罰を与えれば、バカな若者は冷蔵庫に入らなくなるのか

2013/08/08


またまた、ツイッターの炎上案件について。これは興味深いテーマで、まだまだ書きたいことがあります。

おバカな従業員は「安さ」の代償

冷蔵庫に入って炎上する「おバカな若者」たちは、「誰のせい」で現れた?

2013年、「盗んだバイクで走り出す若者」たちは炎上して社会的制裁を受ける


罰を与えれば、モラルは回復する?

この手の問題を解決するために、一部の方は「罰を与えればよい」と考えているようです。ツイッターでは、

・契約時に損害賠償請求に関する文言を盛り込み、制裁を加える
・愚行は社会的に非難され、罰せられることを理解させる

なんて意見を頂いております。


個人的には、この種の罰則アプローチは、危険な考えだと思います。

その理由はシンプル。善悪の判断と、罰則の有無を結びつけて考えることを、若者に刷り込ませることになるからです。


平たくいえば、「罰があるから、やってはいけない」という論理は、「罰がなければ、やってもいい」という論理を導き出します。

しかし、世の中はそんな簡単に、罰と善悪が結びついているわけではありません。罰と善悪を結びつける論理からは、「脱法ハーブは善いのか、悪いのか」「戦時中に人を殺すのは善いのか、悪いのか」「電車の中で化粧をするのは善いのか、悪いのか」といったグレーな問いに対して、十分な答えを出すことができません。

ぼくらには法律を犯す自由がある」でも書いた通り、時には善いことをするために、法律を破って罰を受けることもあります。法律はそもそも何か問題が起こったあと、事後的に制定されるものですし、善悪の絶対的な参照元にはなりえないのです。


ペナルティによって行動をデザインしようとすると、社会は次々に罰則を制定する必要が生じてきます。

たとえば、「契約時に損害賠償請求に関する文言を盛り込み、制裁を加える」ことによって、冷蔵庫に入るバカな若者は根絶できるかもしれません。

しかし、彼らは罰則が及ばない空間(学校、地域社会、友人・家族間)において、愚かな振る舞いをする可能性を根絶することはできません。たとえば「飲酒運転と違って罪にはならないないし、脱法ハーブを吸って車を運転するのはOKだ」など。

本当に必要なのは、罰則の有無にかかわらず、何が善くて、何が悪いかを自律的に判断する能力です。いわゆる「倫理観」というやつです。


道徳と良心、道徳と倫理

フォロワーの方から教えていただいたのですが、芥川龍之介の「侏儒の言葉」にはこんな一節があるそうで。

道徳の与えたる恩恵は時間と労力との節約である。道徳の与える損害は完全なる良心の麻痺である。

芥川龍之介 侏儒の言葉

ここでいう「道徳」は、たとえば「人に迷惑をかけてはいけない」といった、外部から押しつける善悪の規範と考えられるでしょう。それを教え込むことによって時間と労力は節約できますが、自律的に善悪を判断する能力(=良心)は麻痺していく。


池田晶子氏は、道徳と倫理を区別して考えています。

たったのひとこと、倫理とは、自由である。そして道徳とは、強制である。あるいは、倫理とは自律的なものだが、道徳とは他律的なものである。倫理的行為は内的直観によって欲求されるが、道徳的行為は、外的規範を参照して課せられる。


「罰を与えられるからやってはいけない」という外部の規定が「道徳」、「罰の有無に関わらず、やってはいけないと自分が判断するから私はやらない」という内部的な規定が「倫理」ということです。

「道徳」は確かに表面的には問題解決につながりますが、善悪感覚が陶冶されないので、結局どこかでツケが回ります。

道徳を大切にする人は、外部の規定が存在しない問題に直面したときに、絶句することになります。

倫理を大切にする人は、常に自らの判断を行うことができます。そういう意味で「自由」なのですね。


冒頭の問いに戻りましょう。「罰を与えれば、バカな若者は冷蔵庫に入らなくなるのか」?

「冷蔵庫には入らなくなるだろうが、罰則規定が及ばないところ(学校、地域社会、家族・友人間)で、相変わらず問題を起こすだろう」

というものが、ぼくがもっている答えです。これは、実際かなり正しいのではないでしょうか。


倫理観を磨く教育を

では、どうすればよいのか。迂遠な答えになってしまいますが、結局大切なのは教育なのでしょう。

特に大切なのは、法律によらない、個人的な善悪感覚を陶冶することです。

具体的にいえば、「なぜ人を殺してはいけないのか」「売春はなぜいけないのか」「宇宙はなぜ存在するのか」「電車のなかで化粧をするのは悪いことなのか」といった、「善悪や存在にまつわる答えのない問い」に向き合い、対話する時間を用意することでしょう。ありきたりな表現ですが、答えが用意されたテスト勉強のようなものばかりでは、倫理観は養われません。

「道徳」という科目がありますが、お仕着せのルールを教えるのではなく、自らの意思と思考で、善悪について考えることが大切です。そういう知的鍛錬を積んだ人間は、どんなシーンでも、結果的に道徳的に振る舞うことができるようになるでしょう。


関連本はこちら。このテーマに関していえば、もはや課題図書です。こういう本を多くの子どもたちが読むようになれば、おバカな振る舞いもなくなっていくのでしょうけれど…。

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