ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第1部 戦乱の異世界へ ※ダイジェスト化
エピローグ 平和の風
「お招きいただき、ありがとうございます。ハミエーア陛下」

 海上自衛隊の純白の制服に身を包んだ蕪木が、玉座の前で敬礼した。
 そんな蕪木に笑いかけ、ハミエーアは言った。

「なあに、逆に申し訳ないと思っておるわ。こんな簡素な式しかやれぬでの」

 蕪木の隣にいた加藤が苦笑する。

「戦後ですからね。仕方ありませんよ」

 加藤の言葉に、ハミエーアもやや表情を曇らせる。
 式典パーティが始まると、蕪木は元の世界への帰還方法について、改めてハミエーアに尋ねてみることにする。

「ふむ……それなんじゃがのう……」

 蕪木の問いに、彼女は少し困った表情を見せる。
 言葉を選んでいるようだった。

「手立てはないわけじゃないのじゃ。しかしの、我が国だけではカブラギ殿らを元の世界に帰してやることは難しくてのう」
「そりゃあ一体どういうことなんです?」

 加藤がグラス片手に話に加わる。

「うむ、あれから調べてみたのじゃが、主達をここへ召喚した魔法はのう、やはりあの
〝流星落とし〟同様に古代有翼人文明の遺産によるものじゃと思う」
「あの翼の生えた少女がか……」

 加藤が思い出す。

「じゃから、古代有翼人文明発祥の地として、その多くの遺産を保有しておる国の協力なりが必要じゃ」
「それじゃあ、その国にすぐに協力を要請しましょうよ! 遠い国なんですか?」

 ハミエーアは複雑そうな顔をした。

「……遠いのう、確かに」

 加藤は楽観的に彼女に言う。

「どこなんですか? その国」
「遠く、この海の向こうじゃ……」

 彼女はテラスの向こうに広がる海原を見つめる。
 そして、彼らに残酷とも言える事実を伝えた。

「古代有翼人文明の発祥の地にして、今はフィルボルグ継承帝国の帝都じゃ」

 自衛官達が絶句した。
 今、何と言った?
 幹部達が顔を見合わせる。

「すまぬ、カブラギ殿、仕方なかったんじゃ……」

 ハミエーアは、目を伏せた。
 と、加藤が明るい表情でその場の沈黙を破った。

「……どうするかは、まあ後にしましょうよ! 全くの打つ手なしと決めるにはまだ早い」

 はっとした表情でハミエーアが加藤を見た。
 にっこりと、いつもの飄々とした掴み所のない加藤の姿である。

「今は、祝いましょう!」

 加藤がグラスを掲げて見せた。
 彼は、その時、あの士官室に現れた少女の言っていたことを理解した気がした。

『あなた達に託すしかないのです……』

 加藤はもう一度グラスを掲げ、周囲に言った。
 彼女への、鎮魂の言葉のつもりで。

「ただ、平和を……!」

小説家になろう 勝手にランキング


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。