私、覚えてなかったんですけど、息子に言われて記憶を巻き戻してみると、言いました、確かに、そう言いました。息子が小さいころ、当時住んでいた場所の近くに、路上生活者(ホームレス)がいたんですよ。で、息子に「危ないから、近づいたらダメよ」と。
――私も、子どもがいたら言っていたかもしれません。
でも、たぶんそれは、路上生活者を実際に知らないからなんですよ。見知らぬ路上生活者に、支援団体の人が話しかけると、どういう返事が返ってくると思いますか?
――想像つきません。人によってぜんぜん違うのでは? とは思いますが。
以前の自分は、「放っといてくれ」「うるさい」「なんだテメエは」だろう、と思っていたんです。ところが、支援団体の見回りに参加してみたら、実際には、「ありがとうございます」と答える方が一番多かったんですよ。行ってみないと分かりません。一回でも、目の前で、その人が実際に話す言葉を聞いたか聞かないかでは、ぜんぜん違います。「before」と「after」で、180度変わりますよ。それは、自分にとって気持ちの良いことです。
――お話を伺っていると、ぜひ私も一度、見回りに同行したいと思うようになりました。車椅子で行けるところは、非常に限られてしまいますけれども。
私も、もっともっと知りたいと思っています。偏見だらけだった以前の自分を、「かわいそう」だと思っています。今も、私には偏見が残っていますけど、だいぶ少なくなりました。
生活保護や困窮者について、あまりよくご存じない方に対しては、
「知れば変われます。私はそうでした。あなたもそうなのでは? 私は、もっと知りたいので、皆さん、どうぞご一緒に」
と申し上げたいですね。
――私も、ぜひ「知って変わる」にご一緒させてください。今日はありがとうございました。
◇
次回は、弁護士の尾藤廣喜氏を通じて、「生活保護制度の改悪に反対する」とは具体的にどういうことなのかを紹介する。厚生省(当時)のキャリア官僚として・弁護士として生活保護問題に関わり続けてきた尾藤氏にとって、今回の生活保護基準引き下げへの反対運動の第一歩「審査請求」とは、いったい何なのだろうか?
<お知らせ>
本連載に大幅な加筆を加えて再編集した書籍『生活保護リアル』(日本評論社)が、7月5日より、全国の書店で好評発売中です。
本田由紀氏推薦文
「この本が差し出す様々な『リアル』は、生活保護への憎悪という濃霧を吹き払う一陣の風となるだろう」