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広島・長崎と首相―「被爆国」の指導力とは

 被爆から68年の日に合わせ、安倍晋三首相が広島、長崎を訪れた。

 数十万人の犠牲者を悼む式典で、両市長が平和宣言を読み上げた。目の前で聞いた首相は、「確実に、『核兵器のない世界』を実現していく責務がある」とあいさつした。

 これまで被爆地は、歴代首相の言葉に期待しては落胆する年月を繰り返してきた。安倍首相にはぜひ、核廃絶への決意を行動へとつなげてもらいたい。

■原点とは何か

 「日本政府に、被爆国としての原点に返ることを求めます」。田上富久・長崎市長は平和宣言で2度繰り返した。

 原爆の破壊力、殺傷力はすさまじく、あまりにむごい。生き延びた人々も多くが放射線の後遺症に苦しんできた。

 今年7月に亡くなった長崎の被爆者、山口仙二さんが82年、国連で「ノーモア・ウオー、ノーモア・ヒバクシャ」と訴えた。この訴えこそが、被爆国がよって立つべき原点である。

 だが、破壊力の大きさゆえに、核兵器による威嚇で戦争を防ぐという核抑止論が幅をきかせてきた。冷戦期、米ソは核軍拡競争に走り、近年は既存の核保有国をまねるように、新たな核武装国が出てきている。

 「威嚇によって国の安全を守り続けることができると思っているのですか」「人類の未来を見据えて、信頼と対話に基づく安全保障体制への転換を決断すべきではないですか」

 松井一実・広島市長は平和宣言でこう問いかけた。日本を含め、今も抑止論に頼る国々へのメッセージである。

 安倍首相は、被爆地での誓いを政策で具体化していくうえで、このメッセージの重みを常にかみしめていてほしい。

■脅しによる悪循環

 米国の「核の傘」に頼ってきたのは自民党政権だけでなく、民主党政権でも同じだった。

 核実験した北朝鮮、核の近代化を進める中国が位置する北東アジアで、どのように平和と安定を維持していくか。

 リアルな外交・安全保障政策が必要であるが、同時に、脅しが脅しを呼ぶ悪循環からどう脱却していくかという、大きな文脈を見失ってはならない。

 安倍首相の考えや方針の中には、悪循環の脱却にどうつなげていくつもりなのか、整合性が見えにくいものがある。

 たとえば、ミサイル防衛システムの今後だ。安倍首相は、米国に飛ぶミサイルを、日本が憲法の制約で迎撃しなかったら、同盟が危うくなると指摘する。

 だが、ミサイル防衛を前面に出せば、中国や北朝鮮が核弾頭を増やすなどの対抗手段に出て軍拡競争に火がつく恐れがある。対応を誤るとかえって米国のリスクになる可能性もある。

 安倍政権は年末の新防衛大綱策定に向け、敵基地を攻撃する能力を自衛隊に持たせることも検討している。すでに米軍は能力を持っており、日本が加われば相手の警戒心は高まろう。攻撃する前にミサイルが発射されるリスクも高まりかねない。核能力の増強によって対抗されるかも知れない。

 目の前の安全保障問題を平和的に解決していくには、自衛力を持ちつつも、軍縮を含めた果敢な外交を展開していくことが不可欠である。そのことを抜きに、核に頼らない安全保障体制への転換は進まない。

 パウエル元米国務長官ら米欧の元政府高官が近年、核抑止論の限界を説いている。核問題のプロたちが盛んに鳴らす、核頼みの危うさへの警鐘を忘れてはならない。

■広島・長崎と対話を

 夏に広島、長崎を訪れる首相は毎年、被爆者と対話してきた。貴重な機会となってきたが、安倍首相はもっと対話、意見交換の場を広げてはどうか。

 広島、長崎の平和宣言には、その年々の被爆地の思いが凝縮されている。今年は両被爆地がともに北東アジアの非核地帯構想を掲げるなど、注目すべき提言も盛り込まれている。首相は両市長をはじめ、被爆地を代表する有識者らと公開で討論をしてはどうだろう。

 安倍首相は非核三原則の堅持も誓った。広島で最初準備されたあいさつ文にはなかった言葉で、被爆地には朗報だった。

 周辺の安全保障環境の変化を理由に、日本も核武装の可能性を探るべきだとの意見が一部にあるなか、安倍首相が広島、長崎で三原則の重みについて語り合うのも、世界に対する重要なメッセージとなる。

 離任を控えた米国のルース駐日大使は、広島、長崎の式典に参加し、オバマ大統領が来日の際には、被爆地訪問に踏み切るだろうとの見方を示した。

 大統領は6月の演説で、「核兵器が存在する限り、真に安全ではない」と強調している。

 歴史的訪問の実現に向けて、被爆地の視点と日米同盟の利点を切り結ぶ指導力が、安倍首相に求められている。

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