クローズアップ2013:バルサルタン臨床試験疑惑 責任追及に課題多く 有識者検討委、調査に強制力なし
毎日新聞 2013年08月10日 東京朝刊
ノ社はデータ操作された論文を宣伝に使い、昨年度は約1083億円を売り上げた。省内には「社会的に決して許されない」との声がある。ただし、幹部は「仮に刑事告発するとしても、現状ではどの法律に違反しているのか、はっきりしない。違法行為が濃厚にならないと簡単には動けない」と苦渋の表情で語った。
◇元社員の関与に濃淡
臨床試験は、東京慈恵会医大、京都府立医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大で行われ、ノ社の同じ社員(5月に退職)が参加した。
慈恵医大と府立医大の試験は、バルサルタンには他の降圧剤よりも脳卒中や狭心症などの発症を抑える効果があると結論付けた。だが、各大学の調査で血圧に関するデータの操作が発覚。さらに府立医大では、虚偽の脳卒中の記述をデータに加えるなどの別の不正操作も見つかった。
元社員は両試験で統計解析や図表類の作製などをしていたほか、研究チームの会議の事務作業も引き受けていた。慈恵医大は元社員が不正操作したと疑い、府立医大は「データ操作できる可能性があったのは、元社員と数人の研究者に限られる」との見解だ。
ノ社側の調査では、元社員の5大学への関わり方には濃淡がみられる。
滋賀医大の試験は、バルサルタンには、他の降圧剤より腎臓を保護する効果が高いと結論付けた。元社員と共に部下も関わり、部下が患者データ管理や統計解析をした。部下は2007年に論文が発表される直前にノ社を辞め、滋賀医大の大学院生になったという。
名古屋大の試験では、バルサルタンに心不全の予防効果を認めた。社内調査は「統計の手法の相談に応じたが、実際の解析は(大学の)医局員がした」とするが、ノ社が委託した第三者機関の調査は、元社員が統計解析した可能性を示唆しており、食い違っている。
千葉大の試験では、心臓と腎臓を守る効果は認めたが、脳卒中などの予防効果はみられなかった。ノ社は、元社員について「研究者の一人と確執が生じたため、他の研究者らとほとんど接触がなかったと考えられる」と指摘。統計解析も「助言」にとどまっていたとしている。
◇ノ社宣伝関係の出版社編集委員が検討委員に 人選に疑問の声
降圧剤バルサルタンの臨床試験疑惑を巡る厚生労働省の検討委員会(12人)で、日経BP社の宮田満・特命編集委員が委員に就任した。同社発行の医療専門誌「日経メディカル」は、製薬会社ノバルティスファーマが10年間以上、バルサルタンの宣伝記事や広告を集中的に出した媒体で、厚労省の人選に他の委員から疑問の声が上がっている。