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呪文

 ぼくが『呪文』を覚えたのは、桜が満開になった、土曜日の朝のことだった。

 ぼくは一人で散歩に出かけた。べつに家にいるのが嫌になったわけじゃなくて、雲ひとつない青空で、気持ちのいい陽気だったからだ。
 小学五年生なら、一人旅もしなくてはいけない。
 川の堤防沿いにならんだ桜を見に行こうと決めて、ついでなので通学路にある神社に向かったのだ。

 その神社では鳥山明神(みょうじん)という神様が祭られている。

 境内は広くて立派だ。たくさんの参拝客がやってくるので、おみくじや土産物の売れ行きはいいらしい。
 ご神体は鏡で、裏側には龍が描かれているとかなんとか。

 鳥山明神様がいなければ、いまの世界は存在しなかっただろうとのことだ。だから毎日学校から帰るとき、ぼくは鳥山明神様にお礼参りをしていた。

「ぼくは今日も元気です。いろいろとありがとうございます」

 ご神体に向かって、ぼくはいつもと同じように一礼をした。
 いつもは家に帰るのだけれど、その日は散歩の途中だ。顔を上げて、「さぁ、桜を見に行こう」と、くるりと回れ右をした。
 声が聞こえたのは、ちょうどそのときなのだ。


『ニフラム』


 聞こえたのはそれだけで、説明とかは何もなかった。

 力強くはなく、大切なことを伝えるという感じではなかったけれど、頭のなかに語りかけてくるようで、空耳だとは思えなかった。

 ニフラム?
 ぼくはもう一度回れ右をした。後ろにはもちろん、誰もいなかった。ご神体があるだけだ。ぼくは腕を組んで考えながら歩きだした。

 さっき聞こえたのは神様の声? でも、ニフラムってなんだろう? 

 ぼくはうんうん考えながら境内を出た。
 ずっと考えていたせいで、ぼくは家に向かっていた。桜のことを忘れていたのだ。そして、習慣というのはすごいものなのだ。

 ぼくは散歩をやめて家に帰ることにした。
 一人旅はまた今度だ。神様の声なのかはわからないけれど、はっきりと聞こえたのは確かなのだ。ニフラムがなんなのか気になってしかたなかった。どういう意味があるのかを考えてしまうのだ。
 魔法の呪文?
 そんなことを思いついて、ぼくは少しうれしくなった。
 そして周りに誰もいないことを確認すると、ぼくは両手をつきだして『呪文』を口にした。

『ニフラム』

 ぼくの右手、人差し指の先が光りだした。
 突然あらわれた指先の光は、ぽわんとして柔らかく、ほんのりと温かい。
 五秒くらいで光は消えた。

 そして、それだけだった。

 なにが起きたのかドキドキしたのだけれど、とくに変わったことはなかった。


『ニフラム』

 ぼくはもう一度言ってみた。
 右手人差し指が、ぽわんと光る。まぶしくない光は、五秒くらいで消える。

 そして、それだけだった。


 指先がぽわんと光るなんて聞いたことはない。
 だから、これはすごいことなのだ。

 とてもすごいことなのだと思う。


 ただ、どういう効果があるのか、何の役に立つのかはわからなかった。

削除する用意はできている。
だもんで、息抜き気分で適当に書いていこうと思います。


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