日銀は現状維持へ、年度内の緩和期待は後退-来年4-6月主流に (1)
8月7日(ブルームバーグ):日本銀行は7、8の両日開く金融政策決定会合で、政策運営を現状維持とする見込みだ。足元の経済・物価が日銀の想定通りに進んでいることもあり、今年度内の追加緩和期待は後退。市場の関心は来年度以降の経済、物価情勢に移りつつある。
ブルームバーグ・ニュースがエコノミスト26人を対象にまとめた予想調査では、全員が現状維持を予想した。メリルリンチ証券の吉川雅幸チーフエコノミストは「消費者物価は日銀見通しの前年比0.6%上昇を達成するパスに乗り、為替・長期金利はレンジにあり、今回は現状維持だろう。海外情勢が予想外に悪化しなければ、10月に追加緩和がある可能性は低くなってきた」とみている。
追加緩和予想時期は年内が5人、来年1-3月が6人、消費税引き上げ後の来年4-6月が9人と最多。来年7月以降、ないし追加緩和なしとの回答が6人だった。来年4-6月予想の大和証券の野口麻衣子シニアエコノミストは「年度内はシナリオを大きく変える事態には至らない可能性が高い」と指摘。今後の焦点は「来年度に向けた賃上げの動きの有無や消費税の引き上げを受けた景気動向となろう」としている。
SMBC日興証券の岩下真理債券ストラテジストは「12日発表の4-6月実質国内総生産(GDP)成長率は内需主導で前期比年率3%台が見込まれている。また、円安による輸入物価上昇にとどまらず、耐久消費財の下げ止まりや猛暑による物価高も生じ始めており、価格転嫁の動きが広がる可能性は出てきた」と指摘。「2013年度の成長率は上方修正、物価上昇率は日銀予想に近づく可能性はある」とみる。
コアコアCPIも改善日銀が7月の中間評価で示した13年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)前年比上昇率の見通し(委員の中央値)は0.6%上昇。6月のコアCPIは0.4%上昇と1年2カ月ぶりにプラス圏に浮上した。シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミストは「コアCPIはエネルギー価格の寄与度の拡大を主因に、8月にはプラス0.7%まで加速する」と予想する。
野村証券の松沢中チーフストラテジストは「生産は堅調な回復ペースを維持しており、物価も原油高のせいでほぼ想定通りに上昇、コアコアで見ても緩やかに改善している。日銀が景気・物価判断を修正する理由は今のところ見当たらない」と指摘する。
食料(酒類を除く)およびエネルギーを除く総合、いわゆるコアコアCPIは今年2月の0.9%低下から、6月は0.2%低下へと急速にマイナス幅を縮小している。農林中金総合研究所の南武志主席研究員は「13年度内の国内景気は堅調に推移、それに伴って年度末には物価上昇率も1%前後まで高まる」と予想する。
問題は14年度以降の景気・物価松沢氏は「米国が強制歳出削減の影響が出ているにもかかわらず、景気が再加速し始めている気配があり、QE3(量的緩和第3弾)減額開始による米国債金利の上振れと、日本国債金利の連動をどう抑えるかが当面、日銀の関心事だろう」と言う。問題は消費税率が引き上げられる14年度以降だ。
日銀の14年度のコアCPI見通しは、消費税率引き上げの影響を除き1.3%上昇。15年度が1.9%上昇。伊藤忠経済研究所の丸山義正主任研究員は「13年度はおおむね日銀想定通りで推移するも、14年度以降の物価見通しは下方修正リスクが大きい」と指摘。「2年という短期で、長期のデフレにより抑圧された経済主体の物価予想がインフレ率2%を安定的に達成できるほどに高まるとは考えにくい」と言う。
南氏は「14年度に予定通り消費税増税が実施されれば、国内景気は足踏みを余儀なくされ、物価上昇圧力も一服。15年度半ばにも消費税増税が待ち構えており、2年で2%程度の物価上昇率の達成は厳しい」と指摘する。UBS証券の青木大樹シニアエコノミストは「来年1月以降、見通しとの乖離(かいり)が出始め、あと1年程度で2%を見通す必要がある来年4月には、さらなる緩和を決断するだろう」とみる。
消費税引き上げが緩和の引き金に足元では、来年4月からの消費税率引き上げの最終決定をめぐり、慎重論も出始めている。東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは「黒田総裁は記者会見で、消費税引き上げを予定通り実施すべきと言及すると予想される。金融政策がフィスカルドミナンス(財政による支配)に陥らないようにするには、日銀は政治家や国民に財政再建の重要性を主張し続けていく必要がある」と指摘。
その上で「仮に消費税が4月に引き上げられる場合、駆け込み需要の反動減を和らげるために、政府は消費テコ入れ策を補正予算などで組むだろう。それに合わせて、日銀にも追加緩和策が要求されるだろう」としている。
日銀の黒田東彦総裁は7月29日、都内で講演し、2014年4月から2度にわたり予定されている消費税率引き上げの影響について「日本経済の成長が大きく損なわれるということにはならない」との見方を示した。
内閣官房参与の浜田宏一米エール大学名誉教授は7日、ブルームバーグ・ニュースの電話インタビューで、消費増税がアベノミクスの効果を抑制する重大なリスクもあると指摘。消費増税で景気に影響が出始めたら、日銀は追加緩和の用意をすべきだと述べた。
日銀ウオッチャーを対象にしたアンケート調査の回答期限は5日午前8時。調査項目は、①今会合での金融政策予想②追加緩和の予想時期 ③日銀当座預金の超過準備に対する付利金利(現在0.1%)の予想④コメント-の4点。
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更新日時: 2013/08/07 11:33 JST