「俺の嫁」創作コンテスト

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2013年5月より開催した 「俺の嫁」創作コンテスト は、短い募集期間ながら60を超える作品のご応募を頂きました。作品応募頂きました方々及びコメントや評価を頂いた読者の方々、本当にありがとうございました。

応募頂いた作品は想定以上にレベルが高く、一次選考・二次選考ともに作品選別にはかなり悩む事となりました。特に受賞作決定にあたっては、審査員の間でかなり白熱した議論が展開されております。

協議の結果、最優秀作と次点作はいずれも高いレベルで甲乙つけ難いと審査員の意見が一致しました。このため『最優秀俺嫁賞』とは別に急遽『審査員特別賞』を追加設定させて頂いております。『最優秀俺嫁賞』には正賞並びに副賞を授与させて頂きますが、『審査員特別賞』にも審査員有志よりささやかな「寸志」を贈呈させて頂きます。

以下、『最優秀俺嫁賞』『審査員特別賞』各作品及び選評・賞金・賞品を発表させて頂きます。また最終選考に残った作品についても短評を掲載させていただきましたので、ぜひご覧頂ければ幸いです。

⇒ 「俺の嫁」創作コンテスト概要はこちらをご覧ください
※最優秀俺嫁賞及び審査員特別賞には各審査員による選評を掲載しています。
※一次選考通過作品には、upppi公式アドバイザー弓島(株式会社パピレス所属編集者)による短評を掲載しています。
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最優秀俺嫁賞
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 何の変哲もない日曜の午後。
先日7歳になったばかりの一人娘、凜香が居間で笑っている。
「そ~なの! でね、となりのせきのゆうや君がノートにうんこの『え』ばっかりかくんだよ~。きゃはは」
娘の言葉に多分妻は頷いている。とても穏やかに。…    
画像 ※受賞者へ後日別途ご連絡の上、副賞として
『iPad mini』『TENGA』『ルンバ』から希望する1品をご選択頂きます。
審査員選評
 直球純愛表現が光る。奇抜さ自体はないが一個の作品としてのクオリティが高い。ファンタジー要素が入った作品はわかりづらいことが多く、ショートには向かないのですが、この作品はシンプルな幽霊という題材と視点を一人称のみにしたことで分かりやすい作品に仕上げています。なにより読後感の良さはこの作品がずば抜けていました。
upppi公式アドバイザー弓島
 こんなふざけたコンテストで切ない系がくるとは想像していませんでした…数少ない、ネタに走らずストレートで勝負した作品。他のネタ系を押しのけて最優秀賞に輝いたのは、やはり読み手の心を動かす力が際立っていたからに他なりません。短編ながらも主人公の気持ちが痛いほどにビンビン伝わってきて、思わずホロリとしてしまいます。難点を挙げるとすれば、もう一捻りなにか意外性が欲しかったところでしょうか。そうすることで、「いい話」に留まらず、より心に残る作品になれたと思います。
株式会社パピレス販売担当:新堂
 主人公の温かい人柄が文章から滲み出ていて、その空気が作品全体を優しく包み込んでいる。そんな印象を本作には持ちました。厳しい字数制限の中で説明臭くなることなく設定を馴染ませ、読者を作品に引き込む技術はあっぱれとしか言いようがありません。 ただ一点、亡くなった奥さんが娘さん以外にも見えていたのでは?と感じてしまう表現が一部あった点が気になりました。人によっては、モヤモヤとした思いを抱えながら読み進めてしまうかもしれず、その部分のみ推敲の余地があるのではと思います。  ですが、多くの読者が主人公の思いに心を動かされ、幸せな読後感を味わうことができた。このことも考慮すれば、本作は大賞を名乗るに充分な作品だと感じました。
株式会社パピレス制作担当:狩屋
 獏としたテーマ設定で且つ字数が極めて制限されるコンテストで賞を狙うとなると、やはり設定やトリック・文体・或いはパロディ要素等、どこか一点で「インパクト勝負」をかけようというのは当然の心理であり、結果的に読み手を多少選んでしまうリスクを犯してもなお採用する価値のある戦術だと思います。仮に私が本コンテストに作品を応募するとしても、そうした手法を選択したことでしょう。  ところが本作はそうした「奇抜さ」に走ることなく、万人に受け入れられる、一歩間違えれば「ありきたり」と評されかねないストーリーを提示して「泣かせにくる」という正攻法で、一気にゴールラインまで読み手を押し出します。これはやはり、書き手の構成力・表現力が図抜けているからこそ可能な業ですし、また『俺の嫁』という「テーマをどうやって読者に心に響かせるか」を追求した結果だと思います。力量、完成度、テーマの消化、どの点をとっても受賞に相応しい名作です。
株式会社パピレス企画担当:毒島
メダル
審査員特別賞
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  え? 嫁の話をしてくれって?
 やだなぁ。僕みたいな学歴もなければ体力もない、貯金もなければ将来の計画もないフリーターが結婚してるわけないじゃないですか。
 違う? いわゆる「俺の嫁」ってやつの話?
 あー、そういうことですか。まぁ、それなら…  
作品テーマ・内容を鑑み、受賞者には審査員有志による出資で『TENGA』を贈呈予定です。
後日別途受賞者へご連絡させて頂き、先ずは贈呈可否をお伺いします
審査員の選評
 最後まで審査員を悩ませた問題作であり怪作。TENGAを賞品としたことを売りにしたコンテストに対して、きちんとその方向性で書ききり更に面白いと思わせたのはこの作品くらい。ネタ一つだけで終わらず更に組み合わせてもう一つひねりを入れたのはお見事の一言。「右手が恋人というのは果たして女性にもわかるのか?」審査員の中では身近な女性に聞いてみるという案も出る程の白熱した議論の末、なにかあげねばならないという審査員達の心は一つに。賞品、ご用意させていただきました。おめでとうございます!
公式アドバイザー弓島
 ちょっと噂で聞いたことあるレベルの下ネタであるマニュキア塗ってゴニョゴニョ…を、ここまで作品として昇華させた発想が素晴らしい。しかも利き手は器用だから「嫁」、反対の手は不器用だから「妹」とする表現の的確さには舌を巻きました。また、今回のコンテストの特色である「次元・性別・種族不問の嫁」というテーマへの答えとしても「自分の手」というのは見事な回答と言えましょう。
 激論の末に最優秀賞は逃しましたが、この非凡な発想力が今後どのような作品を生み出してくれるのか、期待しております。
株式会社パピレス販売担当:新堂
 「右手が恋人」というフレーズをここまで膨らませる感性の豊かさには脱帽しました。更に、書き手の力量によっては単なる書き足しに見えてしまう左手への話題転換もお見事です。
 しかし、発想の起点がそのフレーズであるがために、読み手を選ぶ作品であることも考慮しなければなりません。
 とはいえ、独自性・技量に関して言えばエントリーされた作品の中でも一際輝きを放っています。掌編小説としては1つの手本にしても良い作品だと思いました。
株式会社パピレス制作担当:狩屋
 一次選考を通過した作品の中で、読了後に「頭を抱えた」のはこの作品だけです。筆のブレーキ壊れてるんじゃないかと疑ってしまうくらい全力で下ネタに走っていますが、構成・表現・意外性どれもレベルが高く、なによりテーマ『俺の嫁』に対する分析と解釈が秀逸です。単にゲラゲラ笑うだけじゃなくて「大笑いしながら唸らされる」作品に仕上がっています。作品を構成する各要素がハイレベルであると推す私の左脳と、作品自体の印象に躊躇する私の右脳が、激しい葛藤に悩まされまし。
 今回惜しくも賞を逃す結果となりましたが、どうしても何かの形で表彰させて頂きたく、今回追加で「審査員特別賞」を設定させて頂きました。賛辞と共に、審査員の財布からTENGAを贈呈致しますので、ご家庭が惨事にならないようであれば是非お受け取り頂ければ幸いです。
 余談ですが、同じく一次選考に残った『僕とユリ。』という作品を読了した後に本作を読んで頂くと、全く異なる印象を受けるものと思います。ぜひお試しください。
株式会社パピレス企画担当:毒島
審査員によるコンテスト総評
 upppiユーザーの技量は時を経るごとに上がってきている傾向にあるということが感じられるコンテストであったと感じられました。
 「俺の嫁」という題材一つだけで実に様々な作品が投稿されたことからもそれはよくわかることでしょう。ショートショートという作品形式は、その文字数から簡単に見えて実に奥が深いものです。ちょっと筆が滑ってしまえば容易に規定を超えてしまう中で、如何にして話としての形を作っていくのか。ここは筆者のセンスと力量が求められる部分だったのではないでしょうか。
 残念ながら受賞を逃した『地の底の楽園』は、今回の作品中のSFというジャンルでは群を抜いていた作品だと思います。わかりやすい例で言えば、藤子F不二夫のSF短編作品や手塚治虫作品を髣髴とさせるブラックな世界観と語り口は、作者の意図が見え非常に惹きつけられました。惜しむらくはSFに得意でない人間への配慮がやや足りなかったのが残念でなりません。
公式アドバイザー弓島
 「次元・性別・種族不問の俺嫁」。このテーマに相応しい作品が数多く投稿されたと思います。発想力勝負のようなコンテストなので、どの作品もなにかしらの捻りを入れてあり、楽しく読ませていただきました。もっと単純に二次元嫁が多いのではないかと予想していたのですが、投稿作品は予想に反して様々なタイプの「嫁」を描写しており、自分の世界が広がるのを感じました。
 抜群の変態度を誇る『花束を俺に』から、ギャグと勢いだけで突き進む『みちこ>ハンバーグ』、はたまた完全にホラーになっている『僕とユリ。』等、実にカオスでバラエティ豊かでした。ただ、一発ネタに走りすぎて「もう一捻り欲しい!」と思った作品が多いのも確かです。これはショートショート故の難しさでもあるのですが、特別賞の『嫁の右手と妹の左手』は、それを乗り越えて評価された形です。
 今回はショートショート限定の企画ではありましたが、面白いネタを持っていることから中・長編を読んでみたいと思わせる作品も多く、参加された方の今後に大いに期待しております。
株式会社パピレス販売担当:新堂
 幅広い解釈ができるテーマでSSを募集し、普段「読み専」としてupppiをご利用の方にも気軽にコンテストに参加していただきたいという思惑もあった今回のコンテスト。結果、多くの方に初投稿・初エントリーを体験していただけて大変嬉しく思います。 作品の選考に関しては良質な作品が多く、この中から1作品だけを選ぶという苦行に審査員全員が唸り声を上げていました。
 最終的に特例として2作品に賞を差し上げる形となりましたが、限られた文章量に「BL」「江戸」「筋肉」「猫」など筆者の愛がふんだんに詰め込まれ、尚且つそれが綺麗にまとまっていた『道ならねど』も面白い作品だったと思います。
 また、コメント欄でのやり取りを参考に改訂を行ったことにより、とても深みのある作品に変貌を遂げた『金の斧銀の斧』には驚かされました。是非皆様も積極的な意見交換によって作品を磨き上げていただければと思います。
株式会社パピレス制作担当:狩屋
 「ショートショートのコンテストを開催しましょう」という話が会議のノリと勢いで『俺の嫁コンテスト』になり、更に賞品ラインナップがなぜか「iPad」「ルンバ」「TENGA」と決まった時には、最悪の場合応募作ゼロまであると覚悟しておりました。
 蓋を開けてみれば、約1ヶ月で60を超える作品エントリー。そのクオリティも想像以上のものでした。ご参加頂いた方々には感謝の言葉しかありません。
 エントリー作品の中で、受賞作以外では個人的に『金の斧銀の斧』(著:あやと)に注目しておりました。本作品は投稿から約1ヶ月の間、読んでくれた人の感想や指摘に助けられ、実に9回もの加筆・修正が行われ、その都度クオリティが向上しています。作品ページでは各バージョンが全て公開されていますので、ぜひ読み比べてみて欲しいと思います。
 今後upppiは、「色々なジャンルやレベルの人が」「必要なら誰かの助けを受けながら」「気軽に創作できる/創作に参加てきる」場を目指して、様々な企画・コンテストを引き続き実施予定です。今後とも、ぜひupppiへのご参加を宜しくお願い致します。  
株式会社パピレス企画担当:毒島
一次選考通過作品
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 以下、惜しくも賞を逃した優秀作品について、upppi公式アドバイザー弓島(株式会社パピレス所属編集者)による短評を添えてご紹介致します。
※作者名は投稿当時のものを表示しております
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    選評
    ネタとアプローチ、読み進めやすさはコンテスト作品の中でも上位に入る。最後まで読むのを飽きさせないだけでも価値がある。規定を外さずに想定外の形を書いているのもよい点。作者の顔が見えるというのは、既に個性でしょう。個性を殺すことなく、物語に深みをつけることが出来れば更に高みに登れると思います。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    コメント欄でも言われている通り、世にも奇妙な物語。ホラー小説として俺の嫁を題材によく書けていると思う。嫁本人が一度も出ないというのも、文字数を節約した上で話を成立にさせるのに一役買っている。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    今回俺の嫁は右手というネタで書いた作品が二つあり、コメディエッセイとホラーに分かれたというのが面白い。こちらは正統派不条理ホラーとして非常に質の高いものとなっている。二回読み返したくなるギミックと構造は筆者の技量を感じさせる。惜しむらくは「俺の嫁」という言葉の強さを出せなかったことだろう。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    ショートショートとして、完成度が高い。気軽に読めて、楽しさのある作品となっている。こういった話は落語と同じくテンポが命なので、文章のリズムを意識すると更に良くなるでしょう。初稿と比べて格段に良くなった点は、筆者の努力が垣間見える。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    最後まで詰まることなく読ませることは、ショートショートにおけるまず大前提。そこが出来ているのは筆者が地に足の着いた文章が書けているからでしょう。しかし、題材自体は使い古されているものなので今のニーズに合わせるのならひねりをあと二つは入れないといけないかと思います。そこをクリアした先にはより洗練された作品が生まれるでしょう。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    時代がかった語り口はこの作品の味になっているのと同時に、ある種の人への敷居の高さにも繋がってしまったのでは。言葉選びをもっと洗練させることで、慣れない読者にもアピールできる作品になると思う。嫁の存在がアレというのも、このコンテスト自体を表していて非常に好感が持てる。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    正統派SF。まさに「彼女をつくる」という言葉を実行している。「嫁」を切望するその想いと退廃した世界観。手塚治虫や藤子F不二夫のSFブラック短編を思わせる空気は非常に心地がいい。しかしSFの素養がある人と無い人で捉え方が変わりやすいのだけが難であった。これを更にSFを読まない層に合わせようとすると本質が壊れそうな気がする。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    導入からの流れはよくあるネタであるのだが、オチが秀逸。オタネタ自体が多く提出されるだろうことを見越した、非常に風刺が効いたラストは面白い。あとはそこまでの見せ方の部分にひねりを入れるとショートショートとして更に映えるでしょう。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    今回の少ない文字数内に収めた上で、きちんと起承転結をつけて落とす手腕は見事。インタビュー形式から入るという一風変わった導入も、読者の注目をひく結果に繋がっているので良い。ただ、「俺の嫁」という概念には他作品より遠くなってしまったのが残念でならない。ショートショートコンテストであれば可能性は十分にあったろう。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    一人称の文章から、主人公のメンタリティが見えてくる。設定を羅列したりせずに語り口からキャラが見えてくるというのは、話のボリュームの問題をクリアするだけでなく読者に想像の喚起をさせることに繋がり良い結果となっている。また、同じく想像の喚起として直接的な描写をすることなく、セクシャルな想像を読者がするように向けているのは作家の意図が身を結んだ結果と言えよう。この流れで作るのならば、主人公の愛の「爆発」をより強調もしくは発展出来れば更に高みにいったのではないだろうか。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    今回募集した文字数内で、ここまでキャラクターの印象が非常に濃いものは少ない。これは言葉のやりとりに重点を置いた技法によるもの。戯曲を思わせる手法は上手い。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    この文字数でライトノベルの形になっている点は、作者の力量を感じさせる。また、自分が評価したいのは導入の良さ。雰囲気を数行で出して、こういう作品ですよと読者を作品内に誘導できている。ここまで出来ると、読者に作品を最後まで読ませるレールにも乗せやすい。

    公式アドバイザー弓島

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    選評
    絡め手、文章力はあるのだけど意外性が薄い。意外性以外逆にないネタなので、そこが惜しい。語り手の語り口で勝負をしているところは、十分成立してるのでよし。コンテスト内という環境だからこそ面白いという、ターゲットを絞り込んだ形の作品はほかの形で開くとまた面白いものになるかもしれないという可能性を見せてくれた。

    公式アドバイザー弓島