世界的に医学研究に使われるヒト細胞株「ヒーラ細胞」について、米ワシントン大の研究チームが全遺伝情報(ゲノム)を解読、解析した成果を8日付の英科学誌ネイチャーに発表した。
ヒーラ細胞は1951年に米メリーランド州の病院で死去したヘンリエッタ・ラックスさん=当時(31)=の子宮頸(けい)がん組織から採取された。試験管内で培養して増やせる最初のヒト細胞株だったため、ポリオワクチンの開発をはじめ、医学の発展に大きく貢献した。
ゲノム解析の結果、子宮頸がんの原因であるヒトパピロマウイルス(HPV)のDNAが組み込まれていたほか、さまざまな変異が明らかになった。ヒーラ細胞を使った実験で遺伝子解析をする際、ゲノム情報を利用すればより正確に評価できると期待される。
ラックスさんはアフリカ系米国人で5人の子供の母親だった。がん細胞の採取は当時、本人や家族に無断で行われていた。今年3月に欧州分子生物学研究所(EMBL)の研究チームが最初にゲノム解読データを論文発表した際、批判の声が上がり、同チームは取り下げた。
ワシントン大の研究には米政府機関の国立衛生研究所(NIH)が研究費を拠出しており、NIHがラックスさんの遺族からゲノムデータを研究者に提供する同意を得た。提供の可否を審議する作業部会にも遺族代表2人をメンバーに迎えた。