プロフィール最終更新日:
- はてなID
- lkhjkljkljdkljl
- ニックネーム
- MK2
- 自己紹介
-
俺の名はMK2。しがないコンビニ店長である。ちなみに幼女ではない。別の世界線ではそういうこともあったかもしれない。今日も24時間の勤務を終えて疲れきった体で自転車にまたがる。整備なんかする時間もなく、そこそこの金を出して買ったMTBもいまでは錆が浮いていた。希望にあふれていたころもあった。この自転車で野山を駆け巡る日を想像した。歳月が過ぎ、俺が得たものは腹の贅肉といくばくかの知識、そして圧倒的な借金ばかりだった。
もう、終わりにしよう。
いつもそう思う。それをかろうじて引き止めるのは家族の存在と、借金。これだけだった。
夕暮れだった。昼の暑さをそのまま引きずって、血のような夕暮れが世界を照らす。いつものように曲がり角を曲がった。駐車場のアスファルトにオレンジの光が落ちていた。
ステージ。
漠然とそんな単語が浮かんだ。いつもと同じようにとまっている車も、光の加減で別の質感を持ったもののように見える。非日常は、日常のなかにこそ潜んでいる。そして、そう、ここがステージだとするならば、そこには演じるものが立っていなければならない。
そんなことをする気分の余裕すらもなかったのだ。
深く煙を吸って吐き出した。そのときだった。
「おじさん」
声が、聞こえた。周囲を見回すが、俺以外に人はいない。ならばそれは俺のことなのだろうか。声がしたとおぼしき後ろを振り向いた。
少女がいた。
緩くウェーブのかかった、腰までの髪がまず目に入った。
ここは、非日常。
残照の世界。
などと、軽い夢を見るには、俺はちょっと年をとりすぎていた。
少女は、クラシカルなセーラー服を着ていた。スカートは膝くらいまである。顔立ちは、ちょっと日本人離れしているように見えるが、端的な評価を与えれば、美少女だった。背格好からすれば高校生くらいだろうが、仮にそうだとして、顔立ちそのものは幼いように見えた。いずれにせよ、その存在は、やや浮世離れしていた。現代から、ずれている。そんな直感的な印象を持った。
俺は、煙の行き先を気にしつつ、なにげないふうを装って言った。
「なにか?」
「ふふ」
少女が、ほほえんだ。
その表情を、どう表現すればいいだろう。言葉にすれば陳腐だ。妖艶。そんな言葉がしっくり来る。男女の機微を知り尽くした女性が、隠微な欲望を内に秘めながら、ささやかな意思表示としてあらわすような、そんな笑いだ。
似つかわしくなかった。歳相応ではない。しかし、それがかえって異様な効果を醸し出していた。充分に生育した手足と幼げな顔立ち。そしてアンバランスな笑み。まるで宙に浮いているいきものであるかのように、近づいてきた彼女に、俺は魅入られていたのかもしれない。
少女は俺のすぐそばに立った。近くに立つと、頭ひとつぶんくらいも身長の差がある。
俺を見上げて少女は言った。
「疲れてるんだよね」
「そう見えるかい」
「ええ、見えるわ」
「それはどうも」
俺は言った。関わりあいにならないほうがいい。面倒ごとはごめんだ。こんな状況を地元の人間に見られたらあらぬ噂も立つ。俺は少女に背を向けて、自転車に向かって歩き出そうとした。
その俺を、少女の声が引き止めた。
「おしごとのない国に、連れていってあげる」
ぎくりとして立ち止まった。振り向いた。
少女が、腕のなかに飛び込んできた。そのやわらかい感触。衝撃で軽く揺れた髪から、あまやかなにおいがただよってくる。
「つらいんだよね。毎日しごとで。幸せになりたいんだよね。わたしには、それをしてあげられるよ」
「やめろ!」
俺は少女を突き放して、後ろに飛びすさった。
「わかった。これはあれだな。ドッキリ黄昏流星群だな!? わかってる。わかってるからみなまで言うな。最近自分の妄想のフォーマットがほとんど黄昏流星群と重なりつつあるのは先刻承知だ! その事実がとてもつらい! 泣いていいですか!!」
「うわあ……きっつい……」
少女の雰囲気がぶっ壊れた。しょせん語り手が俺だと世界観のほうが引きずられてこうなる。
「あ、でもでも、おしごとしなくていい国に行けるのはー、ほんとだよ?」
「ちょっと待て。さっきまでの口調はどうした」
「おじさんの嗜好にあわせてみました」
「うわああああほんとに俺の嗜好知られてるよ!!」
「いやまあ、岡野史佳よりはなあ……」
俺はアホらしくなって、地面に座り込んだ。長時間立ってるとおっさんの肉体にはけっこうきついものがあるからだ。吸いかけのタバコも吸ってしまいたい。
「で?」
俺は聞いた。よくわからないが、ここはたぶんそういうノリでかまわないはずだ。
「だから、おじさんをおしごとのない国に連れていってあげるの」
「そんなうまい話になったら本格的に黄昏流星群だろ。高校のころこっそり俺のこと好きだった女子とか出てきて、俺と同い年にしては意外に若くて会ったその日の夜にはセックス、最後は俺の都合のいいように終わるんだろ」
「昨日エロゲーの金髪キャラにひとめぼれしたって言ってた人とは思えないね」
「どこまで知られてんだよ俺の個人情報! あとエロゲーって伸ばすな! エロゲで切れ! ゆずソフトの金髪キャラには抵抗できねえ病気なんだよ!!」
「めんどくさいおじさんだなあ……ま、いいか。わたしについてきて」
「俺、明日も朝からシフトだぞ。時間かかるんだったら行かねえぞ」
「ううん、すぐに着くよ」
俺は、タバコを揉み消して、吸殻を携帯灰皿に入れて、少女についていった。
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「じゃーん、ここでーす」
「……ここが、なんだって?」
「おしごとのない国です♪」
「俺にはただの数字のついたコンビニチェーンにしか見えないんだが」
「うん。おじさんはここで働くの。ヘッドハンティング?」
「ううん、違うよ。おじさんの借金を肩代わりしてあげるから、そのかわり死ぬまでお給料はなし。だから、しごとじゃないよ? あ、あとごはんは廃棄を食べていいから安心だよ?」
頭を抱えてしゃがみこむ少女を見ながら、俺は途方に暮れた気分で思った。オチを考えずに文章を書き始めるのはだめだ。エントリとはだいぶ勝手が違うと思った。
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というわけで、このブログは42歳のおっさんが書いています。ちなみに最近話題のコンビニの女子ブログは俺のネカマ行為ではないので厳重に注意してください。