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社説

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集団的自衛権 行使容認は禍根を残す(8月8日)

 平和憲法の下、歴代政権が行使できないとしてきた集団的自衛権について、政府が行使容認に向けた動きを加速させている。

 政府は憲法解釈を見直す「安保法制懇」を8月下旬にも再開する。安倍晋三首相は内閣法制局長官に、行使容認派の小松一郎駐フランス大使の起用を決めた。

 一方、小野寺五典防衛相は年末に策定する新防衛大綱に行使容認を反映させる意向を示した。

 日本は国際法上、集団的自衛権を有しているが、憲法9条が許容する必要最小限度の自衛の範囲を超えるため行使できない―というのが政府の一貫した立場だ。

 解釈変更は憲法の平和主義を根底から覆し、海外での武力行使に道を開くものだ。周辺国との関係も一層危うくしかねず、到底容認できない。首相は拙速な判断を避け、時間をかけて冷静な議論を尽くすべきだ。

 首相が第1次内閣時に設けた前回の安保法制懇は、公海上の自衛隊による米艦船防護など4類型を議論し、米艦船防護とミサイル迎撃の2類型で行使を認めるよう提言した。

 首相は2月に再発足した法制懇初会合で、4類型以外にも行使が必要な事例を検討するよう求めた。

 行使対象が広がれば、それだけ日本が紛争に巻き込まれる危険性も高まる。法制懇は対象拡大という結論ありきの議論をしてはならない。

 内閣法制局長官に、前回の安保法制懇設置に関わった小松氏を充てる人事も問題だ。

 法制局は憲法とその解釈の整合性を審査する。国会答弁も担う長官に、これまで一度も法制局の経験がない小松氏を起用するのは異例で、行使容認への布石なのは明らかだ。

 日本の安全保障政策の根幹をめぐる議論に先立ち、首相が都合のいいように人事権を行使する手法は、極めて乱暴と言わざるを得ない。

 一方、小野寺防衛相は集団的自衛権の議論を急ぐべき理由についてテレビ番組で「北朝鮮のミサイル防衛のために公海上に出ている米艦船が攻撃された場合、私は(自衛隊に反撃)命令を出せない」と説明した。

 米国が攻撃された場合、そばにいる自衛隊も応戦するとなれば、相手国は日本も攻撃対象に想定する。

 従来の憲法解釈は、そうした事態を避けるため、内閣法制局が理論的に裏付けし、国会で議論を重ね、練り上げてきたものだ。小野寺氏はその重みを軽視していないか。

 集団的自衛権の行使容認は、平和国家・日本のあり方を変容させ、将来に禍根を残す。日米同盟強化を大義名分に、中国の海洋進出や北朝鮮の脅威を口実に憲法解釈を見直すことはあってはならない。

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