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「モンスター」百田尚樹

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「モンスター」百田尚樹(2010)☆☆★★★[2010045]
※[913]、国内、現代、ミステリー、ホラー、サスペンス、整形、醜女

鄙びた田舎町にある日突然現われた、東京からやってきた美しい女性、美帆。亡き友人が自慢していた郷里の町に、瀟洒なフレンチレストランをオープンした。田舎にしては高めの料金設定であったが、評判の美女を一目見ようと、男性のみならず、女性をも美しさで魅了し、入客には困らなかった。
絶世の美女・美帆の正体は、実はこの町でかつて「モンスター」と呼ばれるほどに醜い少女・和子だった。高校時代、思い悩んだ末、ある事件を起こし、追われるように東京に移り住んだ和子であったが、その醜さから短大を卒業しても就職もままならず、貧しい生活を送っていた。そんな和子の運命を変えたのが整形手術だった。顔が変わっていく度に、周囲の様子が変わっていく。手術を繰り返す和子は、信頼できる整形医の手により、ついに完璧な美の姿を手にいれる。
そのとき思い浮かんだのは、幼い頃から蔑まれ、疎まれた郷里の町に住んでいた初恋の相手だった。
美帆の店ではかつて和子を虐げた男性たちがあの醜い和子だと気づかぬまま、掌を返すように美帆を賛美する。そうしたなか、美帆はかつて自分を傷つけた男たちに復讐を行なっていく。
いっぽう、待ちわびていた初恋の相手はなかなか店に現れなかった。しかしある日、その相手が店に現れた・・・。

正直、間違えて読んでしまった。以前より言っていることだが、ホラーは嫌いだ。カバーのマネキン人形の写真だけで後悔した。この作家、最近映画化された「BOX」をはじめ、評判のよい作家のようだ。今まで読んだことはなかったが、図書館の新刊リストにその名を見かけ、中身をチェックしないで予約してみた。評価の高い安全な作品から読めばよかったと後悔。読み終えてみても、女性の厭らしさ、男性の浅はかさがこれでもかこれでもかと書かれているだけの作品。何も得るものもなく、読んでいて楽しくもなかった。ただ苦行のように活字を追った。

何がつまらないのか。それは主人公もまわりの人間も誰も成長しない物語であったこと。ただ「醜い女性」とその周囲にいたひとの悲劇を書いただけの作品。あるいは浅はかな薄っぺらな人間の姿を綴っただけ。こういう話は昔の少女向け恐怖マンガによくあった。本書は最後を綺麗にまとめたが、そういうマンガの常は、最後は美しく「造られた」顔は崩れてしまう。本書も中途半端な綺麗さでまとめるより、そちらのほうがよかったかもしれない。結局、人間として尊重される何かがまったく存在しない小説を書き上げ、作家は何を伝えたかったのだろうか。

世の中に、本当にすべての人間を魅了するような「美」は存在するのだろうか。個人的にはまずそこが疑問。
作品のなかで作家は「美」の基準について、整形医の言葉を用いて事細かに語る。貧しかった昔はひとつの基準としての「美」があった。しかし豊かな時代に於いて「美」が多様化しているように見える。しかし、そこにも基本として一定の枠があり、それを超えるものではない。端的にいえばそれは平均的なものである。完璧なバランスで造られた物より、すこしアンバランスな部分があるほうが人間的な「美」を感じる。
「美」の概論としては、面白く、たとえばそれはミッフィーの顔のバランスを論じる論に似て頷けないこともない。しかし、本当にすべてのひとが美しいと認識する「美」はあっても、すべてのひとが魅了されるような「美」はあるのだろうか。そこに少しひっかかる。

いや、この作品の場合、作家の「美人」に対するスタンスがはっきりしないことが作品を分かりにくくしている。整形という人工美であれ、そういう美人を認めたいのか、あるいは外見ではない心の美しさを認めたいのか、それがはっきりしない。作家がどちらのスタンスに立って作品を書いているかぼくにはよく分からない。
本書では、醜い姿の少女は決して素晴らしい心を持っているわけでもなかった。ただおどおどと卑屈なだけ。そうかといって美しくなった彼女とて、決して褒められた心を持つわけでもない。作品では美醜の区別のつかない頃の幼い初恋を大事にすることが描かれているが、それが素晴らしいこととして書かれているのかどうかも判断がつかない。
彼女を取り巻くひとびとの関心も、彼女の美しさであり、あるいははかつての彼女の醜さだけを取り上げているだけで、人の評価が外見にのみ偏っている。決して人の中身を見てはいない。

女性の美醜にのみ拘る現実を作品に映すことを目的に作家が本書を書いたのかもしれない。問題提起としての作品。それは短大の講師がかつて醜い和子の前で語った、ひとは外見だけではないと言葉が、言葉だけでしかない様も、本書がひとの外見をのみ評価することの顕れのひとつかもしれない。しかしもしそうした問題提起ならば、もっと普遍的な社会性をもって書いてもらわなければ困る。美醜の判断はとても主観的で個人的の問題である。また美醜で判断される側についても、その外見だけを取り上げるのでなく、その人間をとりあげるべきだろう。
結局、作家のスタンスがはっきりしないことから、本書はただおもしろおかしく女性の外見問題を捉えただけの作品になってしまったような気がする

なお、それより本書が「お伽噺」にせよ、実際にこんなに整形手術は重ねられるものなのだろうか?それは時間であり、お金も、である。
主人公が風俗で稼ぐ様が書かれるが、これは必要だったのだろうか。風俗の描写が事細かに綴られるが、この経験が主人公に何か影響を与えたとも思えない。いっそお金のほうは、宝くじで一等を当てたくらいのほうがよかったのでは?そのほうが、時間的にもまとめて手術ができるような気がする。

久々に、読んで後悔するような作品に出会った。


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閉じる コメント(2)

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通りすがりです。評価の高いレビューばかりで、ようやく共感出来る感想に出会えました。全く同感です。長さの割りに読みごたえの無い話でした。 削除

2013/5/7(火) 午前 1:16 [ 通りすがり ]

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ええ?この作品、評価高いんですか?ぼくが読書仲間の友人につまんないと言ったら、これはダメだって言ってましたけけど・・。ま、感じ方が人それぞれですが、共感いただきありがたいです。

2013/5/7(火) 午前 10:26 すの

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