科学者による不正行為が後を絶たない。科学研究への国民の信頼を裏切るだけでなく、科学に真摯(しんし)に向き合うべき研究者の自殺行為だと深い失望を禁じ得ない。
東京大学では、分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授らが発表した論文に多数の捏造(ねつぞう)があったことが25日に発覚したほか、同じ日に政策ビジョン研究センターの秋山昌範教授が東大と岡山大から研究費名目で計2180万円をだまし取った詐欺の疑いで逮捕された。26日には北里大を運営する北里研究所が、文部科学省の研究費補助金の不正受給が新たに判明したとして、約8790万円を返納すると発表した。
国内では近年、論文の不正が相次いで判明しているほか、研究費の不正使用も後を絶たない。文科省がことし4月に発表した公的研究費の調査では、全国の大学など46の研究機関で不正使用が計3億6100万円に上り、計139人が関与していた。架空取引で業者に研究費を管理させる「預け金」や、カラ出張などの方法で不正請求した「プール金」などだ。
科学者のモラルを厳しく問いたい。文科省は大学や研究機関と連携し、不正を事前チェックする態勢を早急に構築する必要がある。
加藤元教授は分子生物学研究の第一人者で公的資金を使った研究も多かった。東大は外部からの指摘を受け、1996〜2011年に元教授が関わった165本の論文を調査。うち43本は「撤回が妥当」とする報告書をまとめた。
加藤元教授は「改ざん、捏造があったのは事実」と認める一方、「悪質な不正を繰り返していた者は少ない。不正箇所の多くは図表を良く見せるためのお化粧と理解している」とも述べた。社会的な信用を失墜させる重大な事態を真摯に受け止めているとはにわかに信じがたい発言だ。多くの誠実な科学者にも影響を及ぼす自らの責任を深く反省すべきだ。
一方、秋山容疑者は医療ITが専門で、こちらも電子カルテ研究の第一人者として知られていた。東京地検特捜部によると、詐取した金を私的に使い、一部を共謀した業者に手数料として支払ったとされる。事実ならば言語道断だ。
科学の真理を探究することは、人類の発展に貢献する崇高な行為だ。科学者一人一人は、国民の大きな夢と希望を担っていることを忘れないでほしい。
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