなりますし、今回の件も、読者に経緯等をご理解いただくためにも、一連のやり取りは残しておくべきと判断します。なお本名の記載部分に限りましては、支障等も考えられますので、ご要望があれば修正・削除には応じますが、その場合でもコメント自体の削除はいたしません。

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